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僕は悪魔の子  作者: 長月よる
11/15

10.モンスター討伐

 そろそろ大樹の森に行きたいところだが、今日はその軍資金とするためギルドで依頼を受けに来た。何かの討伐依頼をヒマーリと一緒に受けようと掲示板の前に立ったのだが、受付からエミリアを呼ぶ声が聞こえたため、皆でその声の下へ行く。受付にはアンナが切迫した雰囲気を纏っていた。


「お取込み中のところ申し訳ありません」

「いえ、それよりもどうされましたか?」

「実は――」


 アンナは、その雰囲気とは対照的に落ち着いて事情を説明する。その雰囲気は緊急事態であることを伝え得るが、その言葉遣いは相手を冷静にさせる。


――幻霧の森外縁部は低ランク冒険者の修行場になるほど弱いモンスターが多い。しかし、「ナガテザル」というモンスターの群れがその周辺にまでやってきているのだと言う。ナガテザルは低ランクのモンスターなのだが、それが群れを成すと危険度が極端に上がる。今回は、五十を超える群れが確認でき、危険なだけでなく周辺の森の幸を食べつくしてしまうこともあって緊急性が高い。


 そこで、困ったときのヒマーリである。彼女たちはギルドからの信頼が非常に高いようで、こういった依頼はよく回って来るのだとか。


「分かりました。丁度依頼を探していたところですし、早急に対処致します」

「よろしくお願いします」


 こうして僕たちは幻霧の森に向かった。




 僕たちは、キーラを先頭に幻霧の森へ足を踏み入れる。

 件のナガテザルの群れは森の中腹部辺りを根城にしているらしく、早朝に果実が多い外縁部にやって来るのだとか。

 しかし、それだけではいまいちモンスターの概要が掴めないため、隣でメンバー全体の様子を俯瞰して見ているエミリアに質問する。


「なあ、ナガテザルってのはどんな攻撃をしてくるんだ?」


 僕の質問に、エミリアはいつもの微笑みを以って優し気に答える。


「基本は長い手による直接攻撃です。握力が強いので掴まれないように。それから群れの規模からして、テシロザルも居るでしょう。こちらは風属性魔法で攻撃してきます。脅威ではありませんが妨害に優れていますので、ナガテザルとの群れを形成していると非常に厄介です」


 つまり、今回の要点は群れを成したことだ。何故そんな事態になってしまったのか気にはなるが、とにかく数が厄介という話しのため、引き気味に戦えば大した問題にはならないのだろう。囲まれないように遠距離から攻撃すればよい。近距離では危険のはずだが、ヒマーリはどう戦うつもりだろうか。


「どうやって戦う?」

「今回はレイとフランの訓練にしようかと。レイにはキーラを、フランには私が付きます。他はそのサポートです」

「分かった。僕もサポートに回る」


 どうやらヒマーリにとっては訓練感覚の相手らしい。まあ、エミリアとキーラは別格だろうから、大抵の事態には対処できるという判断だろう。それにこれほどの数の的にはそうそうお目に掛かれない。いい練習か。


 不意に疑問が生じた。ギルドでは、剣士か魔法師というように役割はどれか一つを記入するようになっていた。そう考えながらエミリアの腰に携えている剣を見る。


「エミリアって、剣士だよね?」


 不思議そうにそう言うと、僕たちの少し前を歩くローラがクルッと振り返って僕の疑問に嬉しそうに答えた。


「エミリアは剣も魔法も凄くて双刃っていう二つ名があるの。」

「恥ずかしいですね」


 リーシャの言葉にエミリアは恥ずかしそうに頬を赤らめる。そんな雑談を挟みながら歩いていると、前方の木の枝に一匹の魔物を見つける。どうやら件の魔物らしいが、様子がおかしい。

 僕は独り言を呟くように思ったことを述べる。


「偵察か?」

「ふーん、よく気づいたな。私もそう思う」


 僕の言葉に反応したのはキーラだった。僕からすれば丸見えなのだが、木の葉が生い茂る中、キーラはどうやって見つけたのだろうか。魔法を使っている様子はなく、単純に目視で気づいたのだとすれば、驚異的な観察力だ。まだ彼女を侮っていたかもしれない。


「まあ、この先に居るってことよね」

「そうだね……レイ、なんか変」

「強がってたもんね。でもそれも違うなって思ったんじゃないの? 迷える年ごろだから」

「ぐっ……!」


 何やら前の三人で盛り上がってしまっているが、そんな騒いでいると――


「……行ってしまったな」


 当然、モンスターは奥へと逃げてしまった。恐らく仲間に危険を知らせに行ったのだろう。大群になって気が強くなっているだろうから、怖がって逃げることはないだろう。


「どちらにしても変わりません。さ、戦闘態勢。レイ、前衛は危険ですから気を引き締めて」

「分かってます」


 キーラとレイ、アマリアが先行して奥へと進む。モンスターの鳴き声が徐々に聞こえるようになり、ついにその音の発生源――全身を白っぽい毛で覆われ、長く強靭な尾が特徴的なナガテザルの大群と相まみえる。だが、中には手が真っ白な魔物も若干混在しており、見た目的にあれがテシロザルなのだろう。

 モンスターたちは僕たちを威圧するように叫んでいたが、一匹が動き出すとそれにつられて一斉に向かってくる。


「来るぞ!」


 全体が緊張に包まれる中、僕は群れの後ろに居る十数体のナガテザルに違和感を覚える。それは大きく息を吸い込み、その喉辺りが大きく膨らんだ。

 何か分からないが、僕の勘が警鐘を鳴らし、反射的に魔法を展開する。


「ぐ、なに……?」


 耳を劈くような奇声が辺りに響き渡り、それに怯んだ前衛の足は止まる。中でも、レイが膝をついて耳を押さえながら苦しそうに顔を歪ませている。すぐさまリーシャの魔法によるカバーが入り、その魔法を受けた三人はその場から後退した。

 それを見て魔法を解除する。あれは回復魔法だろうか。


「これは……」

「初めて見る行動ね」


 言葉を詰まらせるエミリアとローラが隣で驚愕した表情でそう言う。しかし、ローラはすぐさま魔法を展開する。

 その魔法は今まで見たことの無いもので、魔法をかけられた前衛の三人がうっすらと淡い青色に包まれた。

 それを見て思わず疑問を零す。


「これって……?」

「強化魔法よ。といっても、これは防衛特化だけど」


 ローラは僕の疑問に落ち着いた様子で答えてくれた。彼女の魔法を受けた三人は怯みから立ち直って戦闘を再開する。まるで奇声が効いていないように見える。

 前衛の三人から目を離さずに、ローラはエミリアに指示を乞う。


「どうする? 取り合えず障壁張ったけど、じりじり削られるわよ?」

「そうね……一番手っ取り早いのは、後ろを狙い撃ちすることかしら」


 二人は後ろから狙っていくようだ。

 あの攻撃は、後ろに居た僕たちにはあまり効果がないようだった。せいぜい、うるさいくらいの効果だ。距離的な理由もあるのだろうが、恐らくあれは魔法の類なのだろう。魔力の波が飛んできているように見える。よって、魔法干渉に弱い者に大きな効果があるのだろうと推測できる。これなら、後衛が影響を受けないことに納得がいく。

 

 そこまで考え、自身の見解を話し合っている二人に口を挟む。


「二人とも、あれは魔法の一種だと思う」

「魔法? あれが?」

「なるほど。魔力量によって効果に差が出るという訳ですか」


 二人は半信半疑といった様子だが、一応の納得はいったようだ。

 まあ――何にしても吹き飛ばしてしまえば関係ないのだが。


「じゃあ、ばっちり援護しますか」

「レージさん、何を――」


 僕に疑問を投げかけるエミリアに構わずに風の魔法を再度展開する。

 奇声を上げての攻撃なのだから、声に魔力を乗せているのだろう。逆手に取れば、声を抑えさせれば攻撃は届かないことになる。また、シロ、シロ……何だったか。とにかく、風魔法を使うモンスターの攻撃も防げて一石二鳥だ。


 周囲に不自然な風が吹き渡る。レイたちには頬を撫でる優しい風を、後ろのモンスターにはまともに動けないほどの強風を。この場を、風を用いて完全に支配する。


「なに……これ」

「相変わらずすごいですね……しかしこれで戦いやすくなりました。まずは数を減らしましょう」


 エミリアが炎の魔法を展開する。ここでそれは危ないだろうと思ったが、エミリアが作り上げた小さな火球は的確にモンスターの腹を捉える。その隣のモンスターにフランの矢が刺さっていた。

 

 黙々とモンスターを減らしていくメンバーたち。僕は完全に支援に回っていたため討伐はしていないが、支援も要らなかったのではないかと思うほどのペースでモンスターは倒れていく。とにかく前衛のキーラの動きが際立っていた。


「だいぶ減りましたね」

「そろそろレイに任せるか」


 新人二人の引率が少し声を張り上げてそう言った。だが、肝心の新人二人は圧倒的な実力差を目にして萎縮してしまっている。

 しかし、キーラにそのような繊細なことが分かるはずもなく、レイは強引に最前線に立たされていた。後衛では、ローラとリーシャがフランを励ましている。

――強く生きろよ、その扱いの差を見た僕は、心の中でレイを励ましていた。


 残党狩りに移行した戦況は、前衛のレイがてんやわんやしながらも順調に進んでいた。ある程度はサポートしてくれるとは言え、キーラはなかなかのスパルタ指導を施している。

 他方、後衛たちは黙々と攻撃していた。動く必要がないのと、集中力が重要な攻撃系魔法師からすれば当然のことだろうが、フランは明らかに集中力が切れ始めていた。自慢の攻撃の精度が落ちている。


 僕は特に何もすることがなかったため、ローラの魔法を観察していた。


 彼女の魔法は非常に珍しいものだ。特段おかしいとは思わないものの、そのように魔法を使う者はそうそういないし、そもそもそんな魔法のイメージが湧かない。

 そこで、ジッと眺めていたのが気になってしまったのか、ローラが照れた笑いを見せながら僕に話しかけた。


「何かおかしなところでもあるかな」

「いや、綺麗だなと思って」


 僕は微睡にも似た心境でそう答えた。彼女の魔法は豊かな色彩を放つため、思わず見惚れていたのかもしれない。

 そうやって呆けている僕に、ローラは焦ったようにまくしたてながら提案する。


「な、なによもう……そんなことより、フランを見てあげてよ」

「ああ、分かった」


 ローラに促されフランの様子を見に行くと、顔に上手くいかないと書いてあるような、四苦八苦している様子だった。

 僕に気づいていない彼女に後ろから話しかける。


「どうした?」

「ひゃあっ……あ、レージさぁん。その、どうしてもうまくいかなくて。素早く倒せないし、早く倒そうとすると当てられないんです。」

「うーん……」


 フランは甘えるように悩みを打ち明ける。

 しかし、討伐速度は単純なパワー勝負になりがちなため、彼女のような技巧派には向いていないと言える。それに、彼女の魔法は細長い矢の形をしているため、物を投擲するように落ち着いて狙うことが前提だ。力んでしまえば当たるはずもない。


「単純な魔法の威力を上げるには時間がかかる。すぐには難しいんじゃないか?」

「そんなー……」

「でも――」


 確かにパワーという点では足りていない。だが、彼女は技巧派だ。力押しではなく急所への一点攻撃に特化すれば大きなダメージを出せるだろう。

 僕は自分が意識していることをフランに教える。


「――急所をうまく狙えば大きなダメージに繋がるだろ? 多くの動物は首が急所になるから、そこを連続で当て続ければいい」

「できませんよぉー……」

「練習あるのみだって。ほら」

「うぅー」


 僕の説明に、フランはなくなくといった感じで魔物に向かう。そして、彼女が放った魔法の矢はテシロザルの肩を掠めて後ろの木に刺さった。外れだ。

 泣きそうな目でこっちを見るフランに苦笑いしつつ、次の攻撃をするよう催促する。観念したのか、彼女は涙目になりながらも連続で魔法を行使する。


 そう言えば――彼女たちの魔法を見ていて、こうすればいいのにと思うことがあったのだった。当たらない攻撃を続けるフランへ聞こえるように大きな声でアドバイスをする。


「フラン、もっと広い視野を持て」

「ふぇ?」


 涙が収まりかけているフランは、身体半分こちらに向けて僕の言葉を聞く。


「一体を追い続けるより、弱っていたり、狙いやすい奴を狙う方が効率がいい。全体を俯瞰しながら、感じながら攻撃するんだ」


 自分でも難しいことを言っていると自覚できるが、それを聞いたフランは大きく首を横に振りながら止まりかけた涙が瞳を覆う。


「そんなのムリですよー」

「ひとまずは、一、二回攻撃したら全体を見るように」

「はいぃー」


 フランは泣きそうな声で敵に向き直った。何だが厳しいことを言ったような気持ちになるが、彼女のためだと割り切る。欲を言えばもっと色々言いたかったが、今はこの辺にしておこう。

 一回攻撃して首を振りながら全体を見回すフランの不器用な姿を眺めていると、話しを聞いていた様子のリーシャとエミリアが話しかけてくる。


「全体を見ながら?」

「指揮官にならともかく、変わった指導ですね?」


 二人は僕の言葉に疑問を持ったようだった。

 確かに一点に集中した方がその時は早いかもしれない。しかし、基本的に倒し終わってから全体の様子を見るのでは結果として効率が悪い。一人なら攻撃や撤退の判断に、チームならカバーや臨機応変な立ち回りに役立つ。生き残るためには、絶えず全体を見ることが必須なのだ。


「一人が全部を見れるわけではないからな。それに、フランは気づいていないようだが、何も一人で倒す必要はない。前衛が仕留めそこなった奴を狙ってもいいんだ」

「確かにそうですね」


 エミリアの肯定が心地よい相槌に聞こえ、思わず感覚的なことまで語ってしまう。


「それに、魔法使いなら全体を感覚的に認識できるだろうし、そうなればもっと楽になる」

「はい?」


 喋った後に気づいたが、これを説明するのは骨が折れる。そう思い、手を使って誤魔化そうと曖昧に話す。


「いや、そんな感じってだけで大したことは――」

「――どのようにするのですか?」


 エミリアは僕の誤魔化しの言葉に構うことなく具体的な説明を求めてくる。

 まあ、やり方くらいなら……


「ええっと……魔力を全体に広げる感じで、探知魔法使うような――」

「……難しいですね。良く分かりません。それに、探知魔法ですか?」


 何とか説明しようとした結果、余計な事まで喋ってしまった。おかげで、エミリアが困惑してしまっている。

 どうにか簡単に説明したいのだが――


「――風」

「はい?」

「ちょっと目を瞑って」


 咄嗟に閃いた僕は、エミリアに説明するために目を瞑るよう求める。エミリアは頭に疑問符を浮かべていたが、あっさりと目を瞑って次の指示を待つ。

 それを見て風魔法を展開する。と言っても、攻撃ではなく探知に近い、そよ風を吹かせる程度の魔法だ。


「風を感じるか?」

「ええ、感じます」

「じゃあ、その先は風が吹いているか?」

「はい?」


 エミリアは僕の言葉に二度目の疑問符を浮かべる。しかし、それに構わず説明を続ける。


「風を感じる、その感覚をより遠くに向けるんだよ。魔力を使って」

「魔力に感覚を通すようなもの、でしょうか? そんなことが……」

「まあ、感覚的にはそんな感じ。取り合えずは、目を開けてやってみたら?」


 エミリアはゆっくりと瞼を持ち上げる。その瞳の先は何もない空間に向けられている。あるとすれば穏やかなそよ風くらいだろうか。

 エミリアは、脱力したように表情を柔らかくした。


「何となくですが、風を感じた気がします」

「そう? なら良かった」

「私もやってみる!」


 そう言って、リーシャは力強く目を瞑って唸りだした。しかし、上手くいかない様子で、すぐ目を開けて僕を見た。


「分かんないよ」

「フランと同じで練習あるのみ、だよ」


 魔物の残党狩りをするついでに、まるで瞑想でもするように周囲を感じようと集中する二人と、少しづつだが着実に首を捉えることができるようになったフランを感じながら近くの岩場に座る。


――その瞬間、確かに感じた。鬼の形相を浮かべる――怒髪天を衝くキーラの視線を。


 後々、面倒くさいことになりそうだと思い、げんなりする僕だった。

天を穿つほどの怒りをレージにぶつけるキーラ、それに呼応して集まる仲間たち。

怒りが怒りを呼び、それはキーラの怒りをも飲み込んでしまう。元々はレージに向けられていたはずの怒りは、何時しか形を変えてキーラに向かっていた。キーラはどうなってしまうのか。彼女の運命や如何に!


次回「なに、いつものことさ!」




……冗談はこれくらいにして、次回はエルフたちの森へ旅立ちます

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