須知の提案・竹中、病室に泊まる(1941年秋)
三十分後、病室の前で医師と須知と竹中が話している。
「急性のものですが、大丈夫と思います。過労と栄養不足と悪性の風邪ですね。三~四日安静にすれば起きれます。状態次第ですが一週間もすれば、仕事に戻れるでしょう。私はこれで」
と言って医師は去って行く。
「あのう、僭越ですが、優秀な方なんでしょう? だったら、どこかホテルにでも引っ越されたらどうです。長期滞在だったら安くできるコネも知ってますし、PL1が住居費として半分負担でもしたら、家事も助かりますし、食事もルームサービスという手もあります」
「ああ、それは思い付かなかった。外国の人と会っても目立ちにくい。夜遅くなっても帰しやすいし、いい案ですね」
「明日にでも目が覚めたら言っておきます。いいホテル紹介してください」
「いいんですか? 本人に了解取らなくて」
「命令にします」
「はい、わかりました」
その夜は結局、竹中はみほの病室の空ベッドで寝るのだった。
窓の外で、秋の風が木の葉を揺らしていた。
翌朝みほは、見知らぬ白い天井の下で眼を醒ました。記憶がはっきりしない。竹中中佐が見舞いに来てくれて雑誌の話をしてたのは薄っすら覚えているのだが、その後おでこがほんのり冷たかったような記憶しかない。横には竹中中佐が熟睡している。
段々心配になって、
「竹中中佐、起きて何か話してください」
まだ振らつくが、半身を起こして彼の方を見て言う。
さすがSESで鍛えたのであろう。すっと半身を起こし、
「何を」
「なんでも。声を聞いていないと不安なんです。話して下さい、少し楽になります」
竹中は少し間を置いた。
「……ノモンハンのことを話してもいいか」
「はい」
「あの時、お前が狙撃した角度は……」
みほは再び横になって、目を閉じながら、静かに聞いていた。
竹中の声が、部屋に静かに流れた。




