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第124話 聖女の電子レンジ

挿絵(By みてみん)


 魔法学院の敷地内に新設された巨大な講堂は、異様な熱気と緊張感に包まれていた。

 国内外の主要メディア、エネルギー産業の重鎮、そして政府関係者が一堂に会する中、魔導科学技術局による『新クリーンエネルギー発表会見』が今まさに開かれようとしていたのだ。


 壇上に立つのは、仕立ての完璧なスーツを身に纏った源田壮一郎である。

 無数のカメラのフラッシュが瞬く中、源田は流麗な弁舌で、化石燃料も危険なウランも不要となる『魔力発電』の画期的な仕組みをプレゼンしていく。そのスケールの大きさと実現性の高さに、会場の記者たちは息を呑み、静などよめきを広げていた。


 しかし、質疑応答の時間に移った直後、その空気を切り裂くように鋭い声が飛んだ。


「既存のインフラを破壊するおつもりですか!」


 立ち上がったのは、大手経済紙のバッジをつけた一人の記者だった。その声には明らかな敵意が込められている。背後にいる既存のエネルギー利権から送り込まれた刺客であることは明白だった。


「一教団が国家のエネルギーを独占するなど、極めて危険な行為だ! 既存の電力会社を潰し、関連産業に大量の失業者を生む責任を、あなた方はどう取るおつもりか!」


 正義感を装った攻撃的な質問に、会場がざわめく。すべての視線とカメラのレンズが、壇上の源田へと集中した。


 源田は無表情のまま、無意識に、自身の右膝をトントンと軽く叩き始めた。

 彼が相手の魂を法廷さながらに査定し、重大な決断を下す時の癖だ。


 トントン、トントン……。


 一定のリズムが刻まれる数秒の間に、源田の脳内では凄まじい速度の計算が行われていた。刺客の背後関係、論理の欠陥、そしてこの場における大衆心理への影響。すべてを完全に読み解き、裁定を下す。


 やがて、右膝を叩くリズムがピタリと止まった。


「独占、インフラの破壊……ずいぶんと偏った見方をされる」


 源田はマイクを通し、一切の感情を交えない冷徹な正論で反撃を開始した。


「我々が提示しているのは独占ではなく、エネルギーの『民主化』だ。我々教団には、全国の家庭や企業へ送電網を整備し、保守管理するノウハウはない。既存の電力会社を潰す気など毛頭なく、むしろ彼らの持つインフラ網こそが、この革命には不可欠なのだ」


 源田が合図を送ると、舞台の袖から数名のスーツ姿の男たちが現れた。それは、国内主要電力会社の代表者たちだった。

 どよめく記者たちの前で、源田は堂々と宣言する。


「本日この場をもって、我々聖女教は国内主要電力会社との間に、『きじま君5号・魔導ダイナモ』の技術供与、および動力源となる魔石の供給に関する正式な契約を締結する」


 源田は契約書にサインを交わし、フラッシュの嵐の中で一つの事実を突きつけた。


「魔導ダイナモの動力源となる魔石。大規模発電所を稼働させるこの奇跡の燃料を、我々は各電力会社へ『一個一万円』で売り渡す」


 会場が静まり返った。

 一万円。都市一つを賄う電力を生み出す燃料費が、たったの一万円。既存のLNGや石炭、ウランの調達にかかる数百億、数千億というコストを根底から消し飛ばす、圧倒的な価格破壊だった。

 電力会社にとっても、教団と敵対するより燃料費を劇的に削減して共存したほうが遥かに利益が出る。源田は冷徹なビジネスの力で、既存利権の暗躍を完膚なきまでに封じ込めたのである。


「百聞は一見に如かず。実際に稼働する姿をご覧いただこう」


 源田の言葉に合わせ、木島と神楽によって巨大な円筒形の装置『きじま君5号』がステージ中央へと押し出されてきた。

 木島が誇らしげにスイッチを入れると、キィィィンという静かな駆動音と共に莫大な電力が生み出され、ステージ上のモニターに凄まじい発電量がリアルタイムで表示される。


 まさに人類の歴史が変わる瞬間。会場の興奮が最高潮に達した、その時だった。


 とことこ、とことこ。


 マイペースな足取りで、白金の髪を揺らす小柄な少女が壇上に上がってきた。魔法学院の校長であり、教団の象徴であるヒミコだ。


 彼女の小脇には、なぜか家庭用の『電子レンジ』が抱えられ、手にはお馴染みのツナマヨおにぎりが握られている。

 ヒミコは無言のまま、世紀の大発明である『きじま君5号』の出力端子に、電子レンジのコンセントを無造作に差し込んだ。そしてレンジの扉を開け、おにぎりを入れて温めボタンを押す。


 しんと静まり返る巨大な講堂。

 数秒後、チンッ! という間抜けな電子音が響き渡った。


「……ん。あったかい」


 ヒミコはホカホカになったツナマヨおにぎりを取り出すと、世界中のメディアが注視する中、幸せそうにもぐもぐと頬張り始めた。


 世界を根底から変えるクリーンエネルギー革命。その記念すべき初の実用先が「コンビニおにぎりの温め」という、圧倒的スケールの無駄遣い。

 あまりの光景に、刺客の記者も、電力会社の代表も、全メディアも呆然とフリーズしてしまった。


 放送事故のような沈黙が会場を包む。

 その只中で、源田は再び、自身の右膝をトントンと軽く叩き始めた。

 このふざけた光景を、いかにして「平和の象徴」として世間に売り込むか。凄まじい速度で言葉を選び出し、右膝のリズムが止まる。


「……ご覧の通りだ」


 源田はマイクを握り直し、厳かな、そして慈愛に満ちた声色を作って告げた。


「この巨大な力は、決して特定の誰かが富を独占するためや、ましてや戦争の兵器にするためのものではない。我らが聖女様が願う『温かい食事と平和な日常』。それを、魔石一個というわずかな対価で、全国民へ等しく届けるためのものなのだ」


 ただの食いしん坊による自由な行動を、安価なクリーンエネルギーによる平和の誓いへと完璧にすり替えた、源田の恐るべきスピンコントロール。

 その崇高な理念と、美味しそうにおにぎりを食べるヒミコの無垢な姿に心を打たれた記者の一人が、拍手を送った。それが波紋のように広がり、やがて講堂は割れんばかりの感動的な拍手喝采に包まれた。


 こうして、魔導エネルギーの夜明けを告げる記者会見は、教団の圧倒的な勝利と、ツナマヨの匂いと共に大団円で幕を閉じるのであった。



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