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僕は悪魔の子  作者: 長月よる
10/15

9.デート・・・?

 市民街区教会からの帰り道。悪魔たちの密会の現場を目撃したレージは、自身が見て見ぬ振りしてきた過去を思い出し、今に向き合う覚悟を胸に力強い足取りでギルドへ戻った。




「は……く……いた……――」


 強い朝日が瞼を超えて僕を目覚めさせる。いつになくすっきりとした頭で周囲を見渡すと、そこは宿の一室だった。

――昨日、ギルドに戻った僕は、ヒマーリのメンバーとアンナに悪魔たちの密会のことを話し、悪魔たちを追って大樹の森へ向かうことを伝えた。しかし、リーシャからの猛反対やフランの悲しそうな視線が僕に突き刺さる。追い打ちにエミリアの折衷案により、もう少しだけサンカに留まることなった。


 今日は朝からヒマーリとの予定がある。そのため、夢で見た何かを思い出そうとしながら、手早く着替えを済ませて部屋を出る。部屋の前には、そわそわとしているリーシャと壁にもたれかかっているレイが待ち構えていた。


「おはよう、レージ!」

「遅いぞ」

「ごめんごめん」


 両隣を二人に挟まれながら廊下を歩く。レイは横目に鋭い視線で僕を睨みつけ、リーシャはジーっと熱い視線を送って来る。昨日の話しが相当効いたのだろうか。逃がさないと言っているようで何だか怖い。


 階段を下りたところで、受付に立つ女将さんがこちらを見るや否や、ニヤニヤと面白がって僕たちに話しかける。


「聞いたよ、皆でデートするんだってね?」

「そんなんじゃないって」


 楽しそうに揶揄う女将さんに、僕は呆れた視線を向ける。だが、隣では可愛らしく照れたり、顔を真っ赤にして俯いてしまったりと女将さんの思惑通りになってしまう。

 しかし、女将さんはまだ飽き足りないようで、全く自重する気がない小声で揶揄うことを続ける。


「で、誰が本命何だい? エミリアちゃんじゃあないのかい?」

「あのねぇ……」


 女将さんの言葉に困り果てた僕は、一々相手するのがバカバカしく思うようになる。どうにかして話しを終わらせよう。

 呆れながらこの場を立ち去る方法を思案するが、僕が考えつく前に、顔を真っ赤にしたレイが耐え難いといった様子で会話に割って入った。


「エミリアたち、待ってるから……行こう……!」

「あ、ああそうだな。そうしよう」


 女将さんは、煽るように口元に手を当てながら受付を通り過ぎる僕たちに視線を送る。この様子では今後、レイはおもちゃにされそうだ。

 未だ楽しそうに“がんばんなよ”などと揶揄う女将さんに構わず食堂へと向かった。


 食堂には、エミリアたちがテーブル席二つをくっ付けて座っている。残る席は前後に分かれて中央手前に二つと奥に一つ。端の席に座るキーラが僕たちに気づき、やれやれと首を振る。


「ようやく来たのか」

「おはようございます。さ、そちらへ」


 空席の隣に座っているエミリアは、正面の空席に座るよう促し、レイは僕から離れて行く。どうやらエミリアの隣に座るようだ。となると、残る席は二つ。

 リーシャは頬をほんのり染めて僕を見る。


「早く座りましょう?」

「分かった分かった」


 僕は、朝から興奮気味のリーシャを宥めながら席に着いた。何というか、もう一仕事やり終えた気分だ。起きてすぐ気疲れが激しい。

 僕が一息ついていると、出会った時よりも格段に優しい顔を向けるようになったローラが、隣から補足するように話しかけてきた。


「朝ご飯はすでに注文済みだから、もう少し待って」

「ああ、分かった」


 あまり話したことの無かったこともあり、急に話しかけられて驚いてしまう。それを見て、ローラや正面のエミリアが失笑していた。

 不愉快ではないが、何か遊ばれているようで気に食わないなと、抵抗のつもりで表情を歪ませてみる。そこで不意に気づいたが、何やら強い視線が僕に向けられている事に気が付いた。


 一つは、焼けるほどに見つめるリーシャの視線。二つは、チラチラと力なく覗き見るレイの視線。そして、穴が開くほどに強烈に睨みつけるキーラの視線だ。キーラの背後に真っ黒な思念のような物すら見える気がする。その正面に座るアマリアは無表情だが、隣に座るフランが可哀そうなくらい萎縮してしまっている。


「お待たせしました」

「今日もお父さんの自信作! 食べて食べて!」


 そんなこんなで時間を潰していると、厨房から二人の子どもが料理を持って来てくれた。お兄さんの方は相変わらず不愛想だが、妹の方は元気いっぱいで愛くるしい。

 微笑ましく眺めていたが、少年は僕を見るや否や、不機嫌そうに視線を逸らした。彼の態度は非常に分かりやすく、エミリアに気がある素振りを見せている。朝食から一緒に、それも正面に座っているのを見て嫉妬されてしまったみたいだ。

 僕は悪戯心を抑えきれず少年に話しかけた。


「嫉妬かな?」


 少年は、自分に向けられての言葉と認識した途端、少し語彙を強めて反論する。


「違うし……!」

「そうか」


 僕が返した言葉はその一言だけだったが、怒ったような、照れたような表情でそそくさと料理を置いて厨房に戻ってしまった。それを僕の隣から料理を置いた女の子と共に眺める。

 女の子は女将さんに似て、ニヤニヤと悪戯っぽく笑って僕に告げ口をする。


「お兄ちゃんは、はずかしがりやなの」

「可愛らしいな」

「でしょ!」


 僕が少年を揶揄うように言うと、女の子は元気よく同調して厨房に走って行った。奥からは女の子が少年を揶揄っている声が聞こえる。案外おませさんな子だな。


 それから数回、子どもたちは料理を運んでくれたが、その度に女の子を含めた全員でニヤニヤと笑い、それに構わないように少年は黙って料理を運び続けた。ただ、僕にだけは恨むような視線をぶつけてきていた。


「うわぁ、おいしそう!」


 皆がリラックスする中、一人緊張から解放されたフランは、心から嬉しそうに料理の感想を述べる。料理は色彩豊かで、それはアマリアの表情が緩むほどのものだった。

 しかし、僕はその料理を見て当惑していた。それに気が付いたのか、ローラが不思議そうに僕を気遣う。


「どうした?」


 声をかけられて思わず驚いてしまう。それを不審に思った他のメンバーからも、僕に意識が注意が向く。それを何とか誤魔化そうと、ローラに大袈裟に両手も使って否定する。


「いや、何でもないよ。ちょっと珍しかっただけだから」

「そう……」


 ローラは何かを察した様子で、それ以上言及してくることはなかった。他のメンバーも不思議と温かい視線を向け、キーラでさえも眼光を弱めた。

 僕は苦手な雰囲気を感じ取り、咄嗟に話題を逸らす。


「さあ、食べよう」

「……そうね!」


 少し考える間を空けてから、ローラは空気を換えるように料理に手をつける。それを見た他のメンバーも料理を食べ始めた。静かにホッと一息吐いてから僕も料理に手をつける。


「美味しい……」

「そうよね! これはサンカの特産で――」


 ローラは自慢げに料理の解説を始める。それを僕は楽しく聴いていたのだが、またキーラに睨まれている気がして視線だけをキーラに向けた。

 しかしキーラは、僕とローラを優し気に見つめていて、それは何処か懐かしむような顔だった。エミリアもそれに似た顔をしていて、この二人だけは楽し気にこちらを見る他のメンバーとは違う雰囲気を纏っていた。






 朝食を終えた僕たちは、商店街で日用品の買い出しをしていた。と言っても、ヒマーリにはマメな性格のメンバーがいるため足りないものはなく、殆ど見て回るだけである。

 メンバーはある程度まとまりながらも、各々が好きに商品を眺めていた。


「こっち見てみよ!」

「おい、フラン引っ張らないで」


 楽しそうに次から次へとお店を見て回るフランに、それに引っ張りまわされて慌てながらもどこか楽しそうなレイ。そして――


「いい、いいぞ……! これはたまらない……」


 隣の、自分の娘たちに手を出さないように僕を監視するらしい変態。楽しそうで何よりだが、少なくとも僕は楽しくない。何なら、この変態の重りをさせられているような気さえする。まあ、こいつは僕から離れないようだから、適任なのは分かるのだが――ああ、愛しの我が家に帰りたい。


「皆さん、こちらに入りませんか?」


 エミリアの声がしたため、視線を固定しているキーラ以外はそちらを向く。そこは洋服を売っている店で、散り散りに行動していたメンバーはその店に向かって行く。しかしそこは、明らかに女性ものの衣装が飾られていた。


 これ幸いと、僕はキーラの背を押しながら説得する。


「ほら、僕は外で待ってるから行ってきな?」

「んん? そうだな、それなら――」


 キーラの反応はとても良好で、後ろ手にガッツポーズをする三秒前、エミリアは圧のある笑みでキーラを押す僕を見る。


「――もちろん、レージさんもご一緒に」

「いや、それは――」

「……変なことをしたら追い出すからな」


 エミリアに対抗しようとした途端、キーラがビクッと震え、すぐに声を抑えてそう言った。その言葉を聞いて、キーラは普段のヒマーリでの序列が低いことを再認識した。


「アマリアはこんなのが好きなのよね」

「……え、いや、えっと……好き」


 店内に入ると、既に各々が服を物色していた。当然、中に居るのは女性のみ。何をすれば良いか分からない僕と困惑している様子のキーラは店の入り口で立ち尽くしてしまう。それに気づいた店員が僕たちに話しかけてきた。


「カップルですか?」

「なっ!?」


 店員の見当はずれの質問に、キーラは顔を真っ赤にして固まってしまった。僕は日頃役に立たないそれに呆れた視線を向けるが、とりあえずキーラの代わりに否定しておく。


「そんなんじゃないよ」


 僕はカップルであることを否定するが、店員はそう返されることも予測通りのようで、満面の営業スマイルで僕たちに追い打ちをかける。


「ええー、お似合いですのに」


 めんどくさいことになったと周囲に助けを求める視線を向けるが、固唾を飲んで僕たちを見つめるばかりで近寄ってくる気配はない。エミリアに至っては、口元を押さえているが笑いが零れている。きっとキーラの表情が面白いのだろう。僕も当事者でなければそう思ったかもしれない。


 当のキーラは、我慢の限界だったのかプルプルと震えていたのが、店員に掴みかからんばかりの勢いで主張する。


「私がこいつとそんな訳ないだろう! 断じて違うからな!」

「ふふふ、それは失礼しました」


 店員は、キーラの威勢をものともせずに、含みのある笑みを浮かべながら僕たちから離れて行った。隣で荒い呼吸が聞こえる。


「はあ、はあ、全く……貴様も勘違いするな。分かったか……!」

「はいはい」

「おい、どこへ行く!」


 キーラとの会話を適当に流して、奥で手招きするリーシャたちの所へ向かった。

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