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知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第3章 竹中と武田(竹馬の友)
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秘密晩餐

 連れて行かれたのは、表向きは宿舎の一室だった。


 しかし扉を開けると、思いのほか広い空間が広がっていた。須知が静かに給仕をこなしている。


 知仁と竹中、二人だけの晩餐だった。


 竹中の背筋に少しの緊張が走ったが、そのポーカーフェイスが崩れることはなかった。


「楽にしてくれ」


 知仁が卓を挟んで促す。


「飯を食いながら話そう」


 しばらく、二人は無言で箸を動かした。


 沈黙を破ったのは、知仁の方だった。


「今日の演習、駆逐艦を最後まで温存したのはなぜだ」


「切り札は最後まで隠すためです」


「最初から使えばもっと早く勝てたかもしれない」


「最初に使えば、相手に対応策を考える時間を与えます。最後に使えば、相手はもう動けない」


 知仁は箸を置き、少しの間を置いた。


「兵站側を切ることを、最初から考えていたのか」


「戦わずに勝てるなら、それに越したことはありません。戦えば必ず消耗する。問題は、消耗した状態で迎える『次の戦い』です」


 知仁はまた黙った。今度は少し長かった。


「一つ指摘していいか」


「はい」


「お前の作戦は、緻密すぎる」


 竹中の眉がわずかに動いた。それが称賛の言葉ではないと、瞬時に察したからだ。


「……と、おっしゃいますと」


「一本の糸が狂えば、すべてが瓦解する。もっと、冗長性が必要だ」


 竹中は言葉を失った。


 冗長性。その単語が、彼の脳細胞に深く突き刺さる。


(そうか。俺は美しく組み立てることに満足していた。だが、現実は想定通りには動かない。外れた時、そこに代替案はあるか。逃げ道はあるか。それが、冗長性か)


「……今まで考えたことがありませんでした」


「そうだろう。強い作戦より、崩れない作戦の方が長く勝てる」


 竹中は頭を下げた。深く、静かに。今まで生きてきて、誰からも受けたことのない強烈な衝撃が、胸の奥で暴れていた。


 帰り際、知仁が言った。


「また話したい。次に上京する時、連絡してくれ」


 竹中は一礼し、部屋を後にした。


 廊下を歩きながら、竹中は考えていた。


 この人は何者だ。ただの皇太子ではない。自分の見えていない、世界の先が見えている。


 虚無と野心を孕んだ彼の双眸が、決定的に色を変えた夜だった。

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