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知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第12章 世界が動く
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沈黙の圧力・チャンバレンの憂鬱(1940年秋)

 チャンバレンは執務室で報告書を読んでいた。


 日本の艦隊がインド洋を往来している。日本の商社がボンベイに事務所を開いた。インドの独立運動指導者が日本公使館と接触した。ビルマで日本人の「調査団」が活動している。満州のユダヤ人コミュニティが拡大している。


 どれも、違法ではない。どれも、抗議できない。しかし全部が繋がっていた。


(日本は表面上何の敵対行為の素振りすら見せていない。しかし、彼らは全部見えている。ちょっと前の我らのように、どこでも動ける。ドイツに注目しすぎた)


 側近が入ってきた。「閣下、日本からの非公式な提案が届いております」


「逆レンドリースか」「はい」


 チャンバレンはしばらく黙っていた。


「……検討する」


(今の我が国に、拒否できる訳がない)


 側近が出て行った後、チャンバレンは呟いた。


「怖い国だ」


 誰も脅していない。それが、一番怖かった。


―――


 ベルリン、OKH司令部。ハルダーは地図を広げたまま、煙草に火をつけなかった。


「兵站が心配だ。ドニエプル川を越えたあたりから、補給線が伸びきる。鉄道の軌間が違う。トラックは泥濘期に止まる」


「確かに——冒険だ」とマンシュタイン。


「ソ連は纏まって崩れない。叩いても叩いても後ろから兵が出てくる。冬が来る前に決着がつかなければ——」


「閣下は決めておられる」「ああ。我々が何を言っても」


―――


 数日後。地図室に将官たちが並んでいた。ヒトラーは地図台の前に立ち、東を指した。


「実行する」


「閣下、兵站の問題が——」


「諸君は計算ばかりする。だがソ連は腐った扉だ。一度蹴れば崩れる」


「しかし冬までに——」


「五月に始める。バクーまで、来夏までに届く」

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