09:00(NHKラジオ放送室)
天帝、動き出す。
午前九時
宇垣一成の声が、日本中に流れた。
「私は天帝より拝命された臨時総理の宇垣一成だ。反乱部隊に告ぐ。これは勅命に反する行為である。直ちに原隊に復帰せよ。繰り返す。直ちに原隊に復帰せよ」
静かな声だった。しかし重かった。
各地の兵舎で、将兵たちがラジオの前に集まっていた。
街の人々が立ち止まって聞いた。
反乱軍の中でも、動揺が走った。
しかし動かない者がいた。
「天命」を信じる者たちは、動かなかった。
皇居、午前十時
須知が部屋に入ってきた。
「宇垣閣下の放送の後も、まだ一部の部隊が……」
知仁は既に立っていた。
「わかった」
是清が静かに言った。
「陛下、本当によろしいのですか」
知仁は是清を見た。
「是清。朕が黙っていることで、一人でも多く死ぬなら、朕が語る」
是清は何も言えなかった。
須知が扉を開けた。
NHK放送室に、知仁が入ってきた。
スタッフが固まった。誰も動けなかった。
天帝が、ここにいる。
知仁はマイクの前に立った。静かに、しかし真っ直ぐに。
赤いランプが点いた。
「朕である」
その一言で、日本中が静止した。
「朕は今、この場所から直接語りかける。これまではしなかったことだ。しかしこれほどの事態において、朕が黙っていることは朕には出来ない。それ程の事を君等はやらかせたのだ」
間があった。
「決起した将兵に告ぐ。汝らの憂国の心、朕は受け取った。しかし朕は、汝らのその行動を認めない。朕が認めない行動は、天命ではない。朕の言葉を聞け。銃を置け。原隊に戻れ。これが朕の命である」
また間があった。
「朕はこれからも、この国のために直接語りかける。朕を信じてくれる者は、共に歩んでくれ」
赤いランプが消えた。
放送室が、しばらく静寂に包まれた。




