FN社・技術者招聘(1937〜1938年)
みほが加わった頃から、SSS司令部の仕事の幅が急に広がった。
竹中が報告書の一枚を手に取った。
「FN社の件、進んでいるか」
「はい。ベルギーのFN社からユダヤ系の技術者が三名、接触してきています。ドイツの圧力が強まっていて……逃げ場を探しているようです」
「どんな専門だ」
「銃器設計が二名。弾薬の専門家が一名です」
「身元は」
「調査済みです。全員白です」
「動機は」
「安全。それだけです」
みほが言った。
「安全だけではないと思います」
竹中はみほを見た。
「優秀な技術者なら仕事を続けたい、という欲求もある。ドイツの下では自由に研究できない。日本なら……という期待もあると思います」
「それを使う。安全と研究の自由を保証すれば、こちらに向かって動きます」
竹中は頷いた。
「家族も連れてくる条件で交渉しろ。満州に居住地を用意する」
河豚計画の話が出たのは、その翌週だった。竹田が報告を持ってきた。
「ハルビンのユダヤ人コミュニティから、非公式な打診が来ています。満州での居住地の保護と、日本国内での活動の自由を求めています」
「人数は相当多いですよ。数万人単位になる可能性があります」
竹中は地図を見た。
「利用するためではない」
「……どういう意味ですか」
「共に生きる、というのでは駄目か。利用という発想では長続きしない」
みほが頷いた。
「心理的にも正しい選択です。保護される側が『使われている』と感じた瞬間、関係が壊れます」
「安江と樋口に動いてもらう。彼らは本物だ」
竹中は書類を閉じた。
「ユダヤ人のネットワークは情報・金融・科学技術、全てに繋がっている。将来的には……アメリカのユダヤ系コミュニティとの橋渡しにもなる」




