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第93話 死角からの悲鳴

挿絵(By みてみん)


 ヒール屋のリビングに、来客を告げる無機質なインターホンの音が鳴り響いた。


 レイナが玄関のモニターを確認すると、そこには数名のカメラクルーを従えた、テレビ局の看板アナウンサーである水瀬栞の姿があった。

 昨晩の生放送で見せたような、世間の怒りを代弁する強張った表情ではない。今の彼女の顔に浮かんでいるのは、抑えきれない興奮と、得体の知れない神の御業に対する深い畏敬の念だった。


 リビングに通された水瀬は、源田とヒミコを前にして深く頭を下げた。


「急な訪問となり、誠に申し訳ありません。本日は昨晩の生放送での非礼をお詫びすると共に……ネットやニュースで報じられている『死者蘇生』の奇跡について、どうか直接ヒミコ様へ取材をさせていただけないかと思い、参りました」


 テレビ局のクルーたちは、ヒミコをまるで本物の神を見るかのような畏まった目で見つめている。

 世間の空気が完全に反転した今、彼らは一刻も早くこの奇跡の真実を独占スクープとして放送したくてたまらないのだ。


「こちらはつまらないものですが、お詫びの品です」


 水瀬はそう言って、美しく包装された高級な菓子折りの箱を、両手で丁寧にヒミコへと差し出した。


 誰もが気を許してしまう、有名アナウンサーの真摯な謝罪の風景。

 しかし、レイナは先日の連続誘拐事件の凄惨さを思い出し、念のためにと、静かに自身の『心眼』を発動させた。


 次の瞬間、レイナは息を呑み、血の気が引くのを感じた。


 水瀬栞自身のオーラには、何の異常もない。彼女は心から謝罪と取材を求めている、ただの善良な一般人だ。

 しかし――彼女が無意識に両手で差し出している『菓子折りの箱』そのものから、吐き気を催すほどのどす黒い泥のような悪意が、ドロドロと止めどなく溢れ出していたのだ!


「ヒミコ、その箱を受け取っちゃダメぇッ!!」


 レイナの悲鳴のような警告が、静かなリビングに響き渡る。


 その声に、一切の予備動作なく反応した男がいた。

 壁際に控えていた剣崎だ。彼は腰の白き魔剣に手をかけると同時に、空間をスライドさせる転移魔法『空転』を一閃させた。


 ヒミコの目の前にある菓子折りだけが、まるで見えない断頭台にかけられたかのように、正確に真っ二つに両断される!

 パカッと割れた綺麗な包装紙の中から、カラン……と無機質な音を立てて、床に一つの物体が転がり落ちた。

 それは、金属探知機には絶対に引っかからない、暗殺用の鋭利なセラミックナイフだった。


「キャアアァッ!?」


 手元で突如として箱が割れ、凶器が飛び出してきたことに驚愕し、水瀬が悲鳴を上げて床に尻餅をつく。


 すかさず真壁が『絶対防御』の透明な盾を展開してヒミコの前に立ち塞がり、三上が指先に周囲を消し炭にするほどの異常な熱量の魔力を集め、いつでも水瀬を灰燼に帰せるように身構えた。

 そして、剣崎が冷徹な瞳で、腰を抜かしている水瀬を取り押さえようと一歩踏み出した。


「待って、蒼司くん!」


 レイナが叫び、剣崎の前に身を乗り出す。


「水瀬アナの色に曇りはない! どす黒いのはその箱だけよ!! 彼女は本当に何も知らない!」


 レイナの必死の訴えに、剣崎の足がピタリと止まる。

 緊迫した空気の中、源田がゆっくりと歩み寄り、腰を抜かして震えている水瀬を見下ろして鋭い声で問い詰めた。


「……その箱をどうした。誰から受け取った」


「ひっ……! わ、私じゃありません……っ。カ、カメラマンです! 到着する直前に、これをヒミコ様たちに渡してくれと……っ」


 涙目で訴える水瀬の言葉に、ヒール屋の面々の顔色が一斉に変わった。

 源田が素早くリビングを見渡す。そこには水瀬と一緒に数名のスタッフが固まって震えているが、機材を持っている人間の中に、たった一人――その『箱を渡したカメラマン』の姿が見当たらないのだ!


 テレビ局のクルーという完璧な隠れ蓑を使い、堂々と正面玄関を突破した犯人。

 奴は最初から、リビングにいるヒミコを狙ってはいなかった。このナイフ入りの箱は、護衛たちの目をリビングに釘付けにするための、ただの陽動。

 ならば、姿を消した犯人の真の標的は――!


 全員がその最悪の事態に気づき、血の気を失った瞬間だった。


「――きゃああああああああぁぁぁぁッ!!」


 屋敷の奥。

 最も強固で安全であるはずの防衛ルームの方角から、アリスの引き裂かれるような悲鳴が響き渡った。



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