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第122話 擬音語と数式の共同作業

挿絵(By みてみん)


 魔導科学技術局の最奥に設けられた、分厚い防爆ガラスで覆われた特別実験ブース。

 木島にスライディング土下座で拝み倒され、半ば強引に連行されてきた神楽舞は、無数の計測センサーに囲まれながら困惑の表情を浮かべていた。


「さあ、雷の少女よ! 君のその素晴らしい電気魔法の発動プロセスを、私に詳細に説明したまえ!」


 ガラスの向こう側でマイクを握りしめ、木島が血走った目で身を乗り出している。彼の背後には、最新鋭の魔力測定器やスーパーコンピューターがずらりと並び、いつでもデータを収集できる態勢が整っていた。


「せ、説明って言われても……」


 神楽は頬を掻きながら、自分なりに一生懸命言葉を探す。彼女は厳しい訓練を重ねて電気魔法の練度を上げてきたが、そのアプローチは極めて感覚的だった。


「えっと、まずお腹の奥のほうで魔力をギュッとして……それを腕の血管に沿ってギューッと持っていって、最後に指先でバチバチッ! てさせる感じです」


「ひひぃっ!?」


 木島がマイクを落としそうになりながら頭を抱えた。


「ギュッとはなんだ! バチバチとは! 君の魔法は物理現象の変質だ! もっとベクトルや出力値、位相の波長といった数値と論理で答えろ!」


「そんなこと言われても、ギュッとしてバチバチッとするから雷が出るんです! それ以外にどう説明しろって言うんですか!」


 理論と数式で世界を解明しようとするマッドサイエンティストと、直感とセンスで魔法を操る一般生徒。

 言語体系が根本から異なる二人の共同作業は、開始早々から絶望的なまでに噛み合っていなかった。


「ええい、言葉で説明できないなら実践あるのみだ! 魔法を撃て! 限界まで撃ち続けろ! 全ての現象を私が計測して数値化してやる!」


「もう、ヤケクソですね! いきますよ! ……雷霆らいてい!」


 神楽の指先から青白い火花が走り、実験ブースの的に向かって電撃が放たれる。

 同時に、木島の目の前にある複数のモニターに、膨大な量の波形データと魔力数値が弾き出された。木島は瞬きすら忘れ、その画面を食い入るように見つめる。


(なるほど……体内での魔力の圧縮……これが彼女の言う『ギュッと』か。極めて短時間で魔力回路の電圧を限界まで昇圧しているのだな)


 木島の狂気的な天才頭脳が、神楽の擬音語を少しずつ物理法則へと翻訳し始める。


(そして『バチバチッ』の正体は、放出された魔力が空間に存在する電子を特定の波長で励起させ、電気エネルギーへと変換するプロセス! ひひっ、なんて無駄のない、そして美しい変換効率だ!)


 そこからは、果てしないデータの収集と翻訳作業の連続だった。

 木島は神楽に何度も魔法を撃たせ、そのたびにホワイトボードにびっしりと複雑な数式を書きなぐっていく。


「おいそこの雷! 今の『ギュッと』は少し出力がブレたぞ! 電圧の昇圧比率がコンマ二秒遅い!」


「ええっ!? じゃあ、もう少しギューッて長く溜めてから、一気にバチーンッて解放した方がいいですか!?」


「ひひっ、そうだ! その感覚だ! バチーンの瞬間に電子の励起フェーズを合わせろ!」


 深夜のラボに、異常な熱気が渦巻いていた。

 数式しか信じない科学者と、擬音語しか喋れない魔法使い。絶対に交わるはずのなかった二人の言語が、徹夜の作業を通じて奇跡的な融合を果たしつつあった。


 時計の針が午前四時を回る頃。

 魔力切れ寸前でフラフラになった神楽が、「最後の一回……ギュッとして、バチバチィッ!」と渾身の魔力を絞り出す。

 それを観測した木島が、キーボードを猛烈な勢いで叩き、最後の数式をシミュレーションソフトに打ち込んだ。


 ピポッ、という電子音と共に、メインモニターに一つの結果が表示される。


【魔力・電力変換効率:100.0% 理論構築完了】


「……ひ、ひひひっ」


 木島は歓喜に打ち震え、ボロボロの白衣を振り乱して立ち上がった。


「やったぞ! 完全なエネルギー変換回路の完成だ! 君の『ギュッとバチバチ』は、完璧な数式としてこの私の頭脳に刻み込まれた!」


「へへっ……やりましたね、木島局長……」


 疲労困憊でその場にへたり込んだ神楽も、達成感に満ちた笑みを浮かべて親指を立てた。


 そこからの木島の行動は異常なまでに早かった。

 完成した理論を元に、休む間もなく装置の組み上げに取り掛かる。神楽の魔法のプロセスを再現する特殊な魔力回路を刻み、変換炉を構築していく。


 そして数日後。

 魔導科学技術局のメインフロアの中央には、見上げるほど巨大な円筒形の装置が鎮座していた。

 中心部には動力源として、ヒミコが生み出した極めて純度の高い特大の『魔石』がセットされている。化石燃料も危険なウランも一切使わず、二酸化炭素も放射能も出さない、完全無欠の魔導発電装置。


「完成だ! 名付けて『きじま君5号・魔導ダイナモ』!」


 高らかに宣言する木島の隣には、目の下に濃いクマを作りながらも、誇らしげに装置を見上げる神楽の姿があった。

 特待生のような圧倒的な戦闘力はなくても、自分の魔法が社会の役に立つ形になったのだ。


「ひひっ! さあ、私の数億円の借金をチャラにするため……いや、世界のエネルギーインフラに革命を起こすため! 源田と聖女様を呼んでくるのだ! 世紀の発電実験を始めるぞ!」


 木島の狂気と野望を乗せた『きじま君5号』の実力テストが、今まさに幕を開けようとしていた。



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