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競技ダンスではないワルツ

 目的地のアロアベルに到着したその日から早速ワルツのレッスンが開始になるのだけれど、その前にホテルへ行って荷物を置いてダンススクールの場所の確認をすることになった。

 一人でホテルからスクールまで通わなくてはいけないから、しっかり道を覚えることは大切なので。

 桜先生がホテルまで案内してくれて、わたしが荷物を片付けるまでロビーで待っていてくれることになった。

 滞在する小さめのホテルは元は貴族のタウンハウスだったそうだ。

 それだけに、ホテルの玄関から続く廊下やロビーの内装は貴族らしく豪華でキラキラしている。

 照明はシャンデリアかアンティークのガラスで出来ている芸術品と言えるものばかりで、階段も廊下も柄の凝った絨毯が敷き詰められていたし、あちこちに飾られている絵画や壺や彫刻は美術館で見るものと一緒だった。

 部屋のベッドは天蓋付き、お風呂は猫足のバスタブ、壁には暖炉があって、あこがれの西洋のお高そうなお部屋! 

 庶民のわたしにはお財布的に体験が難しいものばかりだったので、自分でもあきれるぐらいテンションが上がってしまった。

 ただ、残念なことに暖炉は管理が大変だからか、現在は普通のストーブが設置されていた。

 桜先生をロビーで待たせて悪いと思っていても、これがお貴族様のお家かと写真を撮りまくってアロアベルに無事到着のメールを母にホテルの写真付きで送ったら、

「無事到着で安心したわ。そして写真から杏樹の楽しさが伝わってきました。

 行って良かったでしょう?」

と速攻で返信があったのが少し悔しかったり。

 あんなに行くのが嫌で『母のお願いだから』という理由をつけて来た旅行だけど、写真や映画で見たことしか無かった風景を自分が見て体験できる楽しさは格別だと気がついた。

 もっとも『ダンスレッスン』という重要課題が待ち構えているのだけれど、レッスンを受けてどうしても嫌だったら無理しなくて良いと言われていたので、無理そうなら早々に観光旅行にしようと思っている。

 1時間近く桜先生をお待たせして平謝りしたら、笑って許してくれた。


「きっとこうなるって思っていたから、杏樹さんはこれ以上謝らなくていいわよ。

 だって、一般の日本人にとっては夢のようなホテルだもの。

 私もアロアベルに来た当初は写真をいっぱい撮ったのよ。

 ただ、今みたいにスマホで写真、すぐに確認。

 というわけにいかなかったからフィルムを使うカメラでね。

 フィルムを現像してもらわないと、どんな風に写っているのかわからなくて。

 カメラになれていない素人だから、ぼやけすぎて謎のなにかだったり、暗すぎて何が写っているのかわからない心霊写真みたいなものばかりで、思ったように写せなくて困ったものよ。

 今は本当に便利になったわよね」


 先生は少し懐かしむように言って、「せっかくだから記念写真撮りましょう」と、貴族の館にしか見えないホテルのロビーで二人で写真を撮った。

 この写真を誰かに自慢したい気持ちはあるけれど、自分が写り込んでいる写真をSNSに上げるのは、例の初デート別れ話現場写真で有名になったトラウマがあるので、帰国してから家族や友人に見せることにする。

 我ながらトラウマってやっかいだと思う。

 もう10年以上も昔の話なのに、思い出すと今でも胸が苦しくて泣きそうな気持ちになるのだから。



 一番の問題だったダンスレッスンはパートナーの男性役が桜先生だったので、心の底から安堵した。

 それと、わたしが思っていたダンスはテレビや動画で見ていた競技ダンスだったので、今回習うワルツは踊る楽しみを得るもので別物と考えて良いそうだ。


「ワルツを少々間違えたところで恥ずかしくないのよ。

 それどころか多くの人が踊り方を間違えてメチャクチャになるのを楽しむようなダンスもあるの。

 カドリールってダンスなのだけど、元は宮廷で色々な方と知り合いになるためのものでね、パートナーを替えながら踊るのよ。

 今も舞踏会のプログラムにこのダンスは入っていて、このカドリールを踊るために参加される方も多いと聞くわ。

 はじめましてのご挨拶もダンスに入っていてね、昔の貴婦人は意中の殿方がお相手になった時にこっそり手紙を渡したりしていたんですって。

 ロマンチックな話よね。そんな風に杏樹さんも気軽に楽しんでくれると嬉しいわ」


 桜先生に美しく微笑まれて、うっかり「はい」と返事してしまったのが原因だったのか、ダンス(ワルツ)のレッスンは朝から晩まで入っていた。

 桜先生のダンス教室はホテルから歩いて10分ほどの場所で、元はレストランらしい。


「広いフロアが欲しくて探したらレストランだったのよね。

 それなりに格式があったから内装も適度に凝っていて、夫もわたしもダンスレッスンの環境にいいわって思ったのよ」だそうだ。



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