竹田、そして海軍兵学校へ
竹田の家は貧しかった。
竹中はある時、そのことに気づいた。
気づいたが、何も言わなかった。
竹田も何も言わなかった。
ただ竹中は、父に頼んだ。
「竹田んちに、仕事を回してやってくれないか」
父は不思議そうな顔をした。しかし断らなかった。
竹田はそれを知っていたかもしれない。
知っていたとしても、何も言わなかった。
竹中も何も言わなかった。
それでよかった。
そういう関係だった。
ある夕方、竹中は親に言った。
「兵学校に行く」
親は黙っていた。親も竹中が自分の言う事は聞かないと知っていた。
竹中も黙って親の前で一礼していた。それから親は竹中の背中を抱き、いっしょにこたつに入るように誘導した。
いっしょにミカンを頬張りながら、しばらくの沈黙の後、
「なんで」
「この町にいたくない」
「うん、そうか」
それだけだった。
親はその日から、兵学校の資料を集めだした。
竹中は日本の先への危機をうっすら感じていた。世界史上、動かない時はない。全ての国が何らかの形で動いている。その蠢きに日本だけが飲み込まれないはずはなかった。
何か自分が全力で打ち込めて、自分の中のエネルギーを昇華できるもの。それを探してもがいていた。
親に言った翌週、竹田が言った。
「俺も行く」
竹中は驚かなかった。
「金はあるか」
「ない」
「そうか」
竹中は父に頼んだ。父はまた不思議そうな顔をした。しかし断らなかった。
竹田は受験した。必死に食らいついた。合格した。
その日、二人は何も言わなかった。
ただ並んで歩いた。




