第十六話 深夜の悩み
深夜、一人部屋のベッドに横たわりながら、俺は天井を見つめて息を吐いた。
静まり返った家の中で、俺の頭を占領しているのは三人の女の子のことだ。
まずは、隣に住む幼馴染の凛。ポニーテールを揺らしてサバサバ笑っていた昔からの腐れ縁で、昔はジャージ姿で俺の部屋のベッドに転がっていたような奴だ。それなのに、結衣と葵が家にやってきて「三人きり」で暮らすと知った瞬間から、あいつの様子は一変した。
「……ダメに決まってるでしょそんなの!!」
真っ赤な顔で胸を押さえ、焦りを爆発させていたあの顔。最近では上品なワンピースを着て甘い香水を纏ってきたり、目が合うだけで耳まで赤くして自爆したりする。昔から思い込みが激しいところはあったが、手作りのお弁当を「余ったから!」と顔を真っ赤にして突きつけてきたり、プールでピンクの水着を着て照れまくっていたりする姿を思い出して、胸の奥が妙に熱くなる。
そして、義理の妹たち。
長女の結衣は、小柄で華奢なスレンダー体型だが、ポーカーフェイスの裏に強い独占欲を秘めている。いつも静かに俺の服の裾をキュッと引っ張って牽制してきたり、「陸兄さん、あーん」とお弁当を差し出してきたり。葵の抜群のスタイルに密かなコンプレックスと嫉妬を覗かせるジト目も、水着姿で照れくさそうに袖を掴んできたときの破壊力も、思い返すだけでドギマギしてしまう。
次女の葵は、天真爛漫な「低身長グラマー」だ。最初は無邪気なスキンシップだと思っていたが、胸元がパツパツの服で無防備に抱きついてきたり、制服のボタンを弾け飛ばしたり。この前、「あたし、陸兄ちゃんの本当の妹じゃないし……っ!」と涙をぽろぽろこぼしながら気持ちを吐き出してきたときは、心臓が跳ね上がった。少女から恋する女の子へと変わったあの熱量とまっすぐな視線は、今も俺の胸に強く残っている。
(……家族として仲良くやっていくだけのはずだったのに)
真っ赤な顔で強がる幼馴染、静かに独占欲を燃やす姉、そして恋する乙女として覚醒した妹。
三人の顔とそれぞれの温度が頭の中を駆け巡り、俺の理性は今夜も過酷に試されていた。
静まり返った深夜の自室に、控えめなノックの音が響いた。
(……こんな時間に、誰だ?)
理性の限界と戦いながら天井を見つめていた俺は、跳ね起きるようにベッドの上で身を起こした。ドアに向かって声をかけるより早く、ゆっくりとノックの主が部屋のドアを開ける。
そこに立っていたのは——
「陸兄ちゃん……起きてるー?」
ぬっとドアの影から顔を出したのは、大きなぬいぐるみを抱えた葵だった。
ゆったりとした部屋着の胸元が少しだけ寛いでいて、相変わらず無防備すぎる格好だ。
「葵、どうしたんだ? どこか具合でも……」
「ううん。あのね、なんか目が冴えちゃって……陸兄ちゃんの顔が見たくなっちゃった」
ふへへ、と無邪気に笑うと、葵は迷うことなくベッドの中に潜り込んできた。
「うわっ、葵! ちょっと待て、密着しすぎだろ!」
「えー? だって陸兄ちゃんのお部屋、すごく落ち着くんだもん。それに……あたしたち、本当の兄妹じゃないんだし……いいでしょ?」
上目遣いでまっすぐ見つめてくる葵の瞳は、昼間の無邪気さの中に、ハッとするほど艶っぽい「恋する女の子」の熱を帯びている。抱きついてくる柔らかい体温と直球な言葉に、俺の理性のメーターは一気にとどめを刺されそうになっていた。




