80.銃口の向き先 1
テラス・ムーアは第二の難問しか解くことができていなかった。動力装置を動かすには二つの死体が必要だと考え、ケプトの死体と自らの肉体を合わせることが異世界の門を開くために必要な条件だと考えていた。
妹を救うために、妹の罪を被るために。自らが犠牲になった。
しかし、その妹の肉体こそが、重要だった。
必要なのは、転生者の死体と魔法使いの肉体。
動力装置は、今までとは比にならない程の量の白煙を吹き出し、動き始めていた。
テラス・ムーアとカラス・ムーア。双子の肉体が二つそろって、初めて完成した。
「オルタ・ルーゼン。わたしには、難問を解いた経緯を聞かないんですか?」
意地の悪い笑みを浮かべたフラン王女に対して、オルタは何も返さない。異世界の門を開くのはオルタの悲願だった筈なのに、彼女はちっとも嬉しそうではない。
「つまらない女ですね」とオルタを罵倒したフラン王女は、続けざまに僕をみた。
「先ほども話しましたよね。オルタ・ルーゼンは人造人間を作り、ルーゼン家を追い出されたのだと。彼女の実の子供はそこに落ちている少年、メイン・ルーゼンでした。寝たきりの息子に魂を入れるために、生贄として用意したのが、人造人間の魔法使い、ケプト・ルーゼンだったわけです」
「ケプトが魔法使い?」
ソクラが思わず突っ込む。ようやく話し相手ができたからか、フラン王女は興奮気味に舌を濡らした。
「ええ。天才魔法使いと自称する貴女なら、動力装置の原理は分かるんじゃないですか。これは、魂を抽出する鏡を利用した、転移装置です。魔法使いの魂を抽出し、もう一つの肉体に移す。そのために、生贄の方は死体である必要があります。一つの器に二つの魂はいれられないですからね」
生贄ーーテラスの肉体に、カラスの魂を移動する。しかし、転生者と違って、魔法使いには回復魔法がある。魂の抽出はできないはずだ。実際、ソクラが鏡を触ったときは、一瞬意識が飛んだけれど、それだけだった。
「だから、肉体を用意するんですよ。この動力装置は引力を持っている。魂は器に一時的に収まるが、すぐさま回復魔法が起動する。ですが、器は転生者の肉体です。魂に釣られて魔法が効かない特殊な素材ですから、魂を閉じ込めることができる。肉体を失った魂はどうなると思いますか?」
これは、転生者の僕でもわかることだった。今日になってから、何度も見たからだ。
肉体を失った魂は、大気中の魔力をもとに回復魔法を起動させる。無から、肉体を作り出すのだ。
しかし、ここでも壁があった。魔法の効かない転生者の肉体があるため、『無』ではないのだ。
大気中の魔力を集め回復魔法が動くが、肉体が復活することはない。
肉体が無いので、回復魔法が再び動く。
しかし、肉体が復活しない。
再び回復魔法が動く……。
故に、ゼンマイ仕掛けの動力装置からは白煙があふれ出していた。カラスが肉体を復活させようとしているのだ。空回りした回復魔法は、無限に発動し続ける……。
「これが、天国の魔王が生み出した最低最悪の兵器、『無限魔力吸収砲撃、天国の魔王城』の正体です。回復魔法が引き起こす無限の引力は魔力を引きよせ続けます。十年前、パラス国を襲った悲劇、ペテロ町をに住む魔法使い全員が殺された魔王の光線の正体は、引力によるものだったんですよ」
転生者の肉体に魔法使いの魂を入れこむことによって生まれるエラー。魔力を求めた無限の引力を町に向けて解き放つことで、魔力を吸い取った。大気中にある魔力は魔王城に吸収され、ペテロ町には何も残らなかった。回復魔法を起動する魔力を失った町民は、そのまま肉体を復活させる手段を失い、死を迎えた。
故に、十年前に生き残ったのは、魔法の効かない特別な肉体を持った転生者である僕だけだったのだ。
「魂に刻まれた回復魔法の道筋が壊れるまで続くことでしょう。その凄まじい引力は、別世界から魂を引き寄せるほどのものです。生贄として用意された魔法使いの肉体に、菅原コウという異世界の魂が入った結果が、ケプト・ルーゼンというわけですよ」
饒舌に話すフラン王女に口を挟むのは、僕以外にはいなかった。
「何故、貴女はそこまで詳しいのでしょうか」
「つまらない質問をしないでください。興がそがれます。そんなもの、事前に空島を解析していたからに他ならないでしょう。我々はダルフは軍事国家ですよ」
「それじゃあ、これから何をするつもりなんですか」
これこそ、つまらない質問だった。自分で言っていて、聞くまでもないとわかっていた。
しかし、今回はフラン王女の気を損ねるようなことはなかった。彼女は、この質問を待っていたかのように上機嫌にほほ笑んだ。
「戦争に決まっているじゃないですか。西国ダルフの宿敵、震駭の魔王。いまから、奴の根城である南国を滅ぼします」




