第十五話 乙女心と好意
衣替えを過ぎた秋の夕暮れ時。
買い出しの帰り道、俺の少し前を歩く結衣の制服姿があった。
深みのある紺色のブレザーと長袖シャツの冬制服。小柄で華奢な体に少し大きめのブレザーを羽織ったその立ち姿は、少し大人びて見えつつも愛らしさが滲み出ている。
以前、二人きりで過ごしたあの静かな秋の夜以来、結衣の態度は確実に変わっていた。
ポーカーフェイスな無表情さは相変わらずだが、俺のネクタイを整えたり、服の裾をキュッと強めに引っ張ってきたりと、彼女なりの独占欲と甘い恋心を少しずつ言葉や行動に乗せて伝えるようになってきている。
「結衣、荷物持とうか?」
後ろから声をかけると、結衣はくるりと振り返った。
「……陸兄さん。大丈夫です。これくらい、私ひとりでも持てますから」
相変わらずの静かなトーン。だが、俺が隣に並ぶと、ごく自然な動作で俺のブレザーの袖口をキュッとつまんできた。
「……ですが、手を繋いでくださるなら、もっと助かります」
「……結衣?」
「……寒いですから。効率よく保温しているだけです」
どこか淡々と主張するものの、ポーカーフェイスの頬がみるみるうちに綺麗な薄桃色に染まっていく。
昔は黙って服の裾を掴むだけだった少女が、今では照れ隠しの言い訳をしながらも、自分の乙女心を一生懸命に届けてくる。その一途で健気な変化が、俺の胸を熱くさせる。
「ただいまー! あ、陸兄ちゃん! 結衣姉!」
玄関のドアを開けると、部活から帰ってきたばかりの葵がバタバタと廊下へ走ってきた。
中学の冬制服に身を包んだ葵は、小柄ながらも抜群のプロポーションが際立っており、健康的な魅力にあふれている。
「おかえり、葵。今日も部活お疲れ様」
俺が笑いかけると、葵は一瞬だけ足を止め、バッと顔を真っ赤にした。
以前は「大好きなお兄ちゃん」として無邪気にダイレクトタックルをかましてきていた葵。しかし、自分の思春期の変化と俺を一人の男性として意識していることに気づいて以来、彼女の好意は「恋する女の子」としての真っ直ぐで純粋な情熱へと変わっていた。
「〜〜〜っ! 陸兄ちゃん、おかえり! 買い物大変だったでしょ、あたしも手伝う!」
照れくさそうに耳まで真っ赤にしながらも、葵は避けるのをやめて力いっぱい俺に駆け寄ってくる。
「……葵。家の中では落ち着いて行動してください。それと、陸兄さんに近づきすぎです」
「えー! 結衣姉だって陸兄ちゃんの袖口掴んで密着してるじゃん!」
「……っ! こ、これは寒さ対策のサポートです……!」
不器用ながらも一歩ずつ甘く距離を詰めてくる結衣の乙女心と、戸惑いを乗り越えて真っ直ぐにぶつかってくる葵の純粋な好意。
「二人とも、廊下でケンカしないの。ほら、荷物置くぞ」
「「はーい/……わかりました」」
少しずつ熱を帯びていく二人の想いに包まれながら、我が家の秋の日常は、ますます甘く賑やかに深まっていくのだった。




