〜凛の葛藤〜
「うあぁぁぁぁぁっっ……!!」
自宅の部屋に飛び込むなり、私はベッドへ倒れ込み、枕に顔を押し付けて絶叫した。
足をバタバタと暴れさせ、一人で転がり回る。
(なにしてるのよ私! なにやってるのよーーーっ!!)
脳裏に焼き付いて離れないのは、数分前の陸の家の出来事だ。
停電の暗闇の中でパニックになり、あろうことか私から陸に思いっきり飛びついてしまったのだ。
手に残る陸の服の感触、鼻先をくすぐった男の子特有の体臭と体温。
そして、抱きついた瞬間に耳元で聞こえた陸の「大丈夫だ」という低い声——。
「う〜〜〜っ! 浮気したら承知しないとか、意味わかんないこと叫んで逃げてきちゃったじゃないのよぉぉ……!」
自分の叫んだ恥ずかしすぎる捨て台詞を思い出して、顔から火が出るどころの騒ぎじゃない。熟しきったトマトみたいに、全身の血が頭に上っていくのがわかる。
「彼女でもないのに……ほんと、何言ってんの私……」
鏡を見ると、ボサボサになった髪と、耳の先まで真っ赤になった自分の顔が映っていた。
いつもの私なら、あんなの「ちょっと暗くて驚いただけだし!」で笑い飛ばせていたはずだ。
今までみたいに、ジャージ姿で陸の部屋に上がり込んで、男友達みたいなノリで背中を叩き合っていられたはずなのに。
でも、もう無理なのだ。
(だって……あんな美少女二人が同じ屋根の下にいるのよ!?)
ポーカーフェイスで静かに陸の隣を陣取る結衣ちゃんに、無防備なスキンシップで陸の理性を削りにくる葵ちゃん。
二人とも、陸の「新しい家族」として、信じられないくらいの距離感で陸の懐に入り込んでいる。
これまで「陸に女っ気なんてあるわけないし、私たちが付き合うのはいつでも大丈夫」なんて高をくくっていた自分がバカみたいだった。
陸が二人の女の子を「可愛い妹」として、そして「一人の女の子」として意識し始めているのを感じるたび、胸の奥がぎゅーっと痛くなる。
「……陸のバカ」
ベッドの上で膝を抱え込み、小さく呟く。
「ちょっと優しくされたくらいでドギマギして……鼻の下伸ばしちゃって……」
だけど、一番バカなのは私だ。
陸と目が合うだけで心臓が破裂しそうになって、せっかく買ったお気に入りの服や香水に気づいてほしいのに、素直になれなくて強がってばかり。
「……でも、絶対渡さないんだから」
私はギューッと拳を握りしめた。
長年一番近くにいたのは私だ。陸の好みの味付けも、好きな食べ物も、全部私が一番知っているんだから。
「明日は……明日こそは、ちゃんとお弁当作って、陸と普通に話すんだからね……!」
火照った頬を両手で叩き、私は天井を見上げた。
隣の家から聞こえる気がする賑やかな気配に少しだけ嫉妬しながら、私の長い夜は更けていった。




