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知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第7章 束の間の平安
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山本五十六への工作(1938年末)

 竹中はある夜、麻子に書類を渡した。


「読んでくれ」


 麻子はしばらく読んで、顔を上げた。


「……山本五十六中将ですか」


「そうだ」


「直接接触するんですか」


「しない」


「間接的に、ということですか」


「海軍内のシンクタンク協力者を通じて、情報を届ける。竹中が関与したという痕跡を残さない」


「どんな情報を届けるんですか」


 竹中は椅子に座った。


「三段階だ。まず——機動部隊の脆弱性。空母が集中しすぎると、一点を叩かれた時の損害が壊滅的になる。攻撃力は強いが、脆い。それをアメリカに気づかせるのは、できるだけ遅い方がいい」


「次は」


「アメリカの大量生産能力。工場の数、鉄鋼生産量、石油備蓄。数字で見せる。自動車の台数もだ」


「最後は」


「そこまで届けば、山本自身が結論を出す。『対ソ抑止の道具として戦艦中心で艦隊を整備していると思わせ、裏で空母機動部隊も整備する』という結論を」


 みほが言った。


「自分で気づいた、と思わせる設計ですね。でもよく空母運用の裏まで分かったものですね」


「自分で解いたとは言いたいが……ある御方と話していて、気づかされた」


「人間は自分で考えた結論を、最も強く信じる」


 麻子が言った。


「山本中将をGF司令長官にしないためですか」


 竹中は少し間を置いた。


「GF司令長官になれば、黒島や神という強硬派が側近につく。そうなると……山本自身の判断より、側近の判断が優先される場面が出てくる」

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