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知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第6章 組織拡大
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今村勤・信頼関係(1937〜1938年)

「竹田少佐と麻子博士が来た時から、何かあると思っていました」


 竹中はニヤリとした。


「気づいていたか」


「気づかない方がおかしい」


「なぜ逃げなかった」


 今村は少し間を置いた。


「逃げる理由がないからです」


 竹中は今村を見た。真っ直ぐな目だった。しかし硬くない。


「一つ聞いていいか」


「関東軍の参謀たちをどう見ている」


 今村はしばらく黙った。


「優秀です。しかし、遠くが見えていない」


「遠く、とは」


「十年後の日本が、どうなるかということです」


 竹中は頷いた。


「それだけでいい」


「……それだけですか」


「今日はそれだけだ。また会いたい」


 今村はしばらく竹中の後ろ姿を見ていた。


(何者だ、この男は)


 それから二年間、竹中と今村は定期的に会った。料亭で。時に居酒屋で。時に皇居近くの公園のベンチで。


 竹中は今村に教えた。世界の動き。列強の思惑。日本が向かうべき方向。


 今村は黙って聞いた。時に反論した。竹中はその反論を、むしろ喜んだ。


「なぜ反論する」


「間違っていると思ったからです」


「どこが間違っている」


「ソ連の工業生産能力を過小評価しています。ウラル以東の潜在力を考えれば……」


 竹中は黙って聞いた。今村の言う通りだった。


「訂正します。ありがとう」


 今村は少し驚いた。佐官以上になると自分の意見に固執するか、無理に賛同させようとする者ばかりだった。竹中が素直に訂正するとは思っていなかった。


(何者だ、この男は)

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