旅順の数字(1917年冬)
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一九一七年、冬。御学問所、私室。
まだ声変わりも済んでいない知仁が、万年筆を手に取った。
「今日、学校で、日露戦争を習った。乃木大将の旅順攻略——教科書には、輝かしい勝利、としか、書いてなかった」
「教科書には、何が、書かれていなかったと思う?」
「何が、とは」
「数字よ。旅順要塞への総攻撃——あれで、日本軍が失った兵の数、聞いたことはある?」
「たくさん、とは、聞いた」
「六万を、超えるわ」
知仁は、しばらく、黙っていた。
「六万……」
「戦死・戦傷、合わせて。要塞一つを落とすために、それだけの若者が、命を落とすか、身体を損なった」
「勝ったのに、か」
「勝ったのに、よ。正面から、堅固な要塞に、兵をぶつけ続けた。もっと時間をかけて包囲を締め上げる方法もあったはずよ。でも、選ばれたのは、正面からの、力押しだった」
「なぜだ」
「早く、結果が欲しかったから。それと——正面から力でねじ伏せる方が、格好が良かったから、というのも、あるかもしれないわね」
―――
知仁は、しばらく、何も言わなかった。
「儂は……儂は、そんな風にはなりたくない。格好つけて、犠牲を払って、それを、勝利と呼ぶような」
「それなら、知仁は、これから、たくさん、考えていくといいわ。犠牲を払わずに、目的を果たす方法を」
「そんなことが、できるのか」
「簡単では、ないでしょうね。でも、不可能でもないと思う。急いで正面からぶつからなくても——待って、囲んで、相手が自分から動けなくなるのを、待つという道もある」
「動かない、という道か」
「そう。動かないことにも、力があるの。それを、これから、知仁は、学んでいくといいわ」




