竹中、みほを見舞う(1941年秋)
竹中はその後、一人でみほの宿舎に向かった。
扉をノックした。
「……どうぞ」
かすれた声だった。
竹中が入ると、みほが布団の中にいた。顔が赤かった。
「あっあく・・・竹中室長⋯⋯わざわざ、すみません」
「様子を見に来た」
竹中は部屋の中を見渡した。本の倉庫のような部屋で、大半が原書だった。こたつの上に水差しと薬。その横に裸身に近い女の表紙の雑誌が置かれ、Astounding Science-Fictionと書かれている。男の本能に抗えず、竹中はその表紙を凝視してしまう。
「ああその雑誌、先週神田で買ってきたんですよ。面白いですよ。キャンベルなんか最高ですね」
「おい、お前、こんな雑誌を読むのか? 神田まで買いに・・・」
「ええ、アメリカでは毎月買ってましたよ」
「女のお前が・・・こんな卑猥な・・・」
「卑猥、ああっ、その表紙ですか? ああだから、眼が点に・・・その表紙、客寄せで室長のような人に買わそうとしている詐欺のような表紙ですが、中身は純然たるSFです。ちょっと室長の男らしいところに触れて嬉しいです」
竹中は恐る恐る雑誌を手に取って中を見ると、ぎっしり2段に組まれた活字のオンパレードだった。
「必要なものはあるか」
「大丈夫です。ご迷惑をおかけして申し訳……」
「迷惑ではない」
竹中は椅子を引いて座った。みほは少し驚いた顔をした。
「……帰らないんですか」
「もう少しいる。熱は?」
と言って、みほの額に手を乗せた。
「おい、すごい熱じゃないか?」
再び覆い被さるようにして、自分の額とみほの額を付ける。
「これは駄目だ」
「寝てたら、治ります」
竹中が慌てて机の上の電話を取った。
「須知さんに代わってもらえますか? 竹中ですけど。……部下の百々地が高熱で、どこか病院照会してもらいたいです。はい、よろしく」
「おい、行くぞ! 着る物か——どれだ? これか? 立って! 支えてやる。さあいくぞ。恥ずかしいのは俺の方だ。大丈夫だ」




