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僕は悪魔の子  作者: 長月よる
14/15

王女シルフィーと案内

 女王マーリナに連れられ、レージは王族の館の一室に居た。目の前にはマーリナ本人と、彼女に似た若い女性が居る。


「ご紹介します。娘のシルフィーです」

「あ……その……」


 マーリナから紹介された、オドオドとした少女――シルフィーは、母の影に隠れるように立ち、顔を俯かせている。

 レージの視線がシルフィーに向くと、彼女は完全にマーリナの背に隠れてしまった。しかしレージが気になるのか、チラチラと視線をこちらに向ける。

 その様子にマーリナは笑顔を浮かべ、その場からレージの後ろにある出入り口のドアへと移動した。


「成人の儀にむけて、信頼を育んでくださいね。それではまた」


 レージに有無を言わせず、マーリナは部屋を出て行ってしまった。部屋に残るのはビクビクと震えるシルフィーと困惑して固まってしまっているレージのみである。


「えーっと……」


 今すぐにでもこの場を離れたいが、引き受けた以上は何とかしなければならない。とりあえず何か話題を考える。


「改めて自己紹介しようか」

「は、はい!」


 ビクンと反応したシルフィーに苦笑いを浮かべるレージ。彼女からの不信感を払拭するため、レージは努めて明るい声を発する。


「僕はレージって言う。えっと……ちょいと悪魔と因縁が合って、それで旅をしている者だ。君は?」


 無難に自己紹介し、今度はシルフィーに話しを振る。ただこちらが話しているだけでは、自身の話力に自信がなかったため仕方ない。


「あ、の……シルフィー・トリエントです……その、趣味は読書、です……」


 彼女の言葉が途切れ、部屋は静寂に包まれる。シルフィーは黙って俯いてばかりで、レージには大した話題がなかった。

 もう少しここで雑談してお互いを知るつもりだったが、予定を繰り上げてマーリナの言葉に従うことにした。


「じゃあ……この辺の案内してもらおうかな?」

「は、はい。えと、あの……こっち……」


 二人はたどたどしく外に出る。外は落ち始めた太陽の木漏れ日が差していた。隣でシルフィーが目を眩ませて立ち止まる。彼女に合わせ、レージもその場に留まる。


「あ、すみません。その……」


 立ち止まっていたシルフィーが両手を胸に抱え込むように合わせて謝罪する。どこまでも人見知りする彼女に困ったレージだったが、すぐに切り替えて案内を促す。


「じゃあ、さっそく案内をお願いしようかな」

「あ、はい! じゃあ……こっちです」


 シルフィーは足早に歩きだし、慌ててレージは付いて行く。館の周りは大樹があるくらいだったが、少し歩くとすぐに賑わいがあった。


「あら、シルフィーちゃんじゃない!」


 早速近寄って来たのは、シルフィーよりも年齢が高く見える女性。何となく中年くらいに見えるが、エルフは見た目で年齢を判断し難い。サンカの人もそうだったとは言え、エルフは突出して同じ顔に見えた。

 一人が寄ってくると、わらわらと周りのエルフが集まってくる。こちらを警戒している様子が見られるものの、あっという間に囲まれていた。


「“ちゃん”じゃないだろう? 今では立派な王女様なんだから!」

「大きくなられましたね」


 沢山のエルフが思いのままに話すため、シルフィーは完全に言葉を切り出すタイミングを失っていた。俯いて嵐が過ぎ去るのをただ待つつもりのようだ。

 そんな中、数人のエルフがレージに視線を向ける。


「こいつ誰だ?」

「何でシルフィー様の隣に……!」


 その数人のエルフは、レージに対して敵対心に似た感情を向け、警戒の色を強くしていく。それだけならまだ良かったが、中には敵意を持って絡んでくる者もいた。


「おい、お前そこで何してる!」


 荒く声を上げた者は、エルフたちの間を割って近づいてくる。危険を感じたレージは即座に魔法を発動できるように準備し、同時に問題とならないよう釈明の言葉を考える。しかし、勢いよく顔を上げてその間に入ったシルフィーが、そのエルフの行進を遮った。


「あ、あの! マ……女王からの命です。今はただ、案内しているだけなので……」


 必死に説得を試みるシルフィーに、エルフの足は止まった。考える素振りを見せた後、レージを人睨みする。だが、すぐに視線を外してシルフィーへと戻す。


「あなたがそう言うなら……」


 そのエルフはさっさとその場を後にした。静まり返ったその場は、何とも言えない空気に包まれる。

 原因であるレージは取り繕う言葉も思いつかず、ただ居た堪れなくなった。


「案内の続きに戻ろうかな……?」

「……あ、はい! じゃあ……あちらに……」


 レージの言葉が自分に向けられているものと思わなかったのか、少しの間反応を見せなかったシルフィーだったが、慌てて答え、歩き出した。。レージは苦笑いを浮かべながらその後ろに付いて行く。背にしたエルフの集団が何やら噂話をしていたが、良いことは言われていないと思い、聞かないようにしてその場を後にした。


「あとは……」


 一通り案内が済んだのか、シルフィーは立ち止まって頻りに周りを見回している。レージはそんな姿を眺めながら次の行き先を考えていた。


 エルフの国は集落に近く、大きな建造物は見かけなかった。その代わり、緑豊かな環境であり、自然との調和こそがエルフ国なのだと実感できる。彼女らのライフスタイルに他の文明を少しづつ取り入れているといった印象だった。

 

 ただ観光名所のようなものはなく、どこも似たような光景だった。まあこれは、この周辺だけの話かもしれないが。

 レージは不意に、視界に入っていたモノへと意識を向ける。そう言えば最も見たかったモノを見ていないことを思い出す。


「シルフィー。次は、改めて神木を近くで見てみたいな」

「は、はい。分かりました」


 多少慣れてきた様子のシルフィーに連れられ、レージは神木へと向かって行く。と言っても殆ど着た道を引き返すようなものだのだが、どこもかしこも似たような道であるため、彼女の案内の後ろを黙って付いて行く。

 途中通った道には、先ほど会ったエルフたちがこちらに気づくや否や噂話を再開していた。ある者は訝し気に、またある者はニヤニヤとしながらこちらを見ている。

 その噂話が何にしろ、明らかに勘違いをしているだろうエルフたちの視線でどうにも落ち着かない。シルフィーも同じ気持ちだったのか、構うことなく足早にその場所を通り過ぎた。


「も、もうすぐです」


 神木が目と鼻の先になり、シルフィーがそれを伝える。目視できるためそれはすぐに分かるのだが、シルフィーから話しかけられたことに少し安心した。

 着いた地点は神木の根元で、その周辺は広く開けていた。そのため、驚くほどに大きな神木が良く見える。


「シルフィー様、お久しぶりです」


 恐らく神木の警備をしていたエルフが駆け寄って来た。シルフィーは俯き気味に返事をし、そのままやや強引に話しを始める。手持無沙汰になったレージは、一人で神木を眺めながら近づいた。すると数人のエルフが駆け寄り、遠からず近からずの距離でレージを監視する。

 不意に後ろから、シルフィーに話しかけていたエルフに忠告を受けた。


「おい、変なことはするなよ」


 声に反応して振り返れば、エルフは睨みつけるようにしてレージを見ていた。昨日の今日で仕方ないと特に気にせず、どんどん神木へと近づいていく。

 ほんの数メートルというところまで近づいたところで、僅かに神木が反応したような気がして立ち止まった。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 気のせいとも思ったが、タイミング良くシルフィーが駆け寄って来たことで思い違いではないことを確信する。だが、改めて神木を眺めるが、何か起こる気配はない。


――かなり上に合った気配が下に降りて来るのを感じ、反射的に顔を上に受けた。

 レージに釣られ、シルフィーも同じように見上げる。


「うそ……なんで……?」


 下に降りてきていたのは、神木の枝葉がある高さでフワフワと浮いていた光の玉――妖精だった。

 シルフィーの後を追ってきたエルフは事態が呑み込めず、二人の眺めている地点を不思議そうに見る。異変に気付いた周囲のエルフたちも傍まで駆け寄って来た。


「何か――」


 駆け寄って来たエルフの一人がシルフィーに声をかけようとする。しかし、シルフィの傍で上を見ていたエルフが言葉を遮った。


「おい! 神の使いが降りてきているぞ!」


 エルフのその言葉によって他の者も神木を見上げた。木の葉が落ちてくるようにゆっくりと下降する妖精は一つや二つではなく、その先が見えなくなるほどの数が降りてきていた。

 時間をかけて触れられる高さまで降りてきた妖精は、その全てがレージの周りを取り囲んでゆく。そしてそれは、神木の枝葉でするように、レージの周りをただフワフワと浮かんでいる。時間が経つにつれその数は増え、次第にレージの身体は淡い光に包まれていた。


 妖精に触れると温かいような感覚を覚える。だが直接触れられるのは嫌のようで、手を伸ばすとそこから離れてしまった。妖精はつかず離れずを維持している。


「えっと……これは――?」


 何がどうなっているのか理解できないレージは助けを求めるため、シルフィーのいる方を見た。

妖精が顔の周りにも纏わりつくようにしているため視界を遮られるが、妖精が移動した際の隙間から視線がシルフィーまで通った。


「シルフィー?」


 その時に見たシルフィーはほんのり頬を紅くして、まるで見惚れているような顔をしていた。だが、レージの視線に気づいた途端に顔全体を真っ赤にして、顔ごと視線を逸らせてしまった。

 幻想的な光景なのはわかるし、直接見られると恥ずかしいのも知っているが、それよりもまずこの状況をどうにかして欲しいと思い、妖精によって視界を遮られるまで、彼女に切実な視線を送り続けるのだった。

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