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知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第4章「動き出す歯車」
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09:00 (宇垣邸・JCS根回し)

 宇垣一成は客間で待っていた。


 呼ばれた理由は聞いていなかった。ただ「至急」とだけあった。


 竹中が入ってきた。スーツ姿だった。宇垣はわずかに眉を動かした。軍服ではないその姿に、一瞬の驚きを覚えた。


「単刀直入に申し上げます」


「うむ」


「陸海軍を統括する、統合参謀機構の設立を――閣下の手で提唱していただきたいのです」


 客間に重い沈黙が降りた。


「それは……陛下のお考えか」


「陛下も『良いかもしれないな』と、お言葉を漏らされております」


「あのような事態を二度としでかすようでは、私としても陛下に腹をかっさばいても立つ瀬がありません。少しでも風通しが良くなれば、やらぬよりはマシかと」


 宇垣は深く腕を組んだ。


「わしのアイデアとして、か」


「はい。閣下が提唱される形が、この国において最も自然です」


 宇垣は目を閉じ、思案を巡らせた。長年、軍と政治の修羅場を生きてきた男だ。目の前で静かに微笑むこの男が、一体何者であるかも、朧げながら見えてきた。


「……わかった。やってみよう」


 その後数日、宇垣が動いた。一人ひとりの大臣を精力的に訪ね、同じ言葉を繰り返した。


「あのような事態を、二度としでかさぬために……」


「陛下も『良いかもしれないな』と、お言葉を漏らされている」


 その一言の持つ質量は、あまりにも巨大だった。表立って抵抗できる者など皆無だった。


 竹中は執務室で、その推移を冷徹に見守っていた。外堀が埋まるにつれ、軍部と財界を結ぶ不穏なパイプが、泥の中からじわじわと浮き彫りになっていく。


「竹中中佐、悪い顔をしてますよ」


 竹田が、書類を整理しながらボソッと言った。


「そうか。貴様にそう見えるぐらいだから、相当なんだろうな」


「個人的にはその悪い顔、そのまま出してもらった方が、俺たちも仕事がしやすいですよ」


「そうか、考えておく」


 竹中は珈琲を口に含み、再び書類へ目を落とした。

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