無線改良・麻子の名誉
麻子が大きな書類を抱えて飛び込んできた。
「竹中室長、無線機の件です」
「何があった」
「ノモンハンの演習報告を見ていたら……日本軍の無線機、あまりにも貧弱すぎます。大きい。重い。台数が少ない。将校クラスしか持てない。しかも壊れやすく感度も悪い」
「わかっている」
「わかっているなら何とかしてください」
竹中はしばらく麻子を見た。
「何とかしたい。具体的な改善案を出してくれ。最大ランドセル大でな」
「……私に出せるんですか」
「流体力学と統計が得意なんだろう。回路の小型化は流体力学と似た問題だ」
麻子はしばらく黙った。
「……確かに似てますね」
「FN社の技術者も来る。一緒に考えてくれ」
麻子は書類を抱え直した。
「やります。でも……」
「でも?」
「成果が出たら、名前を出してもらえますか。私の名前を」
竹中はわずかに笑った。
「約束する」
数ヶ月後、改良型の試作無線機が完成した。麻子が得意げに持ってきた。
「見てください。三分の一の重さです。信頼性も二倍以上」
竹田が手に取った。
「……軽いな」
「これなら歩兵分隊レベルまで配備できます。OODAループが劇的に改善します」
みほが言った。
「麻子さん、本当にすごいですね」
「当然です。私はケンブリッジの博士ですから」
竹田が溜息をついた。
「謙虚さを学ぶ機会はなかったのか」
「これがイギリス流の淑女の作法です、お気に召しません?」




