69.冥婚の儀③
その後は意気揚々と正面から凱旋しました。
まあ、抵抗しようにも、頭上高くに縦横無尽にシルヴィナ様のお身体が張り巡らされています。
その気になったら、雷鳴で王都が焼け落ちるか、その巨躯が落ちて、プチッてされます。
エヴァンス様曰く、これでも力の半分も出していないそうです。完全版はもっと大きいし、単なる威嚇だと。
まあ、真なる魔王が大陸の4分の1のサイズなので、シルヴィナ様の本体もその位大きいでしょうね。
ついでにエヴァンス様が蹴りで教会本部をぶっ壊したので、皆さん戦意喪失です。
シルヴィナ様は夢の橋を架ける関係上、暫くは動けないようです。
王都の皆さんは教会で見た神の遣いが現れた事でざわざわしています。
そして、砂塵と化した教会本部跡地でエヴァンス様は言います。
「さて、聖女諸君。…一夜限りの結婚式場を作って貰うぞ。今日中に造れ」
はい、僕たち聖女500人はエルル第二王女の為に今日中に会場を作るのです。
一夜漬けで教会に代わる会場を。
はい、500人です。事前に王都に移送方陣を展開して全員招集済みです。
一夜限りの聖堂…お城でしょうか?
義兄としての義妹への溺愛っぷりが半端ないです。
あと、やはり根っこがドSです。
聖女全員招集に関しては、その為にバーンベルク侯爵のタウンハウスや派閥の貴族方の屋敷、更には空の宿を手配して、屋敷や宿に張った移送方陣から聖女の方々を転送しています。
なので、王都を封鎖しても意味無いんですよね。移送方陣で聖女の皆さんや当日の服や日用品など手配していますから。
素材は聖女の守護結界なので、完成形はクリスタルのお城みたいです。
僕も魔王として火は出せますので、会場内は神聖な炎の灯りと光の精霊の加護で、キラキラになると思います。
……大体の基本設計は頭に叩き込んできました。
教会跡地を囲む聖女たちに遠隔で指示をするデイジーさんとベアトリス様のお陰で設計のブレもありません。
あと、ベアトリス様は死刑囚の聖女の監視も兼ねているので、看守さんも渋々参加させています。
というか、頭上に神の遣いが居るので、囚人でも無茶は出来ないでしょう。
そういえば、シャルロットは相変わらず姿を見かけません。
フェカーリエン伯爵とトイレの完備に専念しているそうです。
確かに、トイレは大事ですね。
愛ってすごいですね、以前の従姉だとこういう大事だけど不衛生な仕事はしませんでしたのに。
ちなみにトイレから式に参加するそうです。…本人が良いならいいでしょう。
事前に設計のイメージを叩き込んでいたので、サクサクと守護結界と防護障壁のお城は出来ます。後は内装ですね。
ふと、小さいですが上空から声がしました。
見上げると、王城の方角。
エルル王女殿下が侍女の制止を振り切って、シルヴィナ様の体躯に飛び乗ろうとしています。
夢の世界から降り立ったヒルベルテ様を見つけたのでしょう。シルヴィナ様の身体に飛び乗って直ぐに会いに行こうとしています。
ヒルベルテ様もそれに気付いて、途中でシルヴィナ様の上に飛び降りています。
ですが、王女様。少し距離があるし危ないです。
僕はそこそこ動けるのと王女様に近いです。建物に跳躍し、シルヴィナ様のお身体に飛び乗ってお手伝いに向かいました。
「ッ!?…ベルンシュタイン辺境伯夫人?」
取り乱していますが、僕の事を把握しています。頭の回転は凄い王女様です。
「アヌシュカと言いますエルル王女殿下。僕と一緒にヒルベルテ様に会いに行きますか?」
「はいっ」
王城の窓から王女殿下を抱えて再びシルヴィナ様の身体に飛び乗りました。
龍の身体の上です。不安定な足場で王女様には大変だと思いましたが、暫く歩くと僕を追い越す勢いで走っていました。
不意にその姿が消えました。…躓いてこけたようです。
「急いだらいけません。ゆっくり…」
「う…ぅ…、すみません。――ヒルベルテ……」
助け起こして今度は僕と手を繋いでゆっくりヒルベルテ様の元へ向かいます。
――空気が少し揺れました。
ヒルベルテ様が追いついてエルル王女殿下を抱きしめていました。
旦那様もヒルベルテ様の元へ行っていたのか、僕と合流しました。
ヒルベルテ様は声が出ません。…先ほどの声の揺れは、ヒルベルテ様が叫んだものでした。
そして、自身の未来視で自身が死ぬ選択をした事で、気まずそうにしています。
ヒルベルテが口を開かいても声は出ません。彼の唇は微かに震えながらも、言葉にならない何かを形作ろうとしているように見えるのですが。
夢の世界でお会いした時、声なき声でお話をして下さいました。
それでも、王女殿下に話したいことが沢山あるのでしょう。
「……」
小さく息を吸い込み、それでも声は出て来ません。
その頬にエルル王女殿下はそっと触れました。
「ヒルベルテ。…どうぞ、そのまま。貴方が何を語りたいか――—全てわたくしには伝わります。
……わたくし、『心眼』の加護を失いました。もう、心は視えません」
ヒルベルテ様は事前に聞かされていたのでしょう。
苦し気に息を飲みながら、王女の慈愛に満ちた眼差しを見つめました。
「『力不足で、悲しませてゴメン』。…そう思っている?」
ヒルベルテ様はコクリと頷きました。
「強敵との戦いで、最善を尽くした英傑をどうして非難できましょう。貴方は間違っていません。…『君を辛い目に合わせた』。…そう思っている?」
再びヒルベルテ様が頷きました。
「大丈夫。わたくしの二人の母が戦ってくれました。…貴方の選択は正しいわ、ヒルベルテ」
王女殿下の瞳からは、とめどなく涙が流れます。
「わたくしこそ貴方に謝らないといけないわ。貴方が望んでもいないことをしようとした。そして、貴方の夢を叶えてあげられません。
それでも。祝福が無いわたくしでも、貴方が想うことの何もかもが分かります。直接貴方に会って、触れあって、それが分かりました…分かります……。
貴方は昔から、感情が豊かで、直ぐに顔に出ますから」
ヒルベルテは泣きながら微笑み、頬に添えられた王女様手を取りました。
「貴方がわたくしにくれた愛の分だけ、わたくしが…伝えます。
貴方に会えて嬉しい。…どんな形であろうと、貴方と共に居たい。
ヒルベルテ、…わたくしと一緒に居てくださいますか?」
ヒルベルテ様は大きく頷き、王女殿下を強く抱きしめました。
その身体は小刻みに震えていました。
「――やっぱり、貴方の『声』はとても分かりやすいわ」
二人とも笑って、泣いて。
声無き『声』でお互いの愛情を確認しておいででした。




