第121話 雷の少女
魔力砲の暴走と大爆発による惨劇から数日後。
魔導科学技術局の局長である木島は、ボロボロの白衣を幽鬼のように引きずりながら、魔法学院の廊下を歩いていた。その目は死んだ魚のように濁りきっている。
彼の脳内を延々とリフレインしているのは、源田壮一郎から冷徹に手渡された、数億円にのぼる損害賠償の請求書だった。
機材の全損と施設の破壊。あの時、源田は無意識に、自身の右膝をトントンと軽く叩き始めていた。彼が相手の魂を法廷さながらに査定し、重大な決断を下す時の癖だ。
そして右膝を叩くリズムがピタリと止まった瞬間、木島への莫大な借金の押し付けという、冷酷で完璧な判決が下されたのである。
「あぁ……私の給料は日給一万円……百年タダ働きしても返せない……」
木島はうわ言のように呟き、壁に手をついた。
この絶望的な状況を打破し、源田の突きつけた借金をチャラにする方法はただ一つ。これまでにない全く新しい世紀の発明で、教団に国家予算レベルの莫大な利益をもたらすことだ。しかし、そう簡単に世界をひっくり返すアイデアなど浮かぶはずもない。
フラフラと歩き続け、気がつけば木島はグラウンドの近くまでやってきていた。
そこでは、生徒たちが魔法の基礎訓練に励んでいる。特待生はアリスとニコラの二人だけだが、それ以外の一般枠の生徒たちも、日々の過酷な訓練によって確かな実力を身につけつつあった。
木島の目に留まったのは、的当ての訓練をしている一般生徒、神楽舞だった。
彼女は前方に右手をかざし、真剣な表情で魔力を練り上げている。
「……雷霆!」
神楽の指先から、パチパチと青白い火花が散った。
発生した電気の塊が放物線を描いて飛んでいき、ダミーの的を的確に黒焦げにする。彼女の魔法は純粋な電気魔法だった。広範囲を吹き飛ばす派手さはないが、持ち前のセンスで魔力を極めて効率よく『電気エネルギー』に変換しているのがわかる。
最初はただぼんやりと眺めていた木島だったが、彼女の魔法の発動プロセス――魔力が空間の電子を励起させ、電気という物理現象へと変換されるその瞬間を観察した途端、狂気的な天才頭脳に凄まじい電流が駆け巡った。
「ひ、ひひっ……ひひひぃっ!」
濁りきっていた木島の目に、かつてのギラギラとした怪しい光が戻る。
(もし、あの雷の少女の電気魔法の術式を解析し、機械的に再現できたとしたら?)
木島の脳内で、怒涛の勢いで数式と設計図が組み上がっていく。
機械の動力源となるのは、もちろんヒミコが毎朝生み出す高純度な『魔石』だ。魔石の持つ膨大な魔力を、神楽の術式を使ってそのまま『電力』へと変換する。
それはつまり、化石燃料を燃やす必要も、危険なウランを扱う必要もない。二酸化炭素も放射性廃棄物もまったく排出しない、完全無欠のクリーンエネルギー『魔導発電装置』の誕生を意味する。
現在、世界を動かしている火力や原子力を過去の遺物にし、エネルギー市場を根底からひっくり返す革命的な発明。これなら、数億円の借金完済など一瞬だ。それどころか、教団が世界のエネルギーインフラの覇権を握ることすら可能になる。
「ひひひひぃっ! 見えたぞ! 魔導科学の新たな夜明けが!」
野望の炎が完全に燃え上がった木島は、白衣を翻し、奇声を上げながらグラウンドへと乱入した。
「えっ? きゃあっ!?」
突然、猛スピードで突っ込んできた不審な白衣の男に、神楽は悲鳴を上げて後ずさる。しかし木島はそんなことには構わず、勢いを殺さないまま神楽の足元へズザーッと滑り込み、見事なスライディング土下座を決めた。
「頼む雷の少女よ! 君のその魔法のメカニズムを、私に隅々まで解析させてくれ!」
「な、なんなのこの人!? 怖いっ!」
「私と一緒に魔力で電気を作り出し、世界のエネルギーインフラをぶっ壊して覇権を握ろうではないか! ひひっ、ひひひひぃっ!」
目を血走らせて熱弁を振るうマッドサイエンティストと、ドン引きして周囲に助けを求める神楽。
天文学的な借金から逃れるための、世界を揺るがす魔導クリーンエネルギーの開発は、こんなドタバタとした悲鳴と共に幕を開けたのであった。
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