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知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第7章 束の間の平安
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岸信介・工作(1936年)

 この接触と並行して、竹中は、もう一人の人物にも、目を向けていた。


「岸信介、という男は」


「今年の十月、満州国実業部総務司長として着任する予定です。関東軍・東条との関係が、まだ固まっていない、空白の時期があります」


「その空白を、突く」


「実業部の実務ポストへの評価という形で、こちらから、静かに近づかせていただきます。JCS経由の情報提供者として」


「本人には」


「あくまで、有能な官僚として国策の中枢に食い込んだ、としか、認識させません」


 竹中は、頷いた。


「利用するにしても、隠し立てはするな。ただ、全部を明かす必要もない」


「承知しております」


 翌年、満州重工業開発が正式に発足する頃には、資本構成に、東京の関与枠が、すでに組み込まれていた。


 関東軍は、満州経済の後見人という座を、竹中・JCS側と、実質的に共有せざるを得なくなっていた。


 河豚計画の資金・人脈基盤も、この鮎川ルートを通じて、当初の想定より、二年ほど前倒しで整い始めていた。


「二キ三スケ、という呼び名は、そのまま残るだろうな」


 竹中は、報告書を閉じながら、呟いた。


「ですが、東京から完全に独立した集団では、もう、なくなりました」


 麻子が、静かに答えた。


「静かに、切り崩す。それだけのことだ。それが俺たちの仕事だ」

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