後編
啖呵を切ったのはいいが、結城の奴、大丈夫だろうか。ダニエルを納得させられるような物が一体あるものなのか、俺には皆目見当がつかない。
「おい、何か考えあるのかよ?」
「あるよ。ただし、三輪っちにも手伝ってほしい」
「俺に?」
そりゃあ手伝えることがあるなら、やってやるけどよ。何をやろうっつうんだ。
ダニエルと別れた後、俺と結城は場所を変えていた。あんまり暑いので、適当な茶屋で涼んでいるところだ。ところてんを突っつきながら、結城は視線を上げた。
「正直言えば、野菜作りくらいしか今の僕には取り柄が無い。だけど、じゃあ彼を畑に案内して、京野菜作りを語るのも絵にならない」
「ん、まあ確かにそりゃあな。めんどくせえし、地味だよな」
「野菜作りの紹介くらいじゃ、きっと彼は納得しないだろう。それなら目先を変えようと思う」
結城の細い白い指が、つつ、と卓の上を滑る。零れていた水滴が透明な筋を引いた。
「こんな暑い季節の京都まで来てくれたんだ。せめて一時の涼でも提供してあげるのが、良いんじゃないかと思うんだな」
「前に食わせてもらった京野菜の料理か? けど、涼しい料理って素麺くらいしかねえぞ」
「三輪っちは真っ直ぐ過ぎるね。暑気払いするなら、冷たい甘味が一番だろう」
「甘味ねえ。近頃、横濱じゃアイスクリンとかいう冷たい菓子が流行ってるみたいだけど、ああいうやつかよ」
「そうだね。というわけでだ、これを買ってきて欲しい。あと、調理場の手配を頼むよ」
結城から貰ったメモを見る。何だこりゃ、麦芽水飴を三升、水を四升って何するつもりだよ、こんなにたくさん(一升は約1.8リットル)。それに清潔な布巾を数枚と、寸胴鍋、素焼きの壺を六個だと。何する気だ、こいつ。
「準備自体はそう難しくねえけど、これで何作るんだよ。皆目見当つかねえぞ」
「それは今は秘密さ。あと、三輪っちがこれらを手配してくれている間、僕は他の材料を探してくる。多分、錦市場なら見つけられるだろうからね」
「お前がやるっつうなら助力はするけどよ、大丈夫なんだろうな」
「ん? ああ、そんなに高い買い物にはならないよ、政府の財布を過度に削る気は無い」
「違ーよ、ほんとにダニエルの眼鏡に敵うもんが作れるのかって話だ。仮に駄目でも、無理に勧誘するとかはねえだろうけどな。けど」
「けど?」
一呼吸置いてから、俺は敢えて口に出す。目下のところ、結城の一番の泣き所だ。
「砲術指南としての過去と、野菜の作り手としての現在を比較されて馬鹿にされたりは――やっぱ、嫌だろうが」
「あぁ、そうだなあ、それくらいは嫌味を言われるかもしれないな。けど、僕も全力を尽くすから言わせないつもりさ。それに」
「あん?」
「仮に言われても、三輪っちだけは僕を馬鹿にはしないだろうからね。だから別にいいさ」
ったく、そんな信頼を前面に押し出した顔すんなよ。
「たりめーだろ、馬鹿。あと三輪っちって呼び方止めろって」
けど、まともに言ってやるのも何だか腹が立つからな。だから俺が言えるのは、憎まれ口くらいさ。
******
結城紫音が料理が出来ることは知っている。この春、俺があいつの家を訪ねた時に、ご相伴に預かったからだ。けれども、菓子作りについては初耳だ。
「うん、場所はばっちりだ。この短時間でよく手配してくれたね」
「おう、一応政府の役人だからよ。料亭の厨房の片隅くらい、無理いやあ貸してもらえるんだよ」
我ながら権力ってこええと思う。けど、ダニエルが明治政府公認の武器商人てこと考えたら、協力してもらっても悪くはねえ。お上の覚えが良くなりゃ、この料亭にとっても悪かねえだろ。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、結城は早速準備に取り掛かり始めた。先程まで着ていた着物は、地味な作務衣に着替え済みだ。清潔な調理場に広げられた材料を確認している。
「麦芽水飴と水はあるね? よし、竈はそこか。さっそく湯を沸かそう」
俺が見ている間に、結城はてきぱきと動き始めた。その間に、あいつが買ってきた物を覗き見る。錦市場から戻ってきた時、結城は大きな風呂敷包みを持っていた。それが土間に置かれ、結び目が緩んでいる。
「何だ、こりゃ?」
薄茶と白の中間色のような物が、ころりと風呂敷から零れた。何かの根のようにも見えるが、それにしちゃあキンと鋭い香りがする。これ、何だっけな。どこかで嗅いだような......脳裏に閃く物があった。
「生姜か、これ」
「あ、気がついたかい。それじゃ、僕が何を作ろうとしているかも分かるだろうよ」
「いや、全然分からねえ」
振り向いた結城が、斜めにずっこける。肩透かしを食らったと言わんばかりだ。
「何で分かんないんだよ! 水飴、水、生姜ときたら、冷やし飴に決まってるだろう! 食べたことないのか、三輪っちは?」
「冷やし飴だ? あー、東京の方じゃあんまり見ねえな。関西じゃ人気あるのかよ」
「小さい子供からお年寄りまで皆大好きさ。暑い夏を乗り切るには、これ以上の飲み物は無いよ」
ビシッと音がしそうな勢いで、結城が俺に指を突き付ける。そんなこと言われても、知らねえもんは知らねえんだよな。だから「ほー」とだけ頷いておいた。冷やし飴か、そいつでダニエルを満足させられたらいいんだが。けど、これってすげえ庶民的な甘味だと思うんだよな。今思い出したんだが、そこらの屋台で子供が買ってたのを見たぞ。
「心配かい、三輪っち」
「ああ、正直言えばな。お前の腕は信じているけど、これって庶民の甘味だろ? 高級なもんがいいって訳とは限らないけどよ、やっぱり格ってもんがあるだろ」
「ふふ、だからこそだよ。大丈夫だ、冷やし飴は庶民の甘味だからこそ意味がある。それにね」
風呂敷を拾いながら、結城はふっと笑った。その顔には不安はまるで見られない。細い手が風呂敷包みをほどくと、その中から生姜が――いや、それだけじゃねえな、もっと茶色い木の棒みたいな何かと、鮮やかな黄色の果実が転がり出てきた。両方とも俺が見たことが無い物だ。
「おい、結城。その茶色のと黄色い果実、何だよ? 見たことねえんだけど、異国の野菜......いや、調味料か?」
「そうだね。わざわざ錦市場まで出向いた甲斐があって、手にいれることが出来たよ。さて、三輪っち。ここからは君も立ち入り禁止だ。明日の朝まで、僕はここに籠る。入らないでくれるかい?」
「入るなって、おい、結城」
「心配しなくても、自分の羽根で機織りなんかはしないさ」
「鶴かよ、お前は!?」
そんな押し問答の末、結局俺は厨房の外に押しやられた。最後に扉を閉めながら、結城が言い残す。
「明日をお楽しみにだよ」
******
青い空、白い雲、そして憎々しいまでに暑い太陽と今日も真夏の三拍子だ。料亭の一室は当然日陰ではあるが、それでも汗が滲み出る。
「日本の夏は蒸し暑いデスネ、三輪さん」
「京都は盆地っすから、特に。風が抜けていかないらしい、ってのはどこかで聞きました」
「ほう。ところで結城さんはどちらにいるのデスカ。暑気払いの甘味をいただけるとのことデシタネ?」
俺に話しかけつつ、ダニエルはぱたぱたと団扇をはためかせる。供の者が扇いでいたんだが、自分でやるからと断ったんだ。折角の京都探訪なので、俺の方で浴衣を用意して着てもらっている。「クール! これが日本の伝統なのデスネ!」と喜んでもらえたはいいが、これはあくまでおまけに過ぎない。
「長らくお待ちいただいた。今、お持ちいたします」
凛と透き通った声が、廊下から響いた。そう、主役のおでましだ。涼やかな水色の着物の裾をさばき、結城紫音が顔を覗かせた。膝をつきながら、そっと。廊下に置いた盆の上には、二つの素焼きの壺が乗っている。
その時、リィン、と硝子の風鈴が鳴った。まるでその音に合わせるかのように、結城が顔を上げた。その視線がダニエルの青い目を捉える。
「さて、用意は出来たカナ」
「ええ、準備万端抜かりなしだよ」
師匠と弟子、そして商人と客。維新前の関係は、今はもう二人の間には存在しない。
「かっての長州藩砲術指南が砲術を捨てて、何を身につけたノカ。この甘味を以て、私に何を伝えたいノカ。試させてモラウヨ」
「どうぞ、お好きなように。あなたには世話になった。これにはそれに対する礼もあります」
「義理固いネ」
ダニエルの言葉に、結城は所作で以て答える。断りを入れてから、盆を前に差し出した。
「それではご賞味あれ。一つはダニエルさんに、もう一つは三輪っちにだよ」
「え、俺にもあるの?」
「ただ黙って待つのもしんどいだろう? 残り四つは、料亭の方に差し上げたよ」
なるほど、壺を六つ用意したのはそういう理由か。俺は様子を伺う。ダニエルは壺をしげしげと眺めている。小首を傾げた後、彼はおもむろに添えてあった匙を突っ込んだ。食べずに済ますということは無さそうだ。
少しほっとする。俺も壺を慎重に手に取った。壺の表面から手のひらに、じんわりと冷たさが伝わる。生姜の色なのか、壺の中の冷やし飴は薄い黄色だ。粘性が高いのだろう、とろりとその表面が揺れた。
「ん、ンン、これは中々デスネ」
隣から聞こえてきたダニエルの声。それに背中を押されるように、俺もまた一口目を口にした。ひやりとした舌触りが抜けていき、喉から落ちていく。口中に残った甘さがぱっと広がるが、それがくどくはない。辛味、ああ、そうか。ねとりとした水飴の甘さの中に、一筋きりりと爽やかな辛味が利いているからだ。
「これは生姜ですかネ。面白い風味デス」
「ええ、しかしそれだけでは無いですよ。冷やし飴に生姜を利かせるのは当たり前、僕の工夫は他にあります」
そうなんだよな。俺がふと横を向くと、ダニエルと目が合った。
「生姜だけの辛さではないネ、コレハ。この食欲をそそる爽快な僅かに辛味を帯びた......どこか甘い香りは何だロウカ」
「いや、俺に聞かれてもよ」
そう、ダニエルの指摘する通りだ。生姜はあくまで水飴の甘ったるさを取り除く為、このもう一つの香りは何だ。甘さを含んだ独特な香り、これはどこから来る?
水飴を一匙掬う。細かい茶色の粉がその表面にまぶされていた。どうやら、これがその正体らしい。ひんやりした飴の味に、生姜と共にピシリと変拍子が響く。
「それは日桂です。京都では、あの有名な八つ橋にまぶして食べられます。英吉利でよく利用されるシナモンのごく近い親戚ですね」
「ほう、なるほど。確かに言われてみれば、シナモンによく似た風味ダ。冷たいこの飴の甘味がくどくないのは、生姜とニッキが彩りを添えているからデスネ」
ふむ、と感心したように、ダニエルは頷いている。氷菓のように氷の直接的な涼しさで、暑気を払う方法もあるだろう。だが、この冷やし飴は違う。適度に低温に保たれた水飴は、緩やかに涼しさを運んでくれる。生姜と日桂の風味が利いた甘さが、喉に優しい。一匙、二匙と口に運ぶ。甘味は普段あまり食べない俺だが、これならいける。
「日本にこのような菓子がアリマスカ。面白いデス」
「堪能したといった顔だけど、まだ終わりじゃないんだよ。ここからもう一手、変化があるんだ」
「ほう?」
ダニエルは楽しそうに目を細める。けど、結城はそれを受けて立つ。着物の裾から取り出したのは、あの黄色い果実だ。楕円形だが、左右の端が少し膨らんでいる。目に焼き付きそうな鮮やかな黄色を、結城は左手で掴んだ。
「檸檬? ほう、日本にもあるトハ」
「御名答だよ。そしてこれをね」
そして結城は右手に抜いた小刀で、その檸檬とやらを二つに割った。白い掌の上で、檸檬はころりとその中身を晒す。透明度の高い果肉は、何とも瑞々しい。
「冷やし飴に絞るわけだよ。こんな風に」
ぎゅっと檸檬が握られる。水飴の中に檸檬の果汁が滴り、ゆらいだ。ダニエルの喉がごくりと鳴る。
「ジンジャーエールと同じ趣向を取ったのダネ。ふむ、では――」
「あ、結城。それ、俺にもくれよ」
「いいのかい。結構酸味があるよ」
「俺だけ知らねえって、悔しいだろ。遠慮すんな、がばっと」
「美味しいネ、コレハ。三輪さん、あなたも試すべきダヨ」
ほら、ダニエルだってこんなに満足そうな顔じゃねえか......って、さっきより明らかに機嫌がいいな。そんなに美味いのか、これ?
ツン、と酸味が滴る。蜜柑や八朔に近い、けれど、もっときつめの酸味だ。驚いた、けれどすぐにそれは冷やし飴の甘さに巻き込まれる。爽やかな酸味が、飴の甘さを引き立てていた。生姜や肉桂のツンとした甘辛さとも、抜群に相性がいい。
あくまで主役は冷やし飴なんだが、それを引き立てる脇役が冴えていた。驚いたぜ、果物の果汁一つでこんなに違うのか。
「舌に合ったようだね。恐らく日本初、檸檬風味の冷やし飴だ。これが僕の答えだよ、ダニエルさん」
「美味デシタ、結城さん。心なしか汗も引いたようデス、感謝しまスヨ」
「そういやあ、そうだな」
嘘じゃない。うだるような体の熱、それがましになっている。結城の説明によると、飴の冷たさもさることながら、生姜も肉桂も檸檬も解熱作用があるらしい。確かに暑い夏にはぴったりだな。
俺らの様子に満足げに頷きつつ、結城はダニエルと対峙した。答えは出した。ダニエルもそれを受け止めた。だから後は、結城自身の口から語れってことだ。
「一応ね、これでも勉強したのさ。大砲を撃つしか僕は知らなかったからね。ほんとに一からだった」
ぽつりと、結城が呟いた。
「勝手だとなじるなら、なじればいいよ。砲術指南として従軍していながら、今は土いじりというのも否定はしない。けどね、僕は今の僕を肯定する」
「続けてクダサイ」
静かに目を閉じ、ダニエルが促す。
「そりゃ、小さいことかもしれないさ。でも、野菜作りやお菓子作りは、誰も傷つけない。冷やし飴みたいな駄菓子でも、工夫次第で夏を乗り切る甘味になる。事実、ダニエルさんだって食べてくれたしね」
「ああ。実に美味しかったネ。最後に檸檬を利かせるのが、洒落ているヨ」
「それを聞いて安心した。工夫した甲斐があったというものだよ。もう、大砲なんか二度と撃ちたくないからね」
「後悔はしてイマセンカ」
「新しい日本の礎となったことには、全然後悔はしていない。けれど、同じ日々を重ねるのはごめん被る。いくら金を積まれようとも、お断りだ」
「勿体ナイ、と言いたいところですが、こんなおもてなしを受けたのでは、それも野暮デスカ」
最後の一匙を名残おしそうに掬いながら、ダニエルは笑った。少し寂しそうな、だが、どこか突き抜けた笑みだった。
「壊すことによる創造より、作ることによる幸福を選んだヨウデスネ」
「ああ。だから、この冷やし飴は僕の決意表明でもあり、あなたへの最後の感謝の気持ちだよ」
数瞬、結城とダニエルは視線を交わした。けれど、その均衡は長くは続かなかった。壺を自分の脇に起き、ダニエルが立ち上がる。
「ここに立ち寄って正解デシタ。結城さん、お元気で。もうお会いすることもナイデショウ」
「......あなたの恩は忘れない」
座ったままの結城の横を、ダニエルがすれ違う。からりと開けた障子の向こう、暴力的なまでの陽射しが廊下に射し込んでいた。その熱の中に踏み出しながら、ダニエルは最後に一度だけ振り返った。
「Good luck」
それだけを言い残して、ダニエル・カークランドは去っていった。一度も振り返らず、そして結城もまた、彼を見送ることはしなかったんだ。
******
川面を渡る風が涼しい。木陰により陽射しは遮られ、足元からは水の涼気だ。夏なのに、ふとした瞬間には肌寒ささえ覚える。
「いやあ、悪いね。こんないい場所で奢ってもらって」
「構わねえよ、どうせ経費だ。それにお前のお陰で、上層部もご機嫌だしな」
結城と俺がいるのは、貴船神社の川床だ。川の上に張り出して作った座敷に座り、互いに焼き鮎をかじっている。香ばしい鮎の身を頬張りながら、この景色を楽しんでいるんだが、こりゃ悪くねえな。
冷やし飴を堪能した後、ダニエルは置き土産を残していった。料亭に預けられた書簡によれば、自分の他にも英吉利の武器商人を紹介してくれるらしい。結城の気持ちを汲んでなのか、あるいは別の意図あってのことかは分からない。けど、好印象は与えたんだろうな。
そんなこんなで、俺ら二人は祝勝会って訳だ。結城は今日の夕方には賀茂に戻るというから、その前にな。遅めの昼食となったが、こんな雅な風景を楽しみながらってのは乙なもんだな。
「一泊二日か。短え滞在だったな」
結城の杯に酒を注ぐ。それを一息に干した後、結城は杯を手の中で遊ばせた。
「ああ。でも中身は濃かったね。ダニエルも納得していたようだし、僕は僕で踏ん切りがついた。十分だよ」
「何か今さらだけどよ。ありがとな」
俺の歯切れの悪い礼に、結城はくすと笑った。「確かに今さらだね」と答えた後、ふいとその目は川の方へと流れる。
「どうしたよ?」
「ん、いや。ただね、あの頃を思い出したのさ。僕と君が戦場を駆けていた頃を」
しみじみとした口調に、こいつはどんな感情を込めているのか。それは俺には分からねえ。
「五年前か。早いよな、時の流れってのは」
「ほんとにね。あの時、僕が為したことには、多分意味があったんだろうな。もうやりたくはないけれど」
「そりゃそうだ。お前がいなかったら、俺なんかとうにくたばってたっての。俺だけじゃねえ、今の明治政府を支える要人も何人か亡くなってたはずだぜ」
僅かに力を込めて、俺は声をかけてやる。十分だ、結城紫音。お前はもう十分にやったんだ。だから、後は好きにしろ。自分の中に流れたそんな思いを、俺は酒で喉に流し込む。
「だからさ、野菜作りでも菓子作りでも何でもやれよ。人を壊す手じゃなくて、何かを作る手の方が今のお前には似合ってんだからよ」
「全く......君はすぐそうやって、僕を安心させる。また何かの機会に厄介事を持ち込むくせに」
「そりゃ必要がありゃ、猫の手だって借りなきゃなんねえからな。それは大目に見てくれよ」
交わしたのは微笑と軽口、それと酒。俺達が共有する物はそれだけで十分だ。新時代を背負う覚悟なんてやつは、背負える覚悟がある男が黙って引き受けりゃいいのさ。




