68.冥婚の儀②
王都には入れないでいます。
何でも、大司教派の聖騎士団が集結して、王都を封鎖しているそうです。
王家直轄の騎士団が解散を命じているのですが、膠着状態…。
「『と、いう風に見せかけていますので、作戦を遂行してください。思いっきりぶちかまして下さい』…王家直轄の騎士団長及び聖騎士団長から連絡が来ている、と」
「本当に大司教は目が曇っているねぇ。調べれば分かる事だろうに」
シルヴィナ様はケラケラと笑います。
…いや、相当な数の仲介入れていますし、パッとは思い浮かばないと思います。
あと、聖騎士団長さんから、遠方からでも怒りの感情が見て取れます。
40半ばの聖騎士団長さんは、『不当な扱いを受けている令息令嬢リスト』で助けられた子供の一人だそうです。
当時、バーンベルク家の『影』で動いていたシルヴィナ様の『騎士』としての佇まいに憧れ、神力もあったことから聖騎士の道に赴いたそうです。
他の方々もシルヴィナ様が教会との繋がりが持ちにくいのを知って、聖騎士として潜り込んだとか。
「…相当、鬱憤が溜まっているようです」
「世話した子らだもの。無理はさせられないから、静観し情報の提供を求めていたのだけどね。…ふむ、溜飲が下がるパフォーマンス位しておくか」
何でも、団長さんや聖騎士の6割は既に掌握しているそうです。
他は大司教派の縁者だそうですが。
教会本部は聖女の威光ばかり気にかけて、聖騎士への予算を相当減らしていたそうです。
まあ、ガニマタ様の護衛騎士も、見るからに見目で選んだ貴族令息でしたしね。
あと、碌な教育指導や予算も無い聖騎士たちに、こっそり鍛錬や、引退した聖騎士を教育係に据えたのがヒルベルテ様とエルル王女殿下だそうです。
王家直轄の騎士団長さんも聖騎士団長さんも、恩人を悉く侮辱されて義憤に駆られた騎士たちの怒りを抑えるのに相当苦労したそうです。
その事もあって、聖騎士団長さん一派は今までの鬱憤晴らしも兼ねて、『冥婚の儀に反対した、王家と教会の小競り合いの茶番』に全面的に協力するそうです。
…大司教を逃がすために。
「主君シュトラゾームの封印は魔王に解けないからね。本人がやる気みたいだし、『悪意無く神の召喚を望む』大司教に解かせる」
その小競り合いの隙に大司教をワザと逃がす算段です。
「それは流石に…」
「利用するなら悪人の方が良いだろう?…我々も人間の味方ではないのだよ、坊や」
王太子殿下の報告では、封印を解けば自身は死ぬと感じたと。
実際、血肉を欲する真なる魔王に捕食され、永劫封印される状態になるでしょう。
「…自然に封印が解除されるのを、待つわけには行かないのですか」
「その時には私は居ない」
「……分かりました」
「あと、教皇の位も復権させる段取りは済ませた。――ローレル司教に着かせる」
「…ッ、それは、流石に」
無体が過ぎます。
ベアトリス様が無意識に掛けた呪いに晒されるのですから。死ねと言っているようなものです。
「本人は承諾した。元より老齢故、呪いで死んだかも判別出来まいよ」
「…」
「んー?反対なら、全力で足掻きなさい。新たな体制を作るのだ、連中が手を拱く事は全て潰す」
「…足掻きます」
「そうしなさい。未来の娘の為にもド派手に行きたいから。…と、言う訳だ。徹底的に馬鹿どもの鼻っ柱をへし折って行くよ」
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王都セレイム、教会本部の天井画。
そこにはオルトスが夢の世界で垣間見た、天界の光景として描かれたものがある。
その光景の象徴的な神の傍らには神の遣いたる白い獣と白銀の龍も描かれている。
――それを拝むことは、もう無いだろう。
聖騎士団副団長は、穢れた魔族であるバーンベルク女侯爵が単身で聖騎士たちの前に現れた事に歓喜した。
所詮は腕を失った女。
此処でこの女を討ち取れば、教会の汚名を雪げる。
そうすればあの武骨な団長を蹴落として聖騎士の地位を確固たるものに出来るのだ。
「――さて、未来の娘の門出だ‼さあ、夢の橋を架けようか‼」
高らかに叫んだ女侯爵の姿は変貌した。
その巨体の全容を人間が把握することは出来なかった。
白銀の龍と化し、その巨躯から生える翼と龍の身体は王都を容易に覆うほど。
――何故、神の遣いが女侯爵に?
バチバチと息を呑む魔力を放つ雷光を帯びた、その尾や翼はあまりに圧巻だった。
聖騎士団長らは無意識に祈りを捧げ、大司教派の者たちはある者は腰を抜かし、ある者は逃げ惑った。
教会の天井画を知るものは、それが神の遣いだと認識し無意識に王都を覆うその龍に祈りを捧げる。
王城も事情を知る一部の者は、知っていたとしてもこれ程強大な存在だったのかと呆然としていた。
龍の眼がエルル王女殿下を捉えると、パチリとウインクした。
茶目っ気のある行動でそれが義母だとエルルは察した。
龍の口に圧縮された雷が天を穿つ。かの天井画で何度も見た、天界の情景が王都上空に垣間見える。
そこから神聖な炎を纏う白い神獣が天使に誘導されて降り立ってくる。
ちなみにヒルベルテが白い神獣と化したエレシュカに乗って降りていくも、位が上がったとはいえ新米『君主』。
何百年もの経験ある先代諸侯王『侯爵』の背中に乗ることに若干緊張していた。
(有り得ない、あり得ない!そうだまやかしだそうに違いない)
誘導している天使はいたずら好きの『中立派』の魔女たちの変身なので、一部は在ってはいる。
「穢れた魔族だ!殺せ!」
そう叫ぶも、大司教派も混乱を極めた。
何度も見た天井画の神の遣いそのもの故、戦意を喪失する者が続出した。
それでも剣を抜き白銀の巨大な龍に掛かって行く少数の聖騎士。
その者たちに立ちふさがるのは――オルトス・ベルンシュタイン辺境伯。
彼が抵抗する聖騎士をたちまちに鎮圧する。
それを尻目にエヴァンス・バーンベルク小侯爵がスタスタと歩み、目星をつけたようにピタリと止まった。
女侯爵と違って帯剣もしていない彼は、無言で片足を天高く上げ――
それを思いっきり大地に叩きつける。
轟音と共に大地は陥没し衝撃波が城壁を粉砕する。
エヴァンスの蹴りで断裂し、衝撃で滑落しかける騎士たちは白銀の龍の尾が受け止める。
オルトスは攻撃の予測が出来たので回避したが、やる事が凄まじい。
というか、王都を三人…否、ほぼシルヴィナ一人で制圧してしまった。
事前にその攻撃範囲内にある地域の住民は避難済みかつ一部の建築物以外は防護障壁で守られているとはいえ、一切容赦がない。
ちなみにエヴァンスの蹴りの衝撃波は城壁を粉砕し教会本部に向かい――
生まれた命の祝福の場、祝福を判定する洗礼の場、結婚式の場でもある、その厳かな建築物だけが砂塵と化した。
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中に残っていた者たちは、自身の信仰の象徴たる教会の建築物が文字通りの砂上の楼閣になった事に唖然としています。
振り落ちる砂塵はシルヴィナ様が旋風を起こし全て吹き飛ばしていますが。
「事前に重要な書庫などには結界を張ったが…、掘り起こすのが大変だな、アレ」
ヴィルヘルム様はそうぼやきます。
元々、教会で式を挙げさせるつもりは無かったそうです。
というか、ヒルベルテ様を散々侮辱し、エルル第二王女にとっても辛い場所なので、思いっきり破壊する気だったと。
「…ヒルベルテを塵にした、意趣返しだろうな」
旦那様はそう呟きます。
母を護ろうと繰り出した息子のかかと落としで、教会は砂塵になった。
これはもう、後世の笑いの種でしょう。
「デイジー殿の鏡の精霊の加護は凄いな。騒動に気付いて大司教と偽の聖女マリエラを逃がしているのまで視える」
「?どうして牢屋まで『目』が行き届いているのですか?」
「昔、捕まって入ったんですよ。いやー、経験が生きるとは、入り甲斐があるものですねぇ」
「……デイジーさんの自叙伝が出たら、買ってみたいです」
「えっ!?売れますかね!?」
ちなみに大司教たち、巻物の移送方陣で逃げていますね。
まあ、本来はシルヴィナ様が逃げ道を潰しているので、発動しないんですけどね。王都をご本人が囲っているので。
行先をシルヴィナ様ご本人が指定しているので発動しただけで、手の内なのですが。
あと、視認できるのと精霊の加護の射程内なので防護障壁も張りやすいそうです。
「彼等の逃走先も分かります。どうします?追いましょうか?」
「心配せずとも、聖騎士団長の息の掛かったものが追跡している。…目的地まで誘導、監視だな」
ちなみに副団長は確保しています。エヴァンス様が帯電するシルヴィナ様の翼に挿してビリビリさせていますね。
これで義妹の冥婚の儀を邪魔する者は居なくなったとエヴァンス様は満足気です。




