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第123話 魔導エネルギー革命

挿絵(By みてみん)


 魔導科学技術局の最奥、防爆ガラスに囲まれた特別実験ブース。

 木島からの「借金返済の目処が立った」という強気の呼び出しを受け、源田壮一郎はヒミコを伴ってラボを訪れていた。


 ヒミコは相変わらずマイペースにツナマヨおにぎりを頬張りながら、フロアの中央に鎮座する見上げるほど巨大な円筒形の装置をぽやんとした表情で眺めている。世界を変えるかもしれない世紀の大発明を前にしても、彼女の関心は手元のおにぎりの方に偏っていた。

 対照的に、源田は無表情のまま、目の前の装置が教団に、そして社会インフラにどのような影響を及ぼすかを静かに見定めている。


「ひひっ! よくぞおいでくださった、聖女様、そして源田!」


 木島はボロボロの白衣を翻し、自信満々に巨大な装置を指し示した。その隣には、徹夜明けでフラフラになりながらも、どこか誇らしげな表情を浮かべる神楽舞の姿がある。


「これこそが、雷の少女の魔法を解析し、魔石のエネルギーを電力に完全変換する夢の装置!『きじま君5号・魔導ダイナモ』だ!」


 木島が震える手でコントロールパネルの起動スイッチを勢いよく叩き込んだ。

 直後、神楽の魔法プロセスを再現した魔力変換回路が作動し、中心部にセットされた特大の魔石を励起させる。キィィィィィン……という、恐ろしく静かで、かつ力強い駆動音がラボ全体に響き渡った。


 次の瞬間、装置に接続された壁一面の巨大な蓄電池群のインジケーターが、あり得ない速度で上昇を始める。ゼロだった充電率は瞬く間に跳ね上がり、数秒で100パーセントの満充電を知らせる緑色のランプが一斉に点灯した。

 排気ガスも熱も一切出さない。火力、原子力、水力といった既存のあらゆる発電方式を過去の遺物にする、完全無欠のクリーンエネルギーが誕生した瞬間だった。


 大規模発電所に匹敵する莫大な電力を、たった一つの魔石から生み出すその光景を見つめながら、源田は無意識に、自身の右膝をトントンと軽く叩き始めた。


 トントン、トントン……。


 一定のリズムで刻まれるその微かな音は、彼の脳内で凄まじい速度の損得勘定と、国家エネルギー戦略の書き換えが行われていることを示している。

 ただの兵器開発に留まらず、国家のインフラそのものを聖女教が完全に掌握する。それは、いかなる武力よりも強固な支配体制の確立を意味していた。源田の右膝が叩かれるたびに、木島と神楽は固唾を呑んでその冷徹な査定の行方を見守る。

 ラボの中には、装置の駆動音と、源田の指先が膝を叩く音だけが響いていた。


 やがて、源田の右膝を叩くリズムがピタリと止まった。

 静寂が降りた後、彼は木島に向き直り、感情を交えない冷徹な声で告げた。


「……及第点だ」


 その一言に、木島の肩がビクッと跳ねる。


「これ一基で得られる利益は、これまでの損失を補って余りある。木島、貴様の借金はこれでチャラにしてやる」


 その言葉は、絶望の淵に立たされていた木島にとって、どんな恩赦よりも甘美な響きだった。


「ひ、ひひっ……やった、やったぞおおぉぉっ!」


 木島は歓喜の涙を流して床に崩れ落ち、神楽もまた「よ、よかったですぅ……」と安堵のあまりその場にへたり込んだ。世界をひっくり返すエネルギー革命の成功と、借金地獄からの生還。ラボは感動と達成感に包まれていた。


 だが、そんな劇的な空気を切り裂くように、マイペースな声が響く。


「……ん」


 ヒミコが、手に持っていたツナマヨおにぎりをじっと見つめながら、小さく首を傾げた。


「これ、おにぎり、あったかくできる?」


 国家の命運を左右する世紀の大発明を、早くも電子レンジの動力源として使おうとする聖女の平和な落差に、源田は小さく息を吐くのであった。



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