激突2
動いたのは同時だ。
ヤマトが空を蹴り、マハが羽ばたく。これまで距離を取っての攻防をしていたマハが、この局面に来て初めて自ら前へ出て来る。その手には、剣が握られていた。
見た目だけでは、その剣の特徴が分からない。しかし、マハは近接武器を持っていないウォーリア。ユニットカードなのは明らかだ。大和はすぐに自らもユニットカードを発動させる。
「《レーヴァテイン》発動」
それはこの試合の為に入れ替えたカードの一枚だ。範囲攻撃を備えた武器で、自分の周囲事炎に包む、シェキナーの剣版といった所だろう。
そしてヤマトとマハが正面からぶつかり合う。
レーヴァテインから炎が吹き出し、二人の周囲を真っ赤に染める。それと同時に、マハの剣が円形になっていた炎を真っ二つに切り裂いた。
よく見れば、レーヴァテインにも切れ込みが入っている。それは徐々に広がり、レーヴァテインを二つに割った。
「《エアの剣》か!」
気付いたときにはすでに遅い。剣を失ったヤマトはその無防備な体に剣を振り下ろされる。しかし、ギリギリ左手の盾を剣と体の間に滑り込ませた。同時に、エアの剣に対抗するためのユニットを発動させる。
「封印の鏡!」
その発動はギリギリ間に合った。エアの剣の能力を取り込み、伝説の剣をただの剣に戻す。
ガチンと重い音がして、盾に剣がぶつかり受け止められた。
剣の能力は奪えたが、それでも不利な状態は変わらない。無理な体勢で受け止めたため、力が入らずマハに押し込まれる。
マハが強引に剣を振り抜き、ヤマトは後方へと飛ばされた。ヤマトは近くのビルへと着地し、一旦体勢を立て直そうとする。直後、何かがヤマトの足もとへと飛来し、コンクリートに突き刺さった。
ヤマトはとっさに飛び去ろうとする。しかし体が動かない。
「なっ! こんなもんまで」
ヤマトの視界にある物。それは汚れた釘だった。ユニット名《血で汚れた釘》イエス・キリストを張り付けたといわれる釘をイメージしたカードで、これがウォーリアの影に刺さると、その場に動けなくなる。
そもそも飛んでいることが多いウォーリアは影ができにくいため、使えないと言われたカードの一枚だ。しかし、成功すればその驚異は十分な物だ。動けない状態から攻撃をくらえば、この状態なら即死は間違いなしである。
身の危険を感じながらマハを見れば、マハはダメ押しとばかりに新たなユニットを発動させた。
《セイクリットキャッスル・オブ・ア・ゴッド》それは天使系ユニットの仕様出来るカードだ。範囲を指定し、そこに教会を建てる。その中にいる間、天使系ウォーリアは、攻撃力・防御力共に上昇し、逆に人間系、鬼系ウォーリアの攻撃力と防御力を減少させる。
その効果は絶大だった。現在のヤマトは鬼神化の効果もあって人間、鬼両方の属性を持っている。つまり、カードの効果も重複してしまうのだ。
「マジかよ、完全メタじゃねぇか」
「当然だ。テメェに勝にはこれぐらいしないとな! 喰らいな、俺の全力だ!」
動けないヤマトの視界から悠然とその上空でかまえるマハを見上げる。
マハはその場に停滞し、ヤマトに向けて腕を突き出している。そしてマハの周囲にはいくつもの雷球が輝いていた。
ヤマトはそれを睨みつけるが、何もできない。そして一斉に球体が光り、捌きの雷がヤマトに向かって飛来する。
「一か八か」
大和は直撃の直前、封印の鏡に封じられていたエアの剣の効果を発動させる。
エアの剣は、神が天と地を分離するのに使ったと言われる伝説の剣。その剣の効果は、触れた物全てを二つに分ける効果。
その効果を使い、盾に当たった捌きの雷を二つに分離し、無効化する。しかし、どう考えてもその数が多すぎる。その上ヤマトの所持している盾は、体を隠せるような大きさでは無い。精々胸と顔を隠すのが限界だった。
そしてヤマトの視界が、影に埋め尽くされた。
巨大な爆発が起き、マハの体にも衝撃波が伝わってくる。これだけの攻撃を加えれば、小手先の何かをしてももはや死んでいることは確実だろう。
しかし、玲人は一切気を抜かず、爆発した地点を見ていた。
理由は簡単だ。ヤマトがまだ死んでいないからである。画面上のHP欄は、極僅かだがヤマトのHPが残っていることを示している。
そしてその理由はヤマトのHP欄の横にあった。そこにはフィナのHP欄があり、フィナの顔には×印が撃たれていた。
「庇われたのか」
「まさか澄に守ってもらう日が来るとはな」
教え子に守ってもらい生きながらえる。何と恥ずかしい事だろうか。できることならば、大和はこの場ですぐにでも降参したい気分だった。
だがそれは出来ない。この試合には、澄のワンオフカードが賭かっているのだ。
先ほどの衝撃で釘は抜けた。領域の時間も経過したのか、教会が町から姿を消す。
ヤマトはゆっくりと立ち上がった。
「勝負自体は俺の負けだ。パートナーを犠牲にして生きながらえてちゃ、勝負に勝ったとは言えない。けど、この試合は勝たせてもらう」
「やらせると思うか? 勝負にも試合にも俺が勝つ!」
大和の予想では、玲人はすでにマハのユニットを使い切っている。ヤマトの位置をこちらより正確に把握し奇襲を仕掛けてきたことから、サーチ系に一枚使われているはずである。そして最初の攻防でミストルティンとシェキナーの燃え盛る弓を使った。二度目の攻防で人形を爆発させた爆弾を抱く兵士を、フィニッシュタイムにエアの剣、血で汚れた釘、セイクリットキャッスル・オブ・ア・ゴッドの三枚を仕様している。
そしてヤマトの残りユニットは一枚。剣璽の勾玉が残っていた。
「剣璽の勾玉発動。対象、草薙の剣」
それによって、草薙の剣のユニットが自分のユニット欄に戻ってきた。躊躇わずそれを発動させる。
「草薙の剣、発動。さあ、決着の時間だ」
「来いよ、全力で叩き潰してやる」
能力神器が発動し、ヤマトの力を上昇させる。
左手に縄縛り用の縄を持たせ、いつでも放てるように準備する。相手がユニットを使い切ったからといって油断はできない。相手は玲人の上に、ヤマトのHPは下手な攻撃をくらえば、すぐにでも尽きてしまいそうなほどしか残ってないのだ。
じりじりと距離感を図りながら、ヤマトとマハはにらみ合う。そして同時に動いた。
マハが手を付きだし、最速で雷を放ちながら近づいてくる。玲人も、ただ雷を飛ばした程度では当たらないことなど分かっているのだ。
ヤマトはそれを躱して、マハを斬るために前へと踏み出した。縄を飛ばし、マハの動きを妨害しようとする。しかしマハは、羽ばたいて縄を躱す。お返しとばかりにマハが雷を放とうと手を大和に向けて突き出す。その手に剣が突き刺さった。
「なっ!?」
ヤマトが縄を飛ばした直後に、草薙の剣も投げたのだ。
剣は真っ直ぐにマハの腕に突き刺さり、雷を打ち消す。そしてヤマトの能力である部位破壊が発動し、マハの腕が動かなくなった。
「これで!」
再び生み出した縄で、今度こそマハの体を縛り上げる。そして腰から剣を抜き放ち、マハの心臓に向かって突き刺した。
だがこれでは、まだマハのHPを削りきれない。すぐに剣を引き抜き、畳み掛けるように首を切り裂く。ダメージエフェクトが飛び散り、マハの首に赤い線を描く。だがまだ死んでいない。そのタイミングでマハを縛っていた縄が溶ける。マハはまだ生きている左手を突きだし、ヤマトに向けて雷を放つ。それは直撃コースだ。距離も近すぎて躱す余裕は無い。
「俺の勝ちだ!」
玲人が叫び、観客の誰もが決まったと思った。和馬が目を閉じ、佳奈美が顔をモニターから背ける。ただ千華だけが真っ直ぐにモニターを見つめていた。
大和はボード版を優しく踏み、新たに剣を抜くアクションコマンドを指示する。ヤマトはその指示に従って今持っている剣をその場に投げ捨て、鞘から新たな剣を引き抜く。
その途中、キンと高い音が響き、雷が霧散した。
有りえないその光景に、全員が呆然とする。
ヤマトが剣を引き抜いた瞬間、雷が引き抜いた剣に当たって消滅したのだ。ただ剣を構えていただけでは、確実に体を貫いていいた雷は、引き抜くという動作によって剣がななめに傾き、その僅かな傾きによって防がれたのだ。普通ならそれで砕けてしまうはずの剣も、引き抜く動作のシステム的無敵時間(手にある武器では無く、ヤマトの装飾品の一部であると判定される事)によって守られる。それは引っ越し前に偶然見た、狙って起こすことは無理だと言われていた光景を、こっそりと練習し続けた成果の賜物だった。
抜き放たれた剣は、僅かに雷の名残を残してマハの心臓を貫く。
「フィニッシュだ」
瞬間、ヤマトの前でマハが消滅し、WINの文字が浮かび上がった。
・
「勝った……」
カプセルの中、WINの文字を見ながら大和は小さく呟く。そしてようやく、その実感が湧いてきた。
カードを片付けカプセルから出る。
「師匠やったわね!」
すると、すぐに澄が跳びついてきた。驚きながらもそれを何とか受け止め、その場におろす。
「澄のおかげで勝てた。ありがとな」
最後の場面、澄の介入が間に合っていなければ、ヤマトのHPはゼロになっていた。澄が身を挺して守ってくれたからこその勝利なのだ。
「こっちこそありがとう! これで兄さんのカードを取り返すことが出来きるわ!」
澄はそんなことは気にしていないとばかりに、嬉しそうにお辞儀する。
そこに、観覧モニターの前から移動してきた佳奈美たちが跳びかかってきた。
「さすが、わたくしに勝っただけのことはありますわね! 澄もいい試合でしたわ!」
「大和も澄ちゃんもお疲れ様。後おめでとう」
「これは歴史に残る名勝負だよ! 録画もしてあるから、後で動画サイトに乗せてもらおうね!」
佳奈美の言葉を聞いて、大和は苦笑する。
「俺としては、守ってもらった試合だから、あんまり見せられるもんじゃないんだけどな」
「いえ、あれこそタッグ戦の醍醐味だと思いますわ。最初からほぼ終わりまでが個人戦のようだっただけに、最後の澄の行動はそれだけ印象的でしたわよ。あれだけで、これがタッグ戦なんだと言いうことを思い出させられた人は多いと思いますわ」
最初からほぼ全て一対一で戦っていただけに、この試合はタッグ戦の様相がほぼ無かった。それだけに、最後の最後でパートナーを守った澄の行動は、強烈な印象を観客たちに残していたいのだ。それが、試合を決める一手だっただけに余計にだ。
「とにかく試合はお前らの勝ちなんだから、そろそろカードを返してもらってこいよ」
和馬の視線の先には、呆然としている圭吾と、その横に目をつむって立っている玲人の姿がある。ギャラリーたちはその二人になんと声を掛けて良いのか分からず遠巻きに見守っていた。
大和は澄を連れてその二人の元へと進む。
「約束通り、カードは返してもらうぞ」
「お、俺が……負けた……ど、どうして……」
圭吾は呆然とした様子で、辺りを見回す。そして玲人に目が止まった。
「そ、そうだ。お前の責任だ! 俺なら勝てるって言ってたじゃねぇか! なんで負けてんだよ!」
そう言いながら玲人に掴みかかる圭吾、咄嗟にギャラリーが間に入り、殴ろうと腕を振り上げた圭吾を止めた。
「お前がカード渡せよ! 俺の責任じゃねぇンだから!」
「賭けたカードはお前の持ってるカードだろうが。そもそも、負けた責任ってのなら、俺ら二人とも持ってんだろ。潔くカード渡すのが筋だろうが」
「そう言うこと言ってんじゃねぇンだよ! なんでゲーム機に細工までしてんのに負けてんだっつってんだよ!」
「知るかよ。もともとお前が勝手にやったことだし、俺は今回の試合にゃ意味ねぇっつってたじゃねぇか。たく、面倒くせぇな」
玲人はガシガシと頭を掻きながらおもむろに押さえつけられている圭吾に近づくと、その胸ポケットへと手を突っ込んだ。そしてそこから一枚のカードを引き抜くと、それを大和に向かって突き出す。
「ほれ、賭けの報酬だ」
それは澄の兄のカードだった。大和は圭吾の怒りっぷりに少し引きながらも、そのカードを受け取り澄に渡す。
渡された澄は、大切そうにそのカードをデッキケースの中にしまった。
「クソッ! クソッ! クソがっ! ようやくワンオフカードを手に入れられると思ってたのによ! テメーとのパートナーは解消だ! 何がこの町で最強だ! ただのホラじゃねぇか!」
圭吾は強引に抑えられていた腕を振りほどくと、出口に向かって歩き出す。それを止める人は一人もいなかった。
そもそも、圭吾が機械に細工をしたと言った時点で、この場に圭吾の味方は一人もいなくなっていた。いくらアングラな場所にあるゲームセンターだからといっても、やって良い事と悪い事ぐらいある。賭け試合を純粋に楽しんでいる連中だからこそ、そのような無粋な行為をいいと思うギャラリーは少なくはなかった。
勝手に人垣が割れ、そこをずんずんと歩いて圭吾は店を出て行ってしまった。それを見送って、大和が玲人に声を掛ける。
「止めなくてよかったのか?」
「別にかまわねぇよ。ちょっと利害が一致してただけだし、負けりゃ解散になることは目に見えてたからな。特にあいつに未練もねぇし」
玲人はあっけらかんと言い放つ。
「それに今は賭け試合よりもっと面白いモンが見つかったからな」
その視線はまっすぐに澄を見つめていた。
「まさか、最後の最後でタッグ戦にやられるとは思わなかったわ。ありゃ完璧に俺の負けだ」
「俺も正直すっかり忘れてたよ。完全に負けたと思ってた」
一度は完全にあきらめていたのだ。それに少しだけ希望を残してくれた澄には、感謝してもしきれないほどだ。
玲人の視線はすぐに大和へと戻る。
「今度はきっちり殺してやるから覚悟しとくんだな」
「二度も同じ相手に負けるつもりは無い。今回でお前の戦い方もしっかり覚えさせてもらったからな。次は今日みたいに、メタを張られるようなことはさせない」
「ハハ、なら余計に楽しみが増えたな。じゃあ俺はそろそろ帰るぜ。負けた人間は黙って去るのみだ」
「それも変わってないな」
玲人は大会などに出て、途中で敗退するとすぐに帰ってしまっていた。そこに三位や二位の報酬があったとしてもだ。玲人にとっての勝利とは完全な勝利以外無いのである。故に、今回の試合も、大和には勝てていたが、試合に負けた時点で勝利とは認めていなかった。
玲人は、圭吾が作った人垣の割れ目をすたすたと歩いて出て行ってしまう。その足取りは非常に軽く見えた。
「んじゃ俺達も帰るか」
大和の意見に、全員が賛同し、玲人たちと同じように店を出た。




