卒業祝賀会・運命の出会い
祝賀会の広間は、軍服と礼服で埋まっていた。
皇太子臨席。士官たちは緊張と高揚の入り混じった顔で、酒を酌み交わしている。
その喧騒の中、竹中だけが一人、あらぬ方向を見ていた。
窓の外の海には、日本海海戦を戦い抜いた艦艇の一部が静かに遊弋している。
だが、竹中は海を見てはいなかった。頭の中で、別の数字を弾いていた。
『兵站』だ。
海軍における兵站の考え方が、どうしても引っかかっていた。
知仁は、広間の喧騒を静かに見渡していた。
(トト)
(うん)
(何か気になるものはあるか)
(……あの人。窓の方にいる人。でも外の海を見てない。普通じゃない。あなたと私が探している、羅針盤に近い気がする)
知仁は視線を静かに動かした。
確かに窓の外に顔を向けている。だが、その目はどこか別の、遠い場所を見つめていた。周囲の誰とも違う、孤立した色を孕んだ顔だ。
(・・・会ってみる)
竹中が侍従に声をかけられたのは、その十分後だった。
竹中の背筋が一瞬にして凍りついた。
別室に通された。知仁が椅子に座り、その背後に須知が影のように佇立している。
「楽にしてくれ」
「さっき、何を考えていた」
「兵站の計算です」
「祝賀会の最中に?」
「引っかかっていたので」
知仁は少し目を細めた。
「どこが引っかかっていた」
竹中は淀みなく答えた。具体的な数字を出し、その誤差の根拠を説明した。
知仁は黙って聞いた。すべてを聞き終えた後も、長い沈黙が部屋を支配した。
「明日、図上演習に参加してくれないか」
「……はっ、ですが……」
「余が、直々に頼んでいる」
竹中はもう一度、深く礼をした。
(もう、詰んでいる)
部屋を出た後、竹中は人気のない廊下でしばらく立ち尽くしていた。
(何が起きた)
自身の優秀な脳細胞を以てしても、その答えだけは、どうしても弾き出せなかった。




