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第114話 守るための炎

挿絵(By みてみん)


 ニコラの指先に灯る、極めて静かで恐ろしい熱量を持った青い炎。

 その奇跡のような完全燃焼の光を見て、狂気の科学者である木島はたまらないといった様子で歓喜の声を上げた。


「ひひっ! 素晴らしい! 変質によって生み出された純粋なエネルギー体! この極小の炎がどれほどの熱量を持っているか、我が局の特製デバイスで測定してやろう!」


 木島は白衣のポケットをごそごそと探り、奇妙な形状をした小型の魔力測定ドローンを取り出した。そして、嬉々としてニコラの指先へと近づけていく。


「おい木島さん。室内で得体の知れない機械を動かすな」


 田中が呆れ顔で注意するが、探求心に火のついた木島の耳には届いていなかった。


「ただの温度測定だ、堅苦しいことを言うな筋肉! さあ、その美しい青を見せてみろ!」


 木島が手元のスイッチを入れると、小型ドローンがふわりと宙に浮き、ニコラの指先の青い炎へと接近していく。

 しかし、ドローンのセンサーが青い光に触れようとしたその瞬間だった。


 ピーーーッ!!


 けたたましい警告音が、訓練室に響き渡る。

 ニコラの生み出した青い炎の超高温は、木島が想定していた計測リミットを軽々と、そして異常な速度で突破してしまったのだ。

 急激な熱膨張に耐えきれず、ドローンの内部コアが不気味な赤光を放ち始める。


「あ、ヤバい」


 木島が間抜けな声を漏らした直後。

 ドローンが空中で激しい爆発を起こした。


 ドンッ! という衝撃音と共に、鋭く尖った外装の金属破片が、まるで散弾銃のように弾け飛ぶ。

 田中は実戦の勘で即座に『反応装甲リアクティブ・アーマー』を展開して難を逃れたが、無防備に突っ立っていた木島の急所に向かって、無数の凶弾が容赦なく飛来した。


 死を予感させる爆発音。視界を覆う破片。

 それは、ニコラの過去を無残に奪い去った、クライ国でのドローン空爆の記憶そのものであった。


 また、爆発が起きる。また、誰かが傷つく。

 フラッシュバックがニコラの脳裏を掠めた。しかし今のニコラが、その記憶にすくみ上がることはなかった。


 恐怖よりも先に、「守らなければ」という強い意志が彼の身体を突き動かしていたのだ。


 ニコラは思考するよりも早く、木島の前に飛び出していた。

 指先に留めていた高濃度の酸素空間を一気に広げ、横に薄く引き伸ばす。そして、そこに練り上げた魔力を叩き込み、青い炎の熱を急激に流し込んだ。


 シュゴォォォォッ!!


 極小だった青い炎が、一瞬にして扇状に広がり、ニコラと木島の前に巨大な「青い炎の壁」を形成する。

 飛来した鋭い金属片が、その壁に次々と着弾した。


 しかし、破片がニコラたちに届くことはなかった。

 超高温の青い炎に触れた瞬間、金属片はジュワッという音と共に瞬時に融解し、蒸発し、無害な灰となって床にパラパラと落ちていったのだ。


 爆発の余波が収まり、訓練室に再び静寂が戻る。

 ニコラは静かに息を吐き、青い炎の壁をスッと消し去った。後ろを振り返ると、無傷の木島が目を見開いてへたり込んでいる。


 かつてクライ国の戦火で、自分から両足と希望を奪い去った赤紅の炎。

 しかし今、自分が生み出したこの青い炎は、誰かを無差別に傷つける暴力ではない。目の前の命を守り抜くための、最強の盾となったのだ。


「……俺の炎でも、人を守れるんですね」


 床に落ちた灰を見つめながら、ニコラは憑き物が落ちたように穏やかな顔で笑った。トラウマの呪縛から完全に解き放たれた、誇り高き顔つきだった。


 装甲を解いた田中が、その確かな成長の証に深く、満足げに頷く。

 感動的な空気が流れる中、へたり込んでいた木島がハッと我に返り、頭を抱えた。


「あぁぁっ! 我が局の特製デバイスが! 予算が! 灰になってしまったぁぁ!」


 命を救われたことよりも機材を嘆く木島のコミカルな悲鳴が響き、田中とニコラは思わず顔を見合わせて吹き出した。

 暴走の恐怖から始まった特別訓練は、過去を焼き切る青い閃光と共に、確かな結末を迎えたのであった。



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