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激突3

「うわ、太陽まぶしぃ」


 店を出たとたん、佳奈美がそう言って和馬の影に隠れる。さりげなく澄と千華も大和の影へと避難していた。

 太陽はまだ高い位置にあり、燦々とその日を振らせている。

 大和と和馬は女性陣に体を掴まれて逃げられず、仕方なく手で目元に影を作る。少しずつ熱くなってきた気温が、冷房を激しく効かせているゲームセンターで冷えた体を温めた。


「とりあえず、これで一仕事終わった感じだな」

「ああ、やっと肩の荷が下りる」


 最寄り駅への道を歩きながら、大和は自分の肩を揉みほぐした。今日までの為に、澄のプレイ料金を肩代わりしたり、ほぼ毎日時間ギリギリまでゲームセンターで特訓していたおかげで、かなり疲れが溜まっている。いくらゲーム好きの大和といえ、しばらくは試合をする気分ではなかった。


「とりあえずしばらくは休憩だな。ゲーセンは行くけど、プレイはしない感じか。少し学校の勉強もしておかないとヤバい気がするし」


 さすがに半ば習慣化している行動をしないというのはあまり考えられなかった。それに、他人のプレイを見ているだけでも十分収穫はあるものだ。さらに、かなり強引な練習をつづけたせいで、自分の勉強の方が疎かになっているのも気になった。成績が落ちれば、親にカードを取りあげられてしまうため、強制的に休憩をせざるを得なくなってしまう。ゴールデンウィークが終われば、中間試験も間近に迫ってくる事から、そろそろ学校の勉強にも力を入れなければならない時期に入って来ている。タイミングとしてもちょうどよかったのだ。

 それを聞いて、和馬たちも顔をしかめる。


「そうか、中間が……」

「私テストって大嫌い……」


 何となく分かっていたことだが、やはり和馬と佳奈美は勉強が嫌いな様子で、中間テストの愚痴を言い合う。逆に千華と澄は優等生なのか、特に慌てた様子は無かった。

 それが気になった大和は二人に尋ねる。


「千華と澄は中間大丈夫なのか? 澄なんかは最近ゲーム漬けだったし、千華の通ってるあの学校ってかなりテスト難しいんだろ?」


 千華は高校二年生で大和の一つ上だった。敬語に直そうとも考えたが、それは千華自身に止められた。そして千華の通っている学校は、県内でもトップクラスの進学校だった。その話を聞いた時の大和と和馬の驚きは凄いものだ。


「私なら大丈夫よ。あの程度のテストなら、宿題とノートをざっと復習しておけば、問題ないし」


 澄は余裕綽綽といった表情で答える。お嬢様校で頭が良いことでも有名の大白女学院のテストをもってしても、澄にとってはその程度らしい。そこに佳奈美が補足を入れる。


「みみみは頭良いからねぇ。去年も成績はトップクラスだったし」

「やっぱり頭良いのか」


 あれだけカードの選択と戦略が上手いのだから、ある程度頭はいいのだろうと大和は予想していたが、想像以上の頭の良さに驚く。

 そして千華は苦笑いをしながら答えた。


「少し不安はありますけど、たぶん大丈夫ですわ。一応毎日勉強はしてますもの」

「マジ? あれだけ練習した後に勉強とか、俺は無理だ」


 千華と佳奈美の練習風景をしっかりと覚えている和馬は、その後に勉強をするなど、考えられなかった。そもそも、勉強をほとんどしない男のため、説得力はほぼゼロだが。


「じゃあみんなで勉強会しましょうよ!」


 突然佳奈美がそんな提案をする。


「勉強会?」

「そうそう、皆で誰かの家に集まってテスト対策の勉強会をするんです!」

「そんなの師匠たちの邪魔になるだけじゃない」


 佳奈美の意見に、澄が呆れたように告げる。

 そもそも、学年どころか、中学生と高校生の違いがあるのだ。試験範囲が被るなどということは、万が一も無い。


「うー」


 反論できない佳奈美は、唸ることしかできない。しかし、そこに和馬が助け舟を出した。


「俺はいいと思うぜ。一人でやっても、つまらないしな」

「勉強が楽しい物だと思ったことは無いが……まあ、俺も構わないぞ」

「良いんですか?」

「わたくしも構わないですわよ」


 和馬の意見に大和も賛同し、高校生組は問題ないと言うことになった。単純に和馬は女の子と勉強会がしたいだけで、大和は休憩の時間にカードゲーム談義でもできたらなーという浅はかな考えだが。


「いいのかしら、こんなに色々迷惑かけちゃったのに」

「もちろんオッケーだぜ。むしろここまで仲良くなったのに、ハブにするとかありえないし」

「ああ、澄の都合が合えば、一緒にどうだ?」

「ありがとうございます。その時は行かせてもらうわね」


 澄の参加が決まり、結局全員が集まることが決まったところで、駅に着く。

 大和たちは、ちょうどよく到着した電車に乗り、自分達の地元駅へと戻った。



 駅からは帰り道が違うということで千華、佳奈美、和馬と別れ、澄と大和は二人で歩く。


「今日はありがとうございました」


 澄が丁寧な言葉使いで頭を下げる。


「気にすることじゃない。俺の方も、なんだかんだで因縁みたいな試合になっちまったし」


 最初は澄の兄のカードを取り返すだけの依頼だったはずが、最終的には昔の友人が絡み、大和もおおいに当事者として舞台に上がることになってしまっていた。

 むしろ、試合中は澄が大和の因縁に巻き込まれてしまったような形になっていた。


「それでもありがとうござます。師匠がいなかったら、私はこんなに強くなることは出来なかったでしょうし、兄のカードを取り返すことも出来なかったと思います。それに、今までは兄のプレイする姿を見てきただけだった私が、こんなにWFを楽しめるなんて、正直驚いてるんです」

「そうなのか?」


 兄の後ろ姿を見ていたのなら、当然澄もWFが大好きなのだろうと思っていたが、どうやらそうでは無かったらしい。


「昔は、兄によく遊んでもらってたから、なんだかWFに兄を取られたような感覚があったんだと思う。だから、前はプレイしてみても、そこまで楽しめてなかったのかなって。けど、本気でプレイしてなかっただけなんだなって、今回のことでそう思ったわ」

「WFのファンが増えてくれたんなら、俺は嬉しいな。強い奴が増えるのはいいことだ」


 歩いているうちに、交差点に出る。ここからは澄とも違う道になる。


「ふふ、師匠らしいです。じゃあ私はこっちの道だから」

「そうか。じゃあまたゲーセンでな」

「ええ。あ、そうだ!」


 そこで澄は何かを思い出したように鞄の中からデッキケースを取り出す。そして大和に一枚のカードを差し出した。


「あの、これ師匠が持っていてもらえないかしら? 今回のお礼という訳じゃないけど、師匠に持っていてもらいたいの」


 その手にあるのは、ワンオフカード《極限の聖なる領域》だった。それを見た大和は当然動揺する。


「どういうことだ? それは兄さんからもらったカードなんだろ? それに澄のデッキのキーカードのはずだ」

「確かにそうね。でも、このカードがあったから、今回こんなことになったことも事実なの。このカードがあったから、兄はあの人たちに狙われたし、たまたま私が持ってたから、兄は大切なカードを取られたわ。このカードが全ての元凶であることも確かなのよ。たぶんこのカードは私みたいに弱いプレイヤーが持っていても、問題しか起こさない気がするの」


 澄の言う通り、玲人たちが最初に澄の兄を狙ったのは、ワンオフカードを手に入れる為だった。そしてそのカードを澄に渡したと知った玲人たちは、すぐに作戦を変更、澄をフィールドに引っ張り出すことにした。そのために兄は思い出のカードを奪われ、そのショックからWFを辞めてしまった。レアカードだからこそ付随される問題と言うものを、澄は嫌と言うほど理解させられたのだ。


「多分、私が持っていれば、今後も同じようなことになるかもしれない。あの人たちが、私が持ってるって知ってたんだし、他の人もどこからかその情報を聞きつけてくることがあるかもしれない。そうなったら、今度は私がみんなを巻き込んじゃう。だから、師匠にこのカードを持っていてもらいたいの。師匠の強さなら、このカードが呼び込む問題も解決できると思うから。だからお願い! このカードを持って行ってもらえないかしら?」


 澄は頭を下げながら、もう一度大和にカードを差し出した。

 そのカードを見ながら、大和は考える。自分なら澄の言ったこのカードの呼び込む問題を解決することが出来るのだろうかと。ついさっき大和は、玲人との戦いに実質負けているのだ。そんな奴がこのカードを手にする資格があるのだろうかと。

 しかし、そんな大和の葛藤とは裏腹に、手はカードを受け取ろうと動いていた。それは、大和のWFの一プレイヤーとしての想いが、ワンオフカードを使ってみたい、手にしてみたいという気持ちを抑えきれられなかったのだ。

 そして澄の持っているカードに大和の手が触れる。

 瞬間、大和の心の中で何かが決まった。

 どうせ、今回の事件にも巻き込まれたのだ。それならば、このカードが持ってくる問題ととことん関わっても良いんじゃないだろうか? このカードが持ってくる問題は、必ず強者が絡んでくるはずだ。それならば、自分の力を磨くためにも、もっとWFを満喫するためにも、有効な手段になるはずだ。大和はそう考えカードを受け取った。


「分かった。このカードは俺が持っておく。けど、貰うわけじゃない。ただ預かっておくだけだ。もし澄がこのカードを使いたいと思った時は、遠慮なく言ってくれ。その時はすぐにこのカードを返す」

「ありがとうございます。じゃあまたゲーセンで」


 澄は大和にカードを受け取ってもらうと、安心した様子で一つお辞儀をして帰り道を歩いていく。その背中が小さくなるまで見送った大和は、改めて自分の手の中にあるカードを見た。

 そのカードは、まるで大和の手に渡ったのを喜ぶかのように、不気味に黒く輝いていた。


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