第101話 白銀の鍵とトップの才能
衝撃的な体力測定から数日後。いよいよ第一期生たちは、本格的な実技授業の初日を迎えていた。
広大なグラウンドに整列した三十名の生徒たちの前で、今日、ついにその時が訪れた。校長であるヒミコによる、「魔法の授与」――すなわち、魔力回路の鍵開けの儀式である。
ヒミコがとてとてとマイペースな足取りで歩き、生徒たちの胸に順番に小さな手を当てていく。これまで自身の内に眠っていた規格外の力が呼び覚まされ、次々と息を呑む生徒たち。
やがて、ヒミコは元引きこもりの青年、九条蓮の前に立った。
「……ん。蓮、痛くないよ」
ヒミコはいつもと変わらないフラットな声でそう告げると、ふわりと九条の胸に手を当てた。
次の瞬間、温かく、そして目も眩むような白銀の光が九条の全身を包み込んだ。
ドクン、と心臓が大きく跳ねる。九条は自身の奥底から、これまで感じたことのない途方もないエネルギーが、熱を帯びた奔流となって目覚めるのをハッキリと確信した。これが、魔法の力。
その光景を見守っていた第一期生たちの間に、ざわめきと、強烈な熱を帯びた期待の視線が渦巻いていた。
無理もない。三十名の生徒たちには、入試時に測定された魔力データが事前に共有されていたのだ。
九条蓮、魔力値1500。
それは、すでに実戦で規格外の力を示しているあの8歳の少女、アリス・ハワードの800すらも大きく凌駕する、ダントツのトップ数値であった。
海外からやってきたエリート特待生も、大人枠の佐藤たちも、誰もが固唾を飲んで九条を見つめている。
「あの莫大な魔力を持つ彼が、一体どれほど凄い魔法を見せるのか」
「軽くグラウンドが吹き飛ぶのではないか」
そんな過剰なまでの羨望と期待が、痛いほどに九条へと突き刺さっていた。
「よし、九条。まずは感覚を掴むためだ。あそこの的に向かって、魔力を放ってみろ」
教官役である三上が、的当て用の標的を指差して促した。
周囲の期待を一身に浴び、九条はプレッシャーで胃をキリキリと痛めながら前に出た。不登校になり、高校を中退して以来、こんなに大勢からトップとして期待の目を向けられたことなど一度もない。
震える手のひらを標的へと突き出し、九条は教えられた通りに、体内で渦巻く魔力を外へ放とうと念じた。
「……っ!」
しかし。
何も起きない。
三上が不思議そうに眉をひそめる。九条はもう一度、今度は歯を食いしばり、力強く念じた。
だが、指先から小さな光の粒一つ、風のそよぎ一つ発生しなかった。標的は無傷のまま、静かにグラウンドの風に揺れている。
何度やっても、全くの不発。焦る九条の額から滝のように冷汗が吹き出していく。
さっきまで熱烈な期待に満ちていたクラスの空気が、スーッと引いていくのが分かった。
「えっ……?」
「どういうことだ?」
「もしかして、才能ゼロ……?」
といった囁き声が聞こえ始め、グラウンドの空気が微妙に凍りつき始める。
九条の心は完全にパニックに陥っていた。どうしてだ。あんなに途方もない力を感じているのに、なぜ何も出ないんだ。
気まずい沈黙が、重くグラウンドを支配した。
その時だった。
「ひひっ! 愚かな! 全くもって非科学的だ!」
突然、甲高い奇声と共に、一人の男が乱入してきた。
ボロボロの白衣をだらしなく羽織り、伸び放題の髪と髭を揺らす異様な風体の男。聖女教が誇る天才にして狂気の科学者、木島である。
木島は呆然とする生徒たちや三上を小馬鹿にするように笑いながら、九条の前に立った。
「無知とは罪だな! 九条は『干渉系』だ! 私が提唱した魔導科学五系統分類において、干渉系が己の魔力を外に『放出』することなど物理的に不可能なのだ! お前たちは今、魚に向かって空を飛べと強要しているのと同じだ、ひひっ!」
木島にそう言い放たれ、九条は自身の魔法の特性を初めて突きつけられた。
外に放出することが、不可能。
しかし、その目に見える派手な魔法が使えないという事実と、目の前で奇声を上げる木島の狂気じみた態度、そして未だに周囲から突き刺さる1500という莫大な数字へのプレッシャーに板挟みになり、九条の心は晴れるどころか、さらに深い戸惑いと憂鬱の底へと沈み込んでいくのだった。
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