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知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第4章「動き出す歯車」
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外事特務課と麻子(1936年夏)

 同じ頃、竹中はもう一つの外堀を埋めていた。


 宇垣総理を通じて、内閣府に「外事特務課」を設置させた。


 表向きの役割は『対外情報の収集・分析』。公的な予算がつき、正規の人員が配備された。


 だが、その実態は『SSS』の表の顔であり、実質的には外務省の上位に位置する情報機関だった。


 無論、外務省は何も知らない。自分たちが日本外交の主役を担っていると盲信していた。


 SSSの設計図において、外務省は「対外宣伝機関」に過ぎなかった。外務省に嘘はついていない。ただ、全体の設計を教えていないだけだった。


「よくもまあ、これだけの二重構造を考えつきますね」


 竹田が、執務室の窓際で肩をすくめた。


「表があれば、裏の陰は見えにくくなる」


 竹中が応じたそこへ、新たに分析官として加わった前田麻子が通りかかった。


「お邪魔していいですか?」


 竹田が悪戯っぽく笑う。


「麻子だ。夏になっても、絡み酒の癖は抜けてないみたいだぞ」


「その話は、もう、勘弁してください」


「その才媛が英国風のパブで『女だてらにと、誰も私を理解してくれない』くだを巻いていたのは、一体どこの誰だったかな」


「うははは……それは良い。飲み屋で拾ってきた猫そのものだな」


 竹中が、珍しく声を上げて笑った。


「もう、結構です」


 麻子は小さく溜息をつき、表情をプロのそれに切り替えた。


「……話を戻します。SSSの現実の動向についてお聞きしたいのですが」


「SSS? そんなもの、この国にあったか?」


「さあな。記憶にない」


 麻子は一瞬呆気に取られたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「――そうでした。私も、そのような組織は聞いたこともありません」


「それでいい。何かあれば、すべて外事特務課がやったことになる。外務省は、自分たちが主役のつもりで踊り続ければいい」


「……外務省が気づいたら?」


「その時は、竹田少佐と麻子君の二人で、平身低頭土下座でも何でもして謝り倒してもらう。まあ、そうならないように、うまく『蛇』の手綱を握ることだな」


 竹中は例の悪い顔を浮かべたまま、静かに部屋を去っていった。

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