第119話 魔導科学の挑戦状
おにぎり転移装置の開発がヒミコの逆鱗に触れ、無惨に打ち切られてからわずか一日のこと。
魔導科学技術局の局長である木島は、その程度の挫折で立ち止まる男ではなかった。彼は源田とヒミコを、局の地下深くにある広大な実験場へと招き入れていた。
「ひひっ! 見たまえ源田! これが我が局の新たな最高傑作だ!」
木島が誇らしげに指差した先には、重厚な金属の装甲に覆われた巨大な大砲が鎮座していた。砲身には複雑な魔力回路が幾重にも刻まれ、中心部にはヒミコが生み出した高純度の魔石が動力源としてセットされている。
「名付けて『きじま君4号・魔力砲』だ! 現在、防衛省が莫大な予算をつぎ込んで開発を進めているレールガン構想を知っているな? あちらは一発撃つごとに数百万円の砲弾コストがかかる。だが、このきじま君4号はどうだ。動力源の魔石一つで、レールガンと同等以上の火力を何度でも叩き出せる! 弾薬コストはほぼゼロ、まさに夢の兵器だ!」
木島の説明を聞き、源田の眼の奥が鋭く光った。
一発数百万円のコストがゼロになる。もしこの魔力砲を自衛隊の正式装備として納入できれば、国家の防衛予算を聖女教が完全に掌握できる。元弁護士であり冷徹なビジネスマンである源田の頭の中で、天文学的な利益を生み出すビジネスモデルが瞬時に組み上がっていく。
「悪くない。防衛省への強力なプレゼン材料になるな」
源田が珍しく肯定的な評価を下した、その時だった。
「ふざけるなああぁぁっ!!」
地下実験場の重い扉が蹴り破られ、一人の男が目を血走らせて乱入してきた。教団が誇る最強の砲台こと、三上翔である。
「俺のヒミコ様への純粋な信仰心を! 崇高なる愛の形を! 魂のない鉄の塊ごときが真似できると思うなよ、このマッドサイエンティストが!」
三上は魔力砲を睨みつけながら激しく吠えた。この新兵器は、三上が放つ『魔力ビーム』の方式を木島が解析し、機械的に完全再現したものだったのだ。「量産品」に自分のアイデンティティを奪われかねないオタクの危機感は、すさまじい怒りとなって爆発していた。
「ひひっ! 信仰だの愛だのという不確定要素より、論理に基づいた安定した科学の方が兵器として優秀に決まっているだろうが!」
木島も一歩も引かず、鼻で笑って挑発する。
「上等だ! ならば俺の信仰心とその鉄クズ、どちらが本物の砲台かここで決めてやる!」
こうして、ヒミコを巡る情熱と魔導科学の威信を賭けた「砲撃対決」が幕を開けた。
地下実験場の奥、数百メートル先に分厚いチタン合金の標的が複数セットされる。
まずは木島の魔力砲が火を噴いた。
砲身の回路が発光し、轟音と共に極太の魔力ビームが一直線に放たれる。ビームは木島の計算通り、寸分狂わぬ精度で次々と標的の中心を撃ち抜き、融解させていった。圧倒的な破壊力と、乱れのない安定性。源田も「兵器ビジネスとしては文句なしの合格点だ」と深く頷く。
「どうだ三上! これが科学の美しさだ!」
「ふんっ、ただ真っ直ぐ飛ぶだけの単細胞が! ヒミコ様への愛はもっと自由で複雑なんだよ!」
三上がヒミコへ向かって深く一礼した後、指先を標的に向けた。
放たれた魔力ビームは、真っ直ぐ飛ぶかと思いきや、途中でぐにゃりと直角に軌道を曲げた。そして障害物を器用に避け、死角から標的を正確に撃ち抜く。さらに次の発射では、空中にビームの軌跡で『ヒミコ様尊い』という文字を鮮やかに描き出し、その文字がそのまま巨大な光の塊となって標的を粉砕した。
これには源田も感心せざるを得ない。安定性とコストでは機械の勝ちだが、戦場での柔軟性や変態的なまでの応用力では三上の圧勝である。
ドヤ顔で息を吐く三上を見て、木島のプライドが激しく苛立った。
「ええい、小賢しい真似を! ならば、科学の絶対的な最大火力でその無駄なプライドごと消し飛ばしてやる!」
木島が血走った目でコントロールパネルを操作し、魔力砲の出力リミッターを解除し始めた。危険な駆動音が地下実験場に響き渡り、想定外の事態が静かに幕を開けようとしていた。
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