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激突1

 ビルを飛び降りたヤマトは、縄を使って自らの体を重りに、振り子の要領で一気に加速する。そして、再びビルの上へと駆け上がった。

 隠れたと思っていたマハは、その行動に虚を突かれる。

 一気に接近したヤマトは、あえて神器関連の武器を使わずに、腰に下げている普通の剣でマハに斬りかかった。しかし、その剣はマハの羽ばたきであっさりと躱される。

 マハは回避と同時に腕を付きだし、捌きの雷を放ってくる。ヤマトは剣をマハの攻撃に向かってに投げつけることで、それを回避する。捌きの雷を受けた剣は一瞬にして黒焦げになり、消滅した。しかし、それでヤマトの武器が無くなることは無い。マハやフィナが基本攻撃を無限に放てるように、ヤマトたちのような近接戦闘型のウォーリアは自分が最初から持っている武器を失うことは無いのだ。ヤマトはすぐに復活した自分の剣を鞘から抜き放ちマハに切りかかる。しかしその剣がマハに届くことは無かった。

 マハとヤマトの間に人形のような物が突如現れたのだ。剣がその人形を切り裂けば、人形は簡単に消滅してしまった。


「マハの能力か」


《神の創造物》人形を生み出す能力だが「神の」と付くだけあって、その人形は自我を持ち、ユニット次第では強力な武器にもなる。

 ヤマトが人形を切った隙に、マハが踏み込んでくる。先ほどの雷の躱し方を鑑みて、直接打ち込むことにしたのだ。その手はヤマトの頭部を掴む。しかしヤマトもむざむざと攻撃をくらうようなことは無い。振り下ろした剣を今度は振り上げ、掴んでいる腕を斬ろうとする。しかし、その剣が届く前にマハはヤマトから離れ、剣は空を斬る。

 直後、雷がヤマトの体を貫いた。HPが削られ、体がふらつく。一気に畳み掛けようとマハが雷を連射する。しかしヤマトは、マハの体に向けて縄を飛ばし、回避させることでその軌道を逸らさせた。

 マハが回避したことで、縄がマハの横を通り過ぎる。その瞬間、大和がユニットを発動させる。


「ユニット《グレイプニル》発動」

「んなもんに捕まるかよ!」


 縄が鎖となり、まるで生き物のようにマハの体に向かって巻き付こうとする。玲人は、それを予測していたかのようにユニットを発動させていた。

 マハの手の中に現れる一本の木の剣。しかしそれがただの木の剣でないことは、大和もすぐに理解する。

 体を縛らんと迫るグレイプニルを、マハは木の剣で斬ったのだ。


「チッ、《ミストルティン》か」


 神話では神殺しの剣として有名なミストルティン。WFでは、神器系の武器無効化能力が付与された木剣となっていた。その効果のせいで、絶対に捕まえられるはずのグレイプニルの効果が無効化されたのだ。


「生ぬるいことやってっと、テメェも一瞬でお陀仏だぜ!」


 マハはそのままミストルティンでヤマトに切りかかる。神殺しの武器なだけあって、その攻撃は、ウォーリアが神の領域まで達したことを示すⅤレアのカードには手痛いものだ。

 ヤマトはミストルティンを剣で受け止める。こちらの武器が神器でない限りは、ミストルティンはただの木剣だからだ。

 受け止められた木剣はあっけなく折れた。これもミストルティンのデメリットの一つである。神器に対しては全てを無効化する力を持つが、普通の武器に触れるとすぐに壊れてしまうのだ。数が入れられないユニットカードとしては、下手すると発動直後に壊れてしまうため、非常に使う人が少ないカードだが、今回はそれが十分なほど働いた。


「俺の対策はしっかりしてるってことか。さすがだが!」


 大和もマハの対策はしているのだ。ミストルティンが折れたことで無防備になったマハの胴体に蹴りを入れる。回避できなかったマハは、まともにその攻撃を受けHPを少しだけ削られた。しかし、マハは蹴られながらもヤマトの足を掴み、そのまま無造作に放り投げる。

 バランスを崩したヤマトは、空中を錐もみ状に落下しながら、ビルに突っ込む。数本の柱に叩きつけられてようやく止まったヤマトの視界に、マハがヤマトに向けて弓を構えているのが見えた。

 その弓は激しく燃えており、当然矢の尖端にも炎が灯っている。それを見て大和はそれがどのような物か理解する。


「範囲攻撃かよ」

「ぶっ飛べや!」


 ユニットカード《シェキナーの燃え盛る弓》

 矢の到達点から半径三百メートルを高温の炎で一気に焼き払う範囲武器だ。威力自体はかなり強力なのだが、シェキナーの弓の飛翔距離は最大で二百メートルに設定されているため、自分も炎にまかれることになる危険なユニットだ。

 マハはその矢を躊躇なく放った。まっすぐにとんだ矢はビルの中へと飛び込み、ヤマトのいるビルを一瞬にして炎で包み込む。

 しかし次の瞬間、ビルを包んでいた炎が何かに振り払われるようにして一瞬で消滅した。そしてその中心にいるのはヤマト。ヤマトの手には、草薙の剣が握られている。


「まさかこのタイミングで使わされるとはな」


 草薙の剣には、周囲の炎を打ち消す効果がある。しかし、これほど早い段階で草薙の剣を発動させるのは大和にとって想定外だった。


「俺のユニットを読んでのシェキナーか」

「テメェの思考も変わってねぇみたいだからな。予想は簡単だったぜ」


 相手の使っているユニットを知っていれば、相手の望むタイミングでそのユニットを発動させないために追い込むのは有効な手段だ。事実、大和はそのせいで作戦の大幅な修正を迫られている。

 しかし、草薙の剣は剣璽の勾玉の効果で後一回発動できる。追い込まれた訳では無い。

 ヤマトはビルから飛び出し、縄を使いながらビルの隙間を、時にビルの中さえ使ってマハの視界から離れるために駆け巡る。

 視界から逃さないように追いかけるマハも、上空からビルの中を見通すのは不可能だ。

 そしてマハの視界からヤマトが消える。


「チッ」


 玲人の判断は早かった。ヤマトが視界から消えるや否や、ヤマトの縄が届かない位置まで一気に上昇し、遊撃の構えをとる。現状、マハの方がHP的には有利な状況だ。ここで果敢に攻める必要は無い。ヤマトの出方を伺い、適切に対処していけば勝てる状況だった。

 玲人は何が来ても対処できるように、神経を研ぎ澄ませる。遠くから聞こえるフィナとゴルディーの戦闘音、その中に紛れる僅かなヤマトの移動音すら逃さないように、細心の注意を払う。そして視界の隅に小さく何かを捉えた。


「そこか!」


 そこへ向けて雷を放つ。しかし、雷が当たる前にその姿は再びビルの中へと隠れてしまう。だが、隠れた場所が分かれば、そこから移動する可能性のある場所も絞り込める。

 ヤマトは玲人の予想した通りの場所から飛び出してきた。縄を使い、普通なら考えられないスピードで動いているが、予想していたならば、当てられない速度では無かった。


「今!」


 上空からヤマトに向けて雷を放つ。その雷は一直線にヤマトへ向かい、その胸を貫いた。直後、パリンと高い音がして、ヤマトの体が砕ける。それと同時に、マハの腕に縄が掛かった。


「後ろだと!?」

「ようやく捕まえたぞ」

「鏡像の単体発動!?」


 マハが驚いて後方を見れば、そこには今しがたガラスのように砕けたヤマトがいた。そこでようやく、玲人は今自分が貫いたヤマトは鏡像だったことに気付く。しかしそれが余計に玲人を驚かせた。

 玲人が調べたヤマトの動きでは、大和は必ず鏡像と鏡合わせを同時に使って来ていた。だからこそ、このタイミングで鏡像だけを使うことを予測できなかったのだ。


「蹄跡ばかりじゃないぞ」


 大和はカプセルの中で笑みを浮かべながら、さらにユニットを発動させた。


「ユニット《天穿ち》発動」


 それと同時に、マハの心臓に赤い点が現れる。ヤマトはそれに向けてまっすぐに自らの剣を突き出した。しかし、その剣がマハの点を突くことは出来なかった。


「簡単にやらせるかよ!」


 二人の間に現れた人形、それが再びヤマトの攻撃の邪魔をする。しかし、それだけなら先ほどの斬り払いと違い、人形を貫いてマハの点を突けただろう。

 人形には、中心に赤い球体が埋め込まれていた。それを貫いた瞬間、辺りが眩い閃光に包まれ、ドンッと重い音と共に爆発を起こす。

 間近で爆発に巻き込まれたヤマトは、大きくHPを削られ、マハの腕を縛っていた縄も斬れてしまう。しかし、爆発を受けたのはヤマトだけでは無い。マハも同じように爆発を受けHPを減らしていた。


「自爆覚悟かよ。まあ、有効っちゃ有効だよな」


 自分だけがダメージをくらうぐらいならば、相手も巻き込む。その上相手のユニットを一枚消費させることが出来たのだから、有効と言えなくもない。

 画面でお互いのHPを確認すれば、先ほどの爆発で両者ともHPが三分の一を切っていた。そして圭吾のユニットに×印が付いているのを発見する。

 傍から見れば、玲人は確実に追い詰められている。今からは澄の残りHP次第で二対一になる可能性もあるのだ。アンティルールで戦っていることを考えれば、焦りが生まれてもおかしくはないはずだった。しかし、大和のヘッドセットに聞こえてくるのは、玲人の歓喜の声。「楽しい」と「お前も楽しいのだろう」と、自分の猛りを抑えきれない様子で叫ぶように大和に叩きつけてくる。

 その叫びに「当然だ」とぶつけたくなるのをグッと堪え、その思いをウォーリアの操作に込める。


「澄は勝ったんだな。んじゃ、こっちもそろそろフィニッシュタイム行くか!」


 大和の声に応じるように、マハの体から閃光が走り、その羽が一回り大きくなる。頭に付いていた天使の輪が消滅し、王冠のような物が装備された。

 マハが背水の陣、《能力昇華》を使ったのだ。

 それに合わせて、大和も《鬼神化》を発動させる。ヤマトの鎧を押し上げるように筋肉が盛り上がり、見えている素肌が赤みを増す。髪が白髪になり、風に靡いた。



「くそっ、楽しいな!」


 カプセルの中で玲人は叫ぶ。これが自分の望んでいた戦いだと。これこそが、WFの醍醐味だと。すでにパートナーの状態など、どうでも良くなっていた。

 お互いの動きを読み、ユニットを予想し、どう潰すか、どう躱すかを考え、常に思考の限界に挑む。

 今までの戦いなど比にならない。一瞬でも気を抜けばやられる。そんな緊張感は、レアカードを賭けた程度では到底味わえない快楽に魅了される。


「むかつくぐらいに楽しいな!」


 ボードを蹴りつけるように指示をだし、タイミング良くボタンを連打する。ユニットを選択し、次の行動に備える。自分の一挙手一投足、その全てに意味を持たせるように、自分の動きすら機械の一部のように、ウォーリアのAIを読み、無理のない無駄のない指示を出す。


「お前も楽しいんだよな。ビシビシ伝わってくるぜ」


 ヤマトから伝わってくる大和の気配。それを受けて、笑みを深める。

 次はどう動く。大和なら縄で来るか? それとも新しい戦術を考えているのだろうか。

 ついさっきの鏡像を使った罠にはまんまと引っかかった。あれは玲人が大和の動きを研究していることを知っている動きだ。

 だからこそ、選択の幅が大きく広がる。次はどう来る。自分の思考を読んで対策で動くのか。それとも、今までの自分の動きを貫くのか。

 大和なら、いや、大和だから。そんな風にひたすら玲人は思考を続ける。今を楽しむために、この瞬間を最高に満喫するために。

 玲人は画面でHP表示を確認した。お互いのHPはすでに三分の一を切っている。非常に惜しい事だが、大和ならばそろそろフィニッシュタイムに入るだろう。そう考えた時、大和が小さく呟くのが聞こえた。

 玲人は躊躇うことなく昇華の能力を選択し、発動ボタンを押す。


 観覧モニターの前で、誰かがつばを飲み込む。その音が聞こえるような気がするほど、その場だけが静寂に満ちていた。

 周りの音は入ってこない。ただモニターの中で繰り広げられている二人だけの戦争に、その場にいた全員が魅了されていた。


「スゲー」


 それは誰のつぶやきだろうか。だが、全員の心境は同じだった。

 この場にいるほぼ全ての人はWFのプレイヤーだ。だからこそ考えてしまう。あの場合自分ならどう動くのか。この時、自分のウォーリアならどう対処するだろうか。そして、この時間まで、あの二人と戦って生きていられるだろうかと。

 結論など出ていた。無理だ。五分経つ前に倒されてしまう。そうとしか思えない戦闘が目の前で繰り広げられているのである。

 もう一組の戦いも十分に引き付けられる戦いではあった。普通ならば、どちらかが倒された瞬間に歓声が上がってもおかしくないだけの戦いだった。

 だが、この戦闘の前では、それすら霞んでしまう。


「大和……」


 モニターを見ながら千華が小さく呟いた。

 今の所、HP的にはほぼ互角。だが千華の目線では、大和が手玉に取られていることが多く感じられた。

 何とか凌いではいるが、攻撃を喰らう回数的には大和の方が多い。ただ一撃の重さを持って大和が玲人を抑えているだけだ。しかし、それではだめなのだ。HPが少なくなれば少なくなるほど、ヒット数が多い方が有利になる。

 その時、静寂の中に佳奈美の声が響き渡った。


「大和先輩ファイト!」

「大和こんなところで負けんなよ!」


 それに続くように、和馬もモニターに向かって声を掛ける。それが呼び声となったのか、丘の所からも、「玲人行け!」や「玲人負けんな!」と声が上がる。

 つい先ほどまで静寂に満ちていたモニターの前は、一転して歓声と応援に包まれ、ゲームセンターで一番騒がしい場所となる。


「大和! ここで負けることは許しませんことよ!」


 その様子に若干驚きながら、千華も負けじと声を上げた。

 直後、画面に映る二体のウォーリアから光が奔り、終わりが近い事を示すように、決戦用へとその姿を変えた。


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