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知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第12章 世界が動く
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スパイ・尾崎の動き(1940年初頭)

 1940年初頭。丸一ホテルの一室。


 竹田が薄い封筒を机に置いた。


「尾崎が動いた」


「何を掴んだ」


「外務省の宴席での話だ。松岡が北進論を持ち出した。南方資源への色気は捨てて、シベリアを取れと」


「誰の前で」


「近衛グループの三人。陸軍省の課長が一人混じっていた」


「南進論は」


「海軍が動いている。蘭印への圧力を強めろという意見書が回っている」


「尾崎が熱心にメモを取っていたのは、北進論の方だ」


「そうか、おもしろい。麻子を呼んでくれ」


―――


 夜半。東京の外れにある印刷所の二階。


 尾崎秀実は小さなランプの下で紙に数字を並べた。北進論の動向。関係した高官の名前。陸軍省内の空気。暗号に換える作業は、慣れていても時間がかかる。


 完成した打電文は、翌朝、決まった経路でモスクワへ向かった。


―――


 その打電文が発信された六時間後。丸一ホテルの地下室で、麻子がヘッドフォンを外した。


「出ました。今夜は少し長かった」


「内容が多かったんでしょう。政府の会合があった日ですから」


「SSSに回しますか」


「すぐに。急ぎで頼む」


―――


 翌朝。SSS分析室。室長の小田が受け取り読み始めて、眉が動いた。


「全文か」


「全文です。欠損なし」


「パターンが変わっていませんでした。前回と同じ鍵の系列です。ソ連側が変えていない」


 北進論の高官の名前が具体的に入っている。陸軍省の課長名まで。


「ここまで詳しいのか」


「政府中枢に食い込んでいます」



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