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第97話 白銀の学び舎

挿絵(By みてみん)


 無数のフラッシュが、まるで嵐のように瞬き続けていた。


 魔法学院の記念すべき第一期生・入学式会場。そこは何十、何百という世界中のマスコミ関係者が押し寄せる、異様で熱狂的な空間となっていた。


 会場の最前列では、アメリカ合衆国大統領であるクローバーが、満面の笑みで一人の少女と固い握手を交わしている。先日の事件で世界的英雄となった、わずか8歳のアリス・ハワードだ。大統領は彼女の目線に合わせて身をかがめ、「君はアメリカの誇りだ」と惜しみない賛辞を贈っている。

 そこから少し離れた場所では、クライ国の大統領ヴォロディンが、同国出身のニコラ(14歳)の肩を抱き、母国語で親しげに談笑していた。


 華やかなニュース映像として全世界に生中継されているこの光景。しかし、その裏側はドロドロとした欲望の渦だった。

 大統領たちは自国から選ばれた規格外の才能を、「国家の強力な兵器」「外交の最強の手駒」としてどう利用するか、腹の底で黒い計算を巡らせている。マスコミの熱狂に紛れ、会場のあちこちには各国情報機関のエージェントたちが潜り込み、激しい探り合いを行っていた。

 日本の総理大臣も来賓として同席し、カメラに向けて愛想笑いを浮かべているが、完全にアメリカとクライ国の圧倒的な勢いと政治的プレッシャーに飲まれ、顔を引きつらせている。


 そんな各国のトップが静かな火花を散らす異様な熱気の中、第一期生の座席で完全に顔面を蒼白にしている者たちがいた。

 佐藤健一(35歳・元スーパー店員)と、九条蓮(18歳・元引きこもり)をはじめとする、日本の「一般人枠」の生徒たちである。


「……九条くん。俺、とんでもない所に来ちゃったかもしれない……」


「さ、佐藤さん……俺もです。なんなんですかあの席の人たち……テレビでしか見たことない首脳陣ばっかりじゃないですか……っ」


 昨日までレジ打ちをしていた男と、自室のパソコンと向き合っていただけの青年である。目の前で繰り広げられる国家規模のスケール感と、マスコミの容赦ないカメラの砲列に、彼らは極度の胃痛と恐怖でガタガタと震え上がっていた。


 ざわめきが頂点に達した、その時だった。


 壇上に、一人の男が姿を現した。魔法学院の理事長である、源田壮一郎だ。

 源田がマスコミの砲列と、最前列でふんぞり返る各国の首脳陣を一瞥し、鋭く冷徹な視線で睨みつけた瞬間――ピタリと、フラッシュが止んだ。

 会場の空気が一瞬で凍りつき、水を打ったような完全な静寂が落ちる。


 マイクの前に立った源田は、第一期生の30名に向けて、そしてその背後に座る国家元首たちへの明確な牽制を込め、重く、底冷えのする声で訓示を始めた。


「新入生諸君、魔法学院へようこそ。理事長の源田壮一郎だ。今日、この歴史的な場に集ったお前たち三十名は、年齢も、国籍も、これまでの生い立ちも全く異なる。だが、たった一つだけ共通していることがある。それは、既存の物理法則を凌駕し、世界を根底から覆すほどの『規格外の力』を、その身に宿す可能性を秘めているということだ。


 見渡してみろ。この会場には何百というマスコミが押し寄せ、各国のトップが顔を揃えている。表向きは、次世代の希望を祝福する華やかな式典だ。だが、その裏でうごめいているのは、薄汚い欲望と打算でしかない。お前たちを国家の強力な兵器として、あるいは都合の良い手駒として利用しようと、各国の情報機関が血眼になって品定めをしている。それが、お前たちがこれから直面する現実の世界だ。


 我々はこれから、授業を通じてお前たちに本物の魔法を授ける。……だが、決して勘違いするな。我々が与えるのは、人を殺めるための兵器でも、己の私腹を肥やすための道具でもない。


 もし、この学院で得た力を使い、法を犯し、己の欲望のために他者を踏みにじるような真似をした者は――直ちに、その身に宿る魔法を根こそぎ剥ぎ取る。骨の髄まで沁み込んだ魔力回路ごと、完全に、だ。


 そして、これは学生に向けただけの言葉ではない。もし、国家ぐるみでお前たちを軍事利用しようと企て、強引に力で従わせようとする愚かな国があるのならば……我々は、その国そのものを敵とみなし、全力で叩き潰す。我々にはそれが可能であり、実行するだけの圧倒的な力があることを忘れるな。


 お前たちがこれから手にするのは、世界を救うことも、滅ぼすこともできる究極の刃だ。その重みを一生背負って生きろ。道を外れた者には、地の果てまで追い詰め、必ず制裁を下す。逃げ場はどこにもないと思え」


 それは教育者による歓迎の言葉などではない。絶対的な支配者から下された、恐るべき死刑宣告だった。

 背筋が凍るような殺気とプレッシャーを伴った警告に、一般生徒の佐藤や九条は呼吸すら忘れ、百戦錬磨の国家元首たちすらも額に冷汗を浮かべて息を呑んだ。会場全体が、源田という男の圧倒的な恐怖に完全に支配されていた。


 だが、その張り詰めた死の空気を、ふわりとほどく足音があった。

 とて、とて、とて。


 源田と入れ替わるように、校長であるヒミコがマイペースな足取りで壇上に上がってきたのだ。

 あまりにも場違いな、真っ白な髪の可憐な少女。各国のトップやマスコミが呆気にとられる中、ヒミコはマイクに向かい、コトンと首を傾げた。


「……ん。みんな、顔が怖い」


 ヒミコがそう呟いた瞬間、彼女の身体から眩いほどの白銀の光が溢れ出し、会場全体にふわりと降り注いだ。

 規格外の広域魔法『治癒ヒール』。

 優しく温かい光を浴びた瞬間、佐藤や九条たち一般生徒の胃痛が嘘のように消え去り、極度の緊張と恐怖がスーッと洗い流されていく。大統領たちの胸の内にあった黒い打算や焦燥感すらも、白銀の光が凪のように鎮めていった。


 静まり返り、誰もが祭壇の上の女神を見上げるような目でヒミコに釘付けになる中、彼女はいつも通りのフラットで純粋な声で告げた。


「……魔法は、怖いものじゃないよ。誰かの悲しいお掃除をするためのもの。だから、みんなで一緒に、優しい魔法のお勉強をしようね」


 そのたった一言。打算も、政治的思惑も、悪意も一切存在しない純度100パーセントの言葉が、源田が作り出した恐怖の空気を一瞬で温かく包み込み、浄化してしまった。

 それは、どんな強大な国家権力よりも絶対的な、究極の庇護の宣言だった。


 数秒の静寂の後。

 最前列に座っていたアリスが、ポロポロと涙をこぼしながら力強く立ち上がり、拍手を送った。それを皮切りに、佐藤も、九条も、各国のトップたちも、そして何百人というマスコミ関係者までもが立ち上がり、会場全体から割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。


 政治や国家の枠組みを超えた「絶対的な聖女」の導きのもと。

 ここに、世界中が刮目する魔法学院の、第一歩が踏み出されたのだった。



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