対戦車自走砲の開発(1938年末)
1 FN社の技術者が満州に着任して三ヶ月が過ぎた頃、麻子が珍しく興奮した様子で入ってきた。
「竹中室長、見てください」
手に図面を持っていた。
「何だ」
「チイ改です。古い八九式の車体にエリコン37mmを載せました」
竹中は図面を見た。オープントップだった。装甲は薄い。しかし砲は確かだった。
「FN社の連中が手伝ってくれたんですか」
「弾薬の専門家が砲の選定を。設計は工廠の人間と一緒に」
「装甲が薄いな」
「薄いですよ。でも考えてみてください、こんな短時間で戦車戦ができる車体が出来るはずないでしょう? 自走砲です。車体に砲を積んだだけ。しかも対空にも使える速射砲です。正面から打ち負かすんじゃなく、弱い所に当てて擱座を狙う兵器です」
麻子は別の図面を広げた。
「野砲のようなものが走り回れるんですよ。10両あれば、敵の戦車一個大隊を一時間止められます。20両あれば、背後の補給線を切れます」
「数字の根拠は」
「ノモンハンの演習データと、ソ連車の行動パターンを分析しました」
みほが言った。
「ソ連軍は現場の臨機応変さに欠けます。指揮官が止まると、部隊全体が止まる。その間にあの自走砲が後続を撃破するのです」
「古い車体はどこから調達する」
「関東軍の倉庫に使われていない八九式が相当数あります。整備すれば動きます」
「費用は」
「新造の十分の一以下です」
竹中は頷いた。
「作れ。ただし……20両作ったら止まれ。まず使ってみてから、次を考える」
「……『質より量』じゃないんですか」
「量は後でいくらでも作れる。最初は使えるものを確かめる」




