放送室・その後(1936年晩秋)
放送設備が稼働して一ヶ月が過ぎた。
竹中は時折、放送室の隣の小部屋から職員の動きを見ていた。NHKから来た技術職員が二名。親衛隊から訓練を受けた要員が三名。交代で詰めている。
機材の扱い方。交代の時の引き継ぎ。緊急時の手順の確認。誰が最初に動くか。誰が迷うか。誰が落ち着いているか。
一週間観察した後、竹中はメモを一枚書いて麻子に渡した。
「分析してくれ」
「……これ、人物評価ですか」
「そうだ。緊急時に一番信頼できるのは誰かという」
麻子はしばらくメモを見ていた。
「……三番の者ですね」
「なぜだ」
「他の四人は何かあった時、まず周囲を見ます。三番の者だけ、まず機材を見ます」
竹中はニヤリとした。
「正解だ」
「……竹中中佐はとっくに答えを出していたんですね」
「確認したかった」
「私が外れていたら?」
「もう少し鍛える」
麻子は深い溜息をつきながら、一言。
「どうせそうでしょうよ」
その夜、竹中は放送室に一人で入った。マイクの前に立った。スイッチは入れない。ただそこに立って、考えた。
JCS。SSS。外事特務課。放送設備。
盤面は整いつつある。しかし盤面を整えることと、盤面を動かすことは別だ。
次の夜、懐の中で、細い筒が温かかった。
(今の盤面を整理してくれ)
トトはしばらく黙っていた。
(すごく原始的……でも私が言う部品を付けたら、完全に乗っ取れると思う。クレムリンの暗号も、英米独仏のものも、すぐに解けるようになるはず。パターン解析に一週間もあれば)
(実際のところ、私とトモーだけの秘密にしておいた方がいいかもしれない」)
(そうだな)
(次に必要なのは……人だね。各地の現場で、信用おける人で竹中の設計通りに動ける人。関東軍も含めて)
(TOTOから見て、今の関東軍で信頼できる者はいるか)
(……情報が少ない。もう少し調べてからの方がいい)
(わかった)
知仁は放送室を出た。




