第三話 波乱のスーパーマーケット
「……で、なんで放課後の買い出しにまで凛先輩がいるんですか?」
夕方のスーパーの入り口。カートを押す俺の左隣で、結衣が表情を変えずにポーカーフェイスのままボソリと呟いた。
俺の右腕をがっちりホールドしている凛が、真っ赤な顔で張り合うように胸を張る。
「い、いいでしょ別に! 陸の義理の妹たちの好き嫌いも把握しておかないと、今後の献立計画に支障が出るんだから!」
「今後の献立計画……? 凛先輩、まるでうちの家族気取りですね」
「〜〜〜っ! か、家族っていうか、陸のサポート役よっ!」
バチバチと静かな火花を散らす二人。
そして俺の真後ろからは、「あ! 陸兄ちゃん、あっちのお菓子コーナー行こー!」と葵が抱きついてきて、その抜群のスタイルの柔らかい感触が背中にダイレクトに伝わる。
「あ、葵ちゃん離れなさいって! 陸、あんたも鼻の下伸ばしてないで注意しなさい!」
「伸ばしてねえよ! ほら葵、前見ないと危ないから!」
気楽な買い物になるはずが、周囲の客や店員からの「あの男子生徒、美少女三人を侍らせて何者だ……?」という熱い視線が痛い。
野菜売り場に移動すると、凛が「陸の好みに合わせるなら、今日の夕飯は生姜焼きかカレーでしょ」と胸を張る。長年の幼馴染ならではの知識を披露してドヤ顔を決める凛だったが、結衣が静かにカゴへ豆腐と豚肉を投入した。
「……今日は陸兄さんが疲れてるから、胃に優しい肉豆腐にします」
「えっ……り、陸、疲れてるの!?」
「いや、今朝の登校からお前らに挟まれて精神的に疲れてるのは確かだけど……」
俺が苦笑いすると、凛は一気に焦った表情になり、「う、私だって陸のこと心配して……! じゃあ胃に優しいお味噌汁の具材、私が選ぶ!」と、必死にナスの袋を手に取った。
昔はジャージで俺の部屋に上がり込んできていた凛が、今では俺の体調や好みを気にして必死に乙女な顔を見せている。そのギャップとほのかな香水の香りに、俺の心臓が無駄に跳ね跳ねる。
「あ! あたしネギ切るの手伝うー!」
「葵は包丁使うと危ないから、盛り付け担当ね」
「はーい!」
結局、四人でワイワイと言い合いながらカゴをいっぱいにし、レジへ向かう。
帰り道、夕日に照らされるオレンジ色の道を四人で並んで歩く。
「……なんか、賑やかになっちゃったな」
俺が呟くと、俺の服の裾をキュッと引っ張っていた結衣が、小さく口元を緩めた。
「……賑やかなのも、悪くないです」
「あたしもー! 毎日がパーティーみたいで楽しい!」
「も、もう! 私が毎日監視に来てあげてるんだからね! 感謝しなさいよね、陸!」
真っ赤な顔で強がる凛の横顔を見ながら、俺は苦笑した。
騒がしくて理性が保てそうにない毎日だけど、失われた「何気ない日常」の代わりに始まったこの新しい日常も、案外悪くないのかもしれない。




