敵地の洗礼2
開始と同時に、別の地点でユニットが発動される。その直後、青空が真っ暗になり、星と月が夜空にちりばめられた。
星の明かりに照らされた廃都市が、大和のウォーリア、神話戦士ヤマトと周囲の光景を淡く映し出している。これは澄のユニットの効果だ。澄のウォーリアである白魔女フィナは、夜のステージで力が発揮される能力を持っている。そこで、天候操作にユニットを一枚消費しているのだ。そして次にマジックボールが打ち上げられた。大和の言った通りに、ボタンを確認しているのだ。場所バレの可能性を含んでいるが、今回の場合、玲人は澄に興味が無い。澄の下に向かうのが圭吾ならば、それは元々同じことだ。後は不意打ちを食らわなければいいだけの話である。
マジックボールの光を確認したのち、ヤマトがその場から動き出す。
空走を使ってビルの上を駆け抜け、縄縛りで近くの柵に縄を結び付け、走る勢いを殺さぬように強引に方向転換をする。相変わらずの神がかり的な動きで、驚異的な速度を維持したまま、ヤマトは空を駆け抜けて行った。
しばらくすると、別の場所で戦闘が始まった。それは最初マジックボールが上がった場所からさほど離れていない。そこで、澄と圭吾が衝突したのだと推測し、その位置から圭吾のスタート位置をおおよそ判定する。
全員のスタート位置は、ある程度の規則性を持って決定される。ヤマトとフィナの位置は東寄りの南北に別れていた。敵はそれと鏡写し上に配置されるようになっているため、圭吾のウォーリアの速度を鑑みて、スタート位置を割り出せば、おのずと玲人の位置がつかめるのだ。
大和は即座に位置を予想し、即座にヤマトの進路を大きく変えた。直後、ヤマトのいた場所に雷のような音を轟かせて閃光が走り抜ける。
光が来た方向を見れば、宙に浮いている玲人のウォーリア、最高神マハがヤマトに向けて手を付き出していた。
マハの能力《捌きの雷》は基本的な遠距離攻撃だ。速度が速い代わりに威力が弱く、数で制圧するタイプである。つまり――
ドドドドド!
マハの手から、雷が乱射される。ヤマトはすぐさま駆け出し、雷をギリギリで躱していく。足元を抉った雷が、屋上のコンクリートを弾きあげ、ヤマトへと襲い掛かる。僅かなダメージを蓄積させながら、雷が防げる場所を探して大和は走る。そして雷の標準が次第に合っていき直撃しそうになると、近くの柵に縄を飛ばして、強引に方向を変えることで躱していた。しかし、それではいつまでも不利なままだ。近くに隠れる場所が無い事を判断したヤマトは、ビルから飛び降り、一旦体制を整えるために影へと隠れた。
開始直後に能力とユニットのボタンを確認した澄は、フィナを動かして特定されたであろう場所を移動する。
ビルの影に隠れながら移動し、町の中心部へと向かって行く。
しばらくして、ビルの上に上り周囲を見渡す。予想では、近々接敵するはずなのだ。そこでボタンの感覚に違和感を覚えながら索敵用に能力を発動させる。
「やっぱりボタンが反応しにくい……使い魔中級発動っと」
するとフィナの周りに黒い球体が浮かび上がり、その姿を次第に変えていく。そしてカラスの姿をとると、一斉に飛び立つ。
フィナが目を閉じれば、飛び立ったカラスの視界が瞼の裏に現れる。
ビルの上、路地の裏、大通り、次々と変わる視界を必死に追いながら、フィナは敵の場所を探していく。
そして一羽のカラスの視界にその姿を捉えた。
「見つけたわよ」
しかしすぐには動かない。相手との距離がまだあることから、相手の情報収集をすることにする。玲人のウォーリアに関しては、少しだけだが情報はある。しかし、澄の相手である圭吾の情報はほぼ無いのだ。ウォーリアの種類、動き、ユニットの組み方、知ればそれだけで有利になる情報はいくらでもあるのだ。
しかし、カラスからの視界が突然途絶えた。
「こっちが見つかった!?」
この町に生き物はウォーリア以外存在しない。もし生き物を見つけることがあれば、それは味方か敵の能力がユニットなのだ。
しかし、それは澄も分かっていることである。だから見つかり難い場所に止まっていたはずなのだ。それを素早く見つけられたということは、そういう能力を持っているかユニットを発動させている可能性がある。
確認の為にもう一度カラスを飛ばせば、再びすぐに潰された。
「感知系は近場だとバレるのかしら?」
そこで今度は、ギリギリ見える範囲で監視させてみる。すると今度は潰されなかった。
「近ければ近いほど敏感になるのかな? でもこれなら長距離から狙えば大丈夫かも」
もともとフィナの攻撃範囲は中長距離だ。そして相手のウォーリアは、見た目はボクサーの神世界チャンピオン・ゴルディーである。見た目からして近距離を得意としていることは分かった。ならば、常に一定の距離を保ちながら戦えば、かなり有利に戦える。しかし、逆に言えば、近づかれると一気に不利になるのだ。いかに近づくか、いかに距離を保つか。そういう勝負だった。
すると、カラスの視界からゴルディーが消える。ビルの中に入られたのだ。
すぐにフィナはカラスに指示をだし、ビルの中を調べるようにする。しかし、ビルに入ったカラスはことごとく潰された。
「これは……少し厄介ね」
ゴルディーはビルの中に隠れている。しかし、場所を把握しようにも、カラスはすぐに潰されてしまう。このまま膠着状態で大和の勝利を待つのも手かとも思うが、わざわざ鍛えてもらった上に、試合までおんぶに抱っこでは、さすがに気まずいと感じた。
「少しこっちから動いてみようかしら……けど不意を打たれる可能性が高いのよね。こちらの位置はバレてないんだし、そんな危険を冒す必要は無いはず。ならこのまま使い魔を使いましょうか」
使い魔を使っている限り、フィナの位置がゴルディーにバレることは無い。幸い、フィナのユニットには、使い魔の攻撃を主体とした物も入っていた。
「使い魔中級」
能力を連打して発動させていく。カラスが一斉に飛び立ち、次第に空を埋め尽くしていく。そのカラスは、ゴルディーの隠れているビルを包囲し、一斉に割れた窓ガラスから侵入した。直後、ものすごい勢いでカラスが潰されているが、さすがに数が多いのか、かなり深い部分までカラスは侵入できた。そしてゴルディーの姿を見つける。
ゴルディーはまるでシャドーボクシングをするようにその場で拳を突き出す。すると、その直線状にいたカラスたちが二羽同時に潰された。
これがゴルディーの能力の一つ《拳玉》だ。射程こそそれほど広くは無いが、その分拳と同等の威力がある。
「潰されたけど、今が攻め時。ユニット《小動物の反撃》発動」
そのユニットは、使い魔やペットなどのAI自動操作型小動物や鳥類の攻撃力を上昇させるユニットである。一体一体の上昇率は少ないが、集団で使うことの多い小動物系の使い魔にはなかなかの威力になる。
「行け!」
カラスたちが一斉にゴルディーに襲い掛かる。ゴルディーは確実に拳玉を使って撃ち落としていくが、撃墜しきれなかったカラスたちによって、少しずつHPを削って行った。
しかし、やはり使い魔。ウォーリアのHPを削り切るには無理がある。全ての使い魔が倒された所で、新たな使い魔を生み出すために、能力を発動させる。
再びフィナの上空をカラスが覆っていく。数ができたところで再び指示を出そうとした。その時、突然目の前にゴルディーが現れた。
「なんで……」
フィナの位置は把握できていなかったはずである。しかし、ゴルディーのいたビルからの距離を考えると、場所を特定して一直線に来なければ間に合わないはずのタイミングだった。
そのゴルディーは、問答無用で拳を振り抜いてくる。と同時に、フィナの体に赤い斑点が浮かび上がった。圭吾がユニットを発動させたのだ。
《適確な打撃》赤く浮き出た斑点は、フィナの急所を示し、そこに打撃攻撃を加えることで、通常の五割増しのダメージを与えるものだ。
とっさに箒で防御しようとするも、鋭いゴルディーのパンチはフィナの防御を綺麗に躱して斑点に直撃した。強烈な衝撃と共にフィナは後方へと吹き飛ばされ、ビルの柵に激突する。
HPが三分の一ほど削られ、さらに衝撃のせいでフィナの体が一時的に動かせない。澄はとっさに箒を使い、強引に体を中へと持ち上げる。直後、その場にゴルディーの拳玉が降り注ぎ柵を吹き飛ばしていく。
「危なかった……」
何とか危機を脱した澄は、箒を使って空高く上がる。簡単に追いつかれないためだ。ゴルディーはビルの屋上に立ったまま、フィナの様子を見上げていた。
なぜ追撃してこないのか? そう疑問に思ったのは、僅かな間だけだった。上空に上がったことで、その場に集まっているカラスを思い出したのだ。
そして同時に、何故ゴルディーが自分の場所を特定したのか気付く。
使い魔の召喚は自分のすぐ近くに召喚する。それを連打して召喚すれば、自分のいる場所のすぐ近くには大量の使い魔が配置されることになる。その上使い魔はカラスだ。空へと飛びあがり、ゴルディーにフィナの居場所を教えてしまっていた。澄の完全なミスだった。
空に集まっているカラスを、一斉にゴルディーに向かって降らせ、弾幕を張る。
ゴルディーは逃げることをせず、腰を落として、右腕を背中の後ろまで引き絞る。そしてゴルディーの体が光り、拳にその光が集約した。
完全に光が集まったところで、ゴルディーは拳をフィナに向けて突き出す。とたん、強烈な風が起こり、襲い掛かって来たカラスを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたカラスが羽をまき散らしながら散る中、ゴルディーは空へと駆け出す。
フィナは急いで距離を取ろうとするが、次の瞬間、見えない壁にぶつかり行く手を防がれた。さらに拳玉がフィナに襲い掛かり、容赦なくHPを削っていく。
「これは!」
振り返れば、ゴルディーがすぐ近くまで接近している。そして、周囲が大きくゆがみ、一瞬にしてボクシングリングを形成した。
「閉じ込められた」
これは圭吾が、長距離型の敵と戦う際に使うユニット《リング》だった。一定の距離内にいるウォーリアを二分間リング内に閉じ込める物。脱出不可能なリングの中で、強制的に接近戦を強いられるのだ。
フィナはとっさに仕込み刀を選択し、近接戦闘に備える。ゴルディーはそれに対して、構えをとると新たなユニットを発動させた。
ゴルディーの体から炎が噴き上がる。《人体発火》発動中ダメージを受け続けるが、その分攻撃力と範囲を上昇させるというものだ。
ゆっくりと間合いを見極め、全身が火だるまになったゴルディーが動く。
「来るっ!」
ゴルディーがステップを踏みながら接近してくる。飛行も出来ず、細かいステップなどの能力も無いフィナでは、ただ攻撃を防ぐことしかできない。だが、フィナには最強の防御ユニットがあるのだ。
「今よね? 《極限の聖なる領域》発動」
若干の迷いを含みながら、澄は発動ボタンを押す。しかし、その迷いが今まで注意してきたボタンの押しかたを忘れさせてしまった。澄はいつもの感覚で軽くボタンを押してしまったのだ。そのせいで、ユニットは発動しない。
「しまっ」
無防備なフィナの腹部に、燃え盛る拳が振り抜かれ、フィナの体をやすやすと吹き飛ばす。そのままリングのロープまで弾き飛ばされたフィナは、ロープの弾力で体を強引に戻される。さらにゴルディーは追撃を掛けようと、今度は左手を振り抜いてきた。澄は慌てて何度もユニットの発動ボタンを押す。
「発動してよ! 早く!」
ゴルディーの拳が当たる直前、今度こそフィナを金色の膜が覆い、ゴルディーの拳を受け止める。それと同時に、ゴルディーの体が激しく弾き飛ばされ、ライフを半分以下まで大きく削った。
「あ、危なかった。この!」
背中からリングのロープにもたれ掛かるゴルディーに、今度はフィナがラッシュを掛ける。《抜刀》を発動させ、あらかじめ発動させていた仕込み刀から、刀を抜き放つ。
その刃は、ゴルディーに直撃したように見えた。しかし、キンッと高い音と共に、その攻撃は受け止められた。
ゴルディーの突き出した両腕、その拳の先には、ナックルダスターが装備されていた。刃はそこに受け止められ、ダメージを与えられなかったのだ。しかし、ここで止まる必要は無い。カウンターの恐れが無い今だからこそ、攻撃を続ける。
抜刀ほどの威力は無いが、仕込み刀自体にももちろん攻撃力はある。警戒のため先に発動してしまった分、終了時間まで残り一分も無いが、それでもラッシュを掛けるには十分な時間だった。
フィナは、箒から出したため、無駄に長く身の丈ほどもありそうな長い日本刀を必死に振るってゴルディーを攻撃していく。
ゴルディーは拙いフィナの攻撃を何とかしのいでいるも、全て防ぐの不可能な様子で少しずつそのHPを減らしていった。
そして残り十秒になったところで、フィナが後方に飛び攻撃をマジックボールに切り替える。ゴルディーは拳玉を放ってマジックボールを相殺した。
爆発が起き、リングを煙が覆う。フィナは煙の中に向けて乱雑にマジックボールを放つも、あまり良い手ごたえは帰ってこなかった。同じように煙の中から飛び出してきた拳玉にいくらか被弾してしまったが、それほど気にするダメージでもない。
そして、二分が経過し、リングが消える。
フィナは箒を使って一気に距離を取り、魔女の夜宴の効果でHPを回復させていく。煙の晴れた所でゴルディーを確認すると、ゴルディーのHPも回復していた。
圭吾の発動させたユニット《インターバル》の効果だ。リングとコンビで使われるカードで、リングの使用後にHPを回復させると言うものだ。条件が厳しいだけに回復量もある程度あり、フィナが必死に削ったHPを半分ほど回復されてしまった。
この時点で、フィナのライフは残り僅か。ゴルディーは三分の一程度になっていた。
「師匠の言うフィニッシュタイム突入ってやつね」
ここからはすべての攻撃が勝利へ直結する重要な攻防になってくる。
「能力発動、聖天降臨」
背水の陣を発動させ、フィナの背中から天使の翼が生える。すると、その意味を悟ったのか、ゴルディーの体も輝き、皮膚がだんだんと赤みを帯び湯気が立つ。圭吾がゴルディーの背水の陣《極限状態》が発動させたのだ。
フィナが羽ばたき距離をとる。しかし、ゴルディーは離れまいとぴったり付いてくる。そこからはマジックボールと拳玉の打ち合いとなった。
ビルの間を使いながら、必死に距離をとろうとするフィナ。そして、それに縋りついてくるゴルディー。お互いがベストのポジションをとるために必死だ。
「一か八か。ここが勝負どころ!」
フィナが、自分より高い位置にあるビルに向けて、大量のマジックボールを発射した。それはビルの壁を大きく抉り、崩落を起こす。それを確認したフィナは、速度を上げて崩落の下へと飛び込んだ。ギリギリで瓦礫の下をすり抜ける。さすがのゴルディーもそこには飛び込めずとうとう距離ができた。瓦礫に生き埋めにされていれば、その時点でフィナのライフはゼロになっていただろう。澄はその危険な賭けに勝った。その報酬は、自分の攻撃を最大限に発揮できるベストポジションだ。
「発動、《魔女の夜宴》《受け継がれる魔導書》」
クールタイムの終えた夜宴で崩落する瓦礫の破片で受けたダメージの回復を行い、フィナの最後のユニットを発動させる。
受け継がれる魔導書には、強力な範囲攻撃が収められている。まさしく秘伝の書という訳だ。しかし、威力と範囲が広いだけに、その代償も大きい。効果発動中、一切動けない上に、その後のユニット使用が不可能になるのだ。まさしく決めるための攻撃である。
最初、大和や千華からは、ユニットが使えなくなる系のカードはなるべく控えるようにと言われていたが、最後に発動するカードとして説得を試み、何とか許可を得たのだ。その後は、このカードの威力と行動不能時間を念入りに調べ上げ、瓦礫で足止めした今ならば問題ないと踏んだ。
フィナの手に魔導書が現れ、開かれる。そこにはどこの文字か分からない文章と複雑な魔法陣が赤く輝いている。それを天高く掲げ、フィナが何かを呟いた。
瞬間、周囲に激しい地響きと、衝撃が吹き荒れる。
残っていたビルの窓ガラスは容赦なく吹き飛び、木も、ゴミも、看板も、コンクリートまでもが中を舞う。
フィナを中心とした衝撃波は、半径数百メートルを瞬く間に破壊した。
そして、澄の画面上に表示されている圭吾のIDには、圭吾のウォーリアが死亡したことを示す×の表示が点灯した。




