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79.第三のXX

「これにて、第三回捜査会議は終了ですな。とりあえず、一人で大立ち回りをしたヤユちゃんに拍手を送りましょう。カラス・ムーアの処遇については……」


「待ってください。ティールさん」


「む、どうしました『吸血鬼』改め、名探偵」


 わざとらしく声をあげるティールに苛立ちを覚えつつも、泣き崩れているカラスに顔を向ける。


「事件の全体像は分かった。僕の無罪も証明できた。だけれど、一つだけわからないことがある。カラス・ムーア、君はどうして、ケプトを殺したんだ。動機は何なんだ」


 僕の推理はすべてが逆算だった。テラス・ムーアの死に際に立ち会ったあの瞬間から、自殺の原因を探すことから始めた。


 だから、最初の一歩については想像がつかなかった。カラスだって、テラスが人殺しを許さないことだってわかり切っていた筈だ。彼が妹の殺人を許容できずに、自殺するほどの正義感を持つことだって、双子の妹なら分かったのではないか。


 それを差し置いて、殺人を犯した理由。それだけは、僕にはわからなかった。


「理由なんて、ないわよ」


 カラスは涙と同時に呪いの言葉を吐いた。


「貴方なら、『吸血鬼』天野ヒトミなら、聞かなくてもわかるでしょ」


 狂人的な思考があったわけでも、歪んだ信念があったわけでもなく、欲望にのまれていたわけでもない。


 唯、理性的に人を殺す人間だっている。そこに、深い理由なんて必要ない。


 性欲だったのかもしれない。

 食欲だったのかもしれない。

 睡眠欲だったのかもしれない。


 そういえば、僕がケプトの自室に軟禁されていた時に、カラスに聞かれたことがある。


 この世界で魔王として猛威を振るっている転生者は、皆悪魔だったのか。それとも、悪魔だから魔王になったのか。


 僕の答えは、「悪魔や魔王なんてものは後付けでしかない」という簡単なものだった。それに対して、カラスは納得をしたように僕の前を去った。


 カラスの動機なんてものは、必要なかったのだ。彼女は行動で示した。


 カラス・ムーアは悪魔だった。それだけだ。


 拍手が鳴り響く。ティールが僕らの問答に反応して、またわざとらしく行動したのかと思ったが、音の発生源は彼ではなかった。


 フラン・ミルター。カオルと自らを偽っていた魔法使いが、手を叩いていた。


「それじゃあ、判決を下します」


 宛ら裁判官のように、フラン王女はカラスを見下した。それに反旗を翻したのは、捜査会議の司会者ティール・オキニだ。


「ちょっと、貴女が王女であっても、ここは晩餐会の場ですよ。カラス・ムーアの処遇については、みんなで話し合って……」


「無礼ですよ、転生者。ここがどこか理解していないんですか?」


 フラン王女は冷たく動力装置の下部を指さした。そこは透明のガラス板で、地表が見える。空島が動き始めていたこともあって、見える景色は変わっていた。


 街並みが見える。これは、何だ? 空島は、天国の魔王によって滅ぼされた国境沿いにある僕の故郷の上に浮かんでいた。それなのに、こんな街の景色は見たことがない。魔王城はどこに移動した?


 いや、まさか。僕らは、フラン王女の口角が吊り上がる前に、彼女の言いたいことを理解していた。


 パラス国ではない。西国ダルフに、空島は移動したのだ。


「西国ダルフでは、王族の発言が一番力を持ちます。故に、カラス・ムーアの処遇についてはわたしが決めさせていただきます」


 反論は許されていなかった。


「人を殺すという概念は、回復魔法の持たない魔王の発想です。ですが、人を殺したのならば、魔法使いでも魔王に変わりはありません。カラス・ムーアは魔王になった。それならば、死刑以外に選択肢はありません」


 「そして」、とフラン王女はオルタを見る。


「第三の難問も、この場で解かせていただきますよ。カラス・ムーアに命じる」


『テラス・ムーアの死体を右の棺桶に入れなさい』


 不思議な音がした。それが、フラン王女の口から出た言葉だと、僕は気が付かなかった。


 カラスの体が揺れる。彼女は驚愕の表情のまま立ち上がり、地面に横たわる兄の死体を抱きかかえた。引きずるようにして、動力装置の右の棺桶を開き、中に入れる。


「続けて命じます」


『左の棺桶に入り、死になさい』


 再びフラン王女の口から漏れる音に、僕は慌てて周囲を見わたした。ソクラも、シン先生も、呆然とフラン王女を見ている。ティールだけが、僕と同じように困惑した様子だった。


 フラン王女が何かしらの魔法を使っている。そして、他の魔法使いは誰も止める様子がない。


 命じる……、命令魔法なんてものがあるのか? 僕の疑問を置いていくように、カラスは左の棺桶に自ら入っていった。


「何をして……」


「ああ、転生者の皆さんには、魔法の声は聞こえないんでしたっけ。説明する義務はありませんが、ヤユ・オーケア、この状況を作ってくれたお礼に、特別に教えてあげますよ」


 フラン王女は笑う。この女が、サトルくんを騙っていたことに腹が立つほど、残忍な笑みだった。


「第三の難問は解けました。必要なのは、転生者の死体と、生きた魔法使いに肉体。この二つさえあれば、準備完了です」


 棺桶が閉じる。最後に見せたカラスの表情は、悲惨なものだった。


 ぎちぎちとゆっくりと動いていたゼンマイ仕掛けの動力装置が、大きな音を立てた。歯車が見えない速度で回転し始め、動力室を白い煙が満たす。


「今から異世界の門を開きます」


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