噂・次の盤面(1939年秋)
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竹中は麻子に言った。
「噂を流してくれ。ノモンハンでのソ連軍の敗北は、旧帝政派のサボタージュが原因だという噂だ」
「……それ、事実ですか」
「事実かどうかは関係ない。スターリンには都合のいい話だ。粛清の口実が欲しい時に、ちょうどいい敵が現れる。粛清が加速すれば、ソ連軍の指揮能力がさらに低下する」
みほが言った。
「『日本が助けてくれた』という認識が生まれる。玉葱のようにむいてもむいても疑惑は残る、いや膨れ上がる……いかにも室長らしいですね」
「恩義を感じた相手は、自然に動く」
「……竹中室長、本当に悪魔ですね」
「竹田に言われ慣れている」
「噂は複数のルートから流せ。どこから出たかわからないように。日本が関与したという証拠を残すな」
麻子が出て行った後、みほが言った。
「将来、旧帝政派とのコネクションが育てば……」
「ロマノフ帝国の話に繋がる。まだ先の話だ。でも種を蒔いておく」
―――
竹田が言った。
「次はどこに向かいますか」
「ヨーロッパだ。ドイツが動く。フランスが揺れる。イギリスが苦しくなる」
「日本は」
「静かにしている。その間に、盤面が変わる」
「……竹中、お前は今、何手先を見ている」
「それが見えたら、苦労はせん」
竹中は答えなかった。ただ窓の外を見ていた。空が、少しずつ暗くなっていた。




