表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/124

第96話 日米の狂騒と春のパンケーキ

挿絵(By みてみん)


 事件の翌朝。港区を、いや日本中を恐怖のどん底に陥れていた「連続幼女誘拐殺人事件」の犯人が逮捕されたというニュースが、大々的に報道された。


 警察の公式発表と、マスコミ各社が一斉に報じたその事件の「結末」は、世間の予想を遥かに超える、あまりにも前代未聞なものだった。

 犯人がテレビ局のカメラマンに扮してヒール屋に侵入したという狡猾な手口。そして、その冷徹な知能犯を撃退し、顔面骨折の重傷を負わせて捕らえたのが――アメリカからの留学生である、わずか8歳のアリス・ハワードであったという事実。


 この信じられない報道に対し、連日ヒール屋へのバッシングで荒れ狂っていた日本の大型匿名掲示板は、凄まじい勢いで大爆発を起こしていた。


【速報】港区連続殺人鬼、8歳の幼女にボコボコにされて逮捕される【ヒール屋】


1:名無しさん@オカルト

ニュース速報見たか!? ヒール屋に潜入した犯人を倒したの、アメリカから来た8歳の女の子らしいぞ!!


12:名無しさん@オカルト

え、マジで? 護衛の黒服とかじゃなくて?


32:名無しさん@オカルト

は? 連続猟奇殺人鬼が、8歳の幼女に返り討ちにされた?w どんなギャグ漫画だよ。


45:名無しさん@オカルト

アリス・ハワードちゃんって、あのアメリカのIT長者の娘だろ? 魔法の才能で日本に特別留学してきたって、前にニュースでやってたあの子か。


66:名無しさん@オカルト

テレビ局のスタッフに紛れ込んで潜入って、そこまでは知能犯っぽくて映画みたいだったのにな。まさかお留守番してた幼女にワンパンされるとは。


88:名無しさん@オカルト

おい、警察の発表資料よく見ろ。アリスちゃんが使った魔法、「ウサギのぬいぐるみ」って書いてあったぞww どんな魔法だ?


102:名無しさん@オカルト

物理攻撃魔法(ウサギ型質量兵器)


125:名無しさん@オカルト

想像してみろよ。自分を救世主だと思い込んでるイタいサイコパスが、ドヤ顔でナイフ構えて部屋に突入したら、8歳の女の子が抱きしめてたぬいぐるみ凄い勢いで飛ばしてきて顔面陥没だぜ?


156:名無しさん@オカルト

犯人ダサすぎワロタ。イキり散らしてた知能犯がウサギミサイルで顔面骨折とか一生の恥だろw


180:名無しさん@オカルト

これ刑務所入っても絶対イジメられるやつだ。「お前何やって捕まったの?」「……ウサギのぬいぐるみで顔面を……」って答えるんだろ? 泣けるわ。


210:名無しさん@オカルト

昨日の死者蘇生に続いて、物理最強の幼女。ヒール屋の戦力どうなってんの……。


235:名無しさん@オカルト

ゲンさんが生放送で余裕ぶっこいてた理由が完全に理解できた。そりゃあんなチート集団、小手先のナイフでどうにかなるわけねーわ。


270:名無しさん@オカルト

今までヒール屋叩いててすいませんでした! 手のひらドリルさせてもらいます! ヒール屋は日本の治安維持に必要不可欠です!


301:名無しさん@オカルト

犯人の「汚れた世界から解放する」とかいう声明文、今見るとめちゃくちゃ恥ずかしいな。お前が一番薄汚い泥まみれじゃねーか。一生地下室でウサギの影に怯えてろ!


 犯人の底知れぬ悪意と肥大化したプライドは、ネット民たちのおもちゃにされ、木端微塵に粉砕されていた。


 一方、この狂騒は海を越え、アリスの母国であるアメリカにも瞬く間に波及していた。

 アメリカ初の魔法使いであり、異国で凶悪なテロリスト(連続殺人鬼)をたった一人で倒した8歳の少女のニュース。アメリカのSNSは、日本以上の熱狂と愛国心に包まれ、お祭り騒ぎとなっていた。


@US_News_Network

『Breaking: 8-year-old American girl Alice Howard takes down a serial killer in Japan using magic!(速報:8歳のアメリカ人少女アリス・ハワード、日本で魔法を使い連続殺人鬼を倒す!)』


@JohnDoe_TX

『Alice Howard is a true American Hero!!(アリスは真のアメリカの英雄だ!)』


@JaneSmith_NY

『信じられない! 彼女はたった8歳で異国のテロリストから身を守ったのよ! #MagicRabbit がトレンド世界1位になってるぞ!』


@MovieGeek_LA

『キャプテン・アメリカの次は、キャプテン・アリスのお出ましだぜ! マーベルは早くウサギのぬいぐるみを武器にするスーパーヒロインの映画を作るべきだ!』


@FreedomFighter

『日本の無能な警察の代わりに、我々のアメリカン・ガールが事件を解決してやったんだ! アメリカ万歳!』


@PatriotEagle

『あの子に大統領自由勲章(Presidential Medal of Freedom)を与えるべきだ! ホワイトハウスは今すぐ動け! 彼女は国の誇りだ!』


@MemeKing

『(※血塗られたナイフを持つ殺人鬼に、星条旗のマントを羽織った巨大なウサギのぬいぐるみがドロップキックをしているコラ画像)』


@NY_Mom

『本当に無事でよかったわ。8歳の女の子がどれほど怖かったことか……。でも、彼女の勇気は世界中の子供たちに希望を与えた』


@TechBillionaire_Dad

『My daughter is the strongest, and I am so proud of her.(私の娘は最強だ。そして私は彼女をとても誇りに思う)』


 父親であるハワード氏の投稿には数百万の「いいね」がつき、アメリカのニュース番組は「ウサギの魔法使い」の話題で持ちきりとなっていた。


          ◇


 しかし、世界中が熱狂の渦に巻き込まれているその頃。

 当のヒール屋のリビングでは、拍子抜けするほど平和で甘い時間が流れていた。


「あむっ……美味しいです、ヒミコお姉様」

「ん。シロップ、ついてる」


 世間がどれほど自分を「大統領自由勲章ものだ」「真の英雄だ」と騒ぎ立てているかなど露知らず。アリスは口の周りに少しメープルシロップをつけながら、ヒミコと一緒に焼きたてのパンケーキを頬張っていた。

 ヒミコが指先でアリスの口元を優しく拭うと、アリスはえへへ、と嬉しそうにはにかむ。


 そこへ、スマートフォンを握りしめたレイナが、バンッと勢いよくリビングの扉を開けて駆け込んできた。その後ろからは、レイナの勢いに呆れ顔の剣崎が続いている。


「アリスちゃん! 大変、大変! アリスちゃん、世界中で超有名人になってるよ!!」


 レイナは興奮気味にスマートフォンの画面をアリスに見せた。

 そこには、日本語と英語が入り乱れた無数の称賛の言葉と、ニュース記事が並んでいる。


「見てよこれ! アメリカじゃ、アリスちゃんに大統領から勲章をもらえるかもって大騒ぎになってるのよ!」


「……え? 大統領の、勲章ですか?」


 画面を見たアリスは、パンケーキのフォークを持ったまま、キョトンと首を傾げた。

 そして、スマートフォンの画面から視線を外し、隣に座っているヒミコを見上げて、ふわりと柔らかく微笑んだ。


「大統領の勲章よりも……私は、ヒミコお姉様にナデナデしてもらう方が、ずっと嬉しいです」


 その真っ直ぐで純粋な言葉に、レイナは毒気を抜かれたように「あはは、そっか」と笑い、後ろで見ていた剣崎も、ふっと口元を緩めた。

 ヒミコは静かに「ん」と頷き、アリスの金色の髪を優しく撫でる。

 アリスにとって、世界的な名声や称賛などどうでもよかった。大好きな人たちと一緒に過ごせる、この温かい居場所を守り抜けたことこそが、彼女にとって最大の報酬だったのだ。


 事件が完全に終結し、ヒール屋に向けられていた理不尽なバッシングも、手のひらを返したような称賛と感謝へと変わった。

 冷たく暗い泥色の悪意は去り、ヒール屋にはようやく、穏やかで暖かな春の陽射しが降り注いでいた。


 平和なティータイムの中、レイナがふと思い出したように口を開いた。


「そういえば……来週からいよいよ、魔法学院の入学式ね」


 その言葉に、アリスの黄金の瞳が期待にキラキラと輝いた。

 命がけの戦いを乗り越え、規格外の魔法をその身に宿した8歳の少女。彼女はダントツの最年少として、いよいよ年上の生徒たちと共に魔法を学ぶ、魔法学院の学生生活へと飛び込んでいくのだ。



少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、下の【★★★★★】と【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、執筆速度が爆上がりします。

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ