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放送設備(1936年初秋)
NHKから技術者が三名来た。
全員の身元は事前に外事特務課が調査済みだった。三名とも何も知らなかった。ただ「皇居内に放送設備を設置する」という仕事を受けただけだった。
設置場所は皇居の一室。窓のない部屋だった。
三名は黙々と作業した。竹田が横で見ていた。
三日後、設備が完成した。技術者たちは帰り際、竹田に聞いた。
「この部屋、何に使うんですか」
「緊急放送用です」
「なるほど」
それだけだった。
技術者たちが去った後、竹田は部屋を見渡した。
マイク。送信機。NHKへの専用回線。
シンプルだった。しかし確実に機能する。
その夜、竹中が部屋を見に来た。マイクの前に立って、しばらく黙っていた。
「感慨深いですか」
「いや。これはただの道具だ。使う時が来た時に、使えればいい」
「使う時、というのは」
「また誰かが『天命だ』と言い出す時だ」
竹田は少し間を置いた。
「……また来ますかね」
「必ず来る」
竹中は部屋を出た。
廊下を歩きながら、竹田は思った。
(この男は、まだ見えていないものが見えている)
そしてそれが、腹立たしいほど正しいのだということも。




