第66話 新たなる世界の夜明け
無数のフラッシュが、瞬く星のように瞬いていた。
クライ国大統領府に設けられた特設会見場。全世界の主要メディアが固唾を呑んで見守る中、沈痛な、しかし確かな希望を宿した面持ちで、ヴォロディン大統領が重厚な演台の前に立った。
「全世界の市民に告ぐ。本日、我々は真の意味で、恐怖の時代に終止符を打った」
静まり返った会見場に、大統領の威厳ある声が響き渡る。一言一言が、人類の歴史に新たなページを刻むような荘厳な響きを持っていた。
「すでに逮捕状が発付されていた連邦国の元大統領グロモフは、オランダ・ハーグのICC(国際刑事裁判所)へと移送されることが正式に決定した。彼は国際社会の法の御前で、その大罪を裁かれることとなる」
かつて核の炎で世界を脅迫した絶対的独裁者が、一国の報復ではなく、国際法の下で裁きを受ける。それは「暴力による支配」という旧時代の終焉を、全世界に知らしめる決定だった。
「さらに、彼が長年世界中に隠匿していた不正蓄財――およそ二千億ドル、日本円にして約三十兆円の全額が没収された。この途方もない血塗られた資産は、『ヒール屋』を名乗る組織の法的手続きによって、我が国の復興資金として全額譲渡されることが確定した」
どよめきが会見場を揺らした。三十兆円。一国の国家予算にも匹敵する金額が、一介の民間組織(ヒール屋)の手によって回収され、ポンと復興に投げ出されたのだ。
だが、真の衝撃はそれに留まらなかった。
「そして――我々を救った白銀の聖女、ヒミコ殿より、未来への誓約が提示された」
ヴォロディン大統領は、世界中のカメラに向かって力強く宣言した。
「彼女は近い将来、『魔法使い養成学校』を設立する。そして我がクライ国は、その学校へ毎年一人、優先的に生徒を入学させる特別枠を譲り受けた!」
その瞬間、世界中のメディアの思考がフリーズし、直後、爆発的なフラッシュと怒号のような質問の嵐が吹き荒れた。
それは、「核」という破壊の時代が完全に終わりを告げ、「魔法」という未知なる力が世界の新たな主役として躍り出た、歴史的瞬間の幕開けだった。
◇
会見の生中継から数分後。日本の匿名掲示板や各種SNSは、サーバーが悲鳴を上げるほどの異常なトラフィックを記録していた。
かつてない速度で加速していくタイムラインには、驚愕、興奮、そして冷徹な分析が入り乱れていた。
【速報】クライ国、30兆円と「魔法使い」をゲットして完全勝利www【ヒール屋】
1: 名無しの傍観者
え、30兆円って一国の国家予算並みだぞwww
それを全部復興に全投げするゲンさんの胆力よ……
14: 名無しの傍観者
弁護士の皮を被った魔王だろあの人。
どんな法的マジック使ったら独裁者の隠し口座から30兆円も引っこ抜けるんだよ(戦慄)
42: 名無しの考察班
いや、30兆円もヤバいが、魔法学校の「毎年1枠」がエグすぎるだろ。
よく考えろ、今の時代、下手な核兵器より価値あるぞこれ。
55: 名無しの傍観者
>42
どういうこと?
78: 名無しの考察班
たとえば、もし剣崎みたいな「転移魔法使い」が1人でも国家に所属したらどうなる?
物資の輸送コストと移動時間が実質ゼロになるんだぞ。兵站も物流も根本から覆る。そんな国が貿易始めたら他国は絶対に勝てない。一国家のGDPが数倍に跳ね上がるレベル。
これ、産業革命以来のパラダイムシフトだぞ。
102: 名無しの医療従事者
医療現場から言わせてもらうと、ヒミコの「治癒魔法」の術理が学べるなら、現代の外科手術や薬物療法の大半が過去の遺物になる。
末期がんも難病も、ヒール一発で解決だろ? 平均寿命が100歳を超えるのは確実だし、世界の社会保障制度が根本からひっくり返るぞ。製薬会社は今頃真っ青になってるはず。
156: 名無しの軍事オタク
核が消えた直後に魔法が現れるこの皮肉な。
魔法で無限の熱源や動力を生み出せるようになったら、石油もウランもただのゴミになるぞ。中東の覇権もアメリカの軍事力も無意味になる。
これからの国防と国力は、「魔法学校の卒業生を何人確保できるか」に全振りされる。
210: 名無しの傍観者
マジかよ……魔法ってファンタジーじゃなくて、ガチの「インフラ」なのか……
305: 名無しの考察班
俺は気付いてしまった。
ヒミコがやってるのは、ただ独裁者を倒すことじゃない。
核という『破壊の抑止力』の代わりに、魔法という『繁栄の競争力』を新世界の通貨として定義し直したんだ。旧時代のルールを、あの一万円の少女が完全にぶっ壊した。
俺たちは今、間違いなく人類史の分岐点に立ち会ってる……。
◇
画面の向こう側の熱狂は、留まるところを知らなかった。
次から次へと書き込まれるレスの波は、もはやスクロール速度が視認不可能なほどに加速していく。恐怖から希望へ、そして未知の力への計り知れない渇望へ。
世界は今、一人の白銀の少女と、一人の凄腕弁護士が作り出した「魔法の時代」へと、不可逆的に足を踏み入れたのだった。
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