蠢く軍(1938年6月)
関東軍が再び蠢き出した。それは地獄への門を開く蠢きだった。
戦線の非拡大の通達をいつも通りに無視して、戦線の拡大を画策した。
SSSの幹部とPL1からの報告でJCSが緊急に会議を開き、天帝の最終決断を拝承した。
天帝が直接命じる。それが何を意味するか、家臣なら誰でもわかった。
参謀長が静かに言った。
「……伝達する」
知仁の命はJCSを通じて陸軍司令部から関東軍司令部に送られた。
数日後、竹中は竹田に言った。
「次は国民だ」
「ラジオですか」
「ああ。ただし……詳細は言わない。方向だけ示す」
赤いランプが点いた。
「朕である」
知仁の声が、日本中に流れた。
「武漢まで戦った将兵の労苦を、朕は深く認識している」
間があった。
「しかし朕は思う。莫大な戦費を血税として国が使うのは、本意ではない。植民地より貿易で国を育てていきたいと思う。明治維新にはなかった満州も手に入れ、好景気になっているんじゃないか。それで十分ではないか」
「朕はこれからも、この国の行く末を共に考えたい。朕を信じてくれる者は、共に歩んでくれ」
赤いランプが消えた。
放送室の外で、竹田が壁にもたれていた。みほが隣に立っていた。
「……上手いですね」
「何が」
「止めたとは言わない。でも止まる」
「軍人のプライドを守りながら、方向を変える」
「そうです。『血税』という言葉と『好景気』という言葉が同時に出てくる。国民は計算できる」
「竹中中佐の台本ですか」
「半分はそうだ。あとの半分は陛下ご自身の言葉だ」
みほはそれを聞いて、少し黙った。




