↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知識は最も重い荷物でも前に進む  作者: 秋月 筑摩
第3章 竹中と武田(竹馬の友)
PR
17/78

ある路地裏(明治の終わり頃)

 竹中は子供の頃から、周囲と少しずれていた。


 家は裕福だった。関西近郊の旧家で、土蔵が二つある屋敷に住んでいた。


 しかし竹中には、それが重かった。


 本来、竹中は次男だった。長男として生まれた兄が幼くして逝き、竹中が急遽「長男」の役割を担わされた。家の跡継ぎ。御庭番の家系の継承者。


 誰も竹中に聞かなかった。


「お前はどうしたいか」と。


 竹中はそのことを、さほど口にしなかった。口にしても、誰にも届かないことを、幼い頃から知っていたからだ。


 その代わり、竹中は読んだ。


 戦記を読んだ。空想科学小説を読んだ。家の蔵の奥に積まれていた古い書物も読んだ。


 そして考えた。


 人はなぜ動くのか。組織はなぜ腐るのか。勝敗はどこで決まるのか。


 周囲には見えていないことが、竹中には見えた。


 しかし見えていても、言わなかった。


 言っても、誰も理解しなかった。


「変なやつ」と言われた。


 竹中はそれ以来、口をつぐんだ。


 見えていても、言わない。


 それが癖になった。


 竹中にとって竹田のもの言わぬ関係が気持ちよかった。一応近所では「竹中半兵衛」の末裔で裕福ということで、擦り寄ってくる人も多かった。その目は何だか濁っていて、物欲しげに見える。そんな大人もそう感じる自分もイヤだった。


 そんな時ひょっこり、竹田に会った。転んだようで少し血を流してた。自分の持っていた手拭いを差し出してやった。どうせおべっかの丁重な応えが返ってくると思っていた。


 無言だった。だが目は曇ってなかった。自分と同じ匂いを感じた。虚無と野心の目をしてた。


(何故そう思ったのか、今でもわからない。でもそう思った)


 竹中は手拭いを受け取って、また歩き始めた。


 翌日も、その翌日も、なぜか同じ路地で顔を合わせた。


 どちらも何も言わなかった。


 ただそこにいた。


 それがいつの間にか、当たり前になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。